線引きをしていたはず、だったのに


深入りしないようにと、ずっと自分に言い聞かせていた。
距離を置いて、必要以上の接触は避けて…そしてお父さんが死んだと聞かされた時、夢も臣くんへの恋心も何もかも全部天鵞絨町に置いていこうと思った。捨ててしまおうって、それで…お母さんの実家のある町で就職しようってそう思ったんだ。

――― 一緒に作ろう。遥ちゃんの好きなこと、したいこと、MANKAIカンパニーで叶えてみない?

そんな私を掬い上げてくれたのは、いづみさんの言葉だった。そしてそのきっかけを作ってくれたのはお母さんだった。私が演劇が好きで、曲を作ることが好きで、そして…MANKAIカンパニーが大好きだってことを知っていたから、見抜いていたから。私の夢を、知っていたから。
きっといづみさんとお母さんがいなければ、私はこの温かくて素敵な居場所を失っていたんだろうと思う。絶対に後悔をするとわかっていながら、手離していたんだと思う。
けれど、あの時はそれが一番いいと思っていたんだ。どっちにしろ、私は演劇に関わることは大学卒業するまでって勝手に決めて…卒業した後は古書店を継ごうって考えていたから。考えて、考えて、考え続けて辿り着いた答えが、そこだった。

「はる?こんな所で何してるんだ?」
「臣くん」

昔のことを思い出していたら、臣くんに声をかけられた。中庭のベンチでボーッとしているように見えたから、心配になったみたい。
大丈夫だよ、具合が悪いとかではないから。ちょっと昔のことを思い出していただけだから。

「昔?」
「うん。いづみさんと出会った日のこととか、咲也くんに出会った日のこととか、…あとMANKAIカンパニーに曲を提供するきっかけになった日のこととか」
「ああ…カントクからお前が曲を作ってくれていたことを聞いた時、皆驚いてたな。俺も驚いたけど」

うん、それはもう驚かれました。あの時、知っていたのはいづみさんと綴くんと左京さんだけだったから。支配人はどうだったのか知らないな…もしかしたら、いづみさんが話していたかもしれないけど。
何で教えてくれなかったんだ、って結構聞かれたけど、いまだに本当の理由は話していない。だって聞かされていい気持ちになる理由ではないから。この理由は、墓場まで持っていこうって決めている。臣くんにだって話そうとは思わない。本当に私だけの、秘密だ。

「人生ってどう転ぶかわからないよねぇ…」
「なんだよ、急に」
「んー?まさかMANKAIカンパニーにこんなに関わることになるとは思わなくて」
「いいんじゃないか?…お前の、夢だっただろ」
「―――うん」

演劇に関わる仕事がしたい。お父さんと一緒に曲を作りたい。
ひとつの夢はもう二度と叶うことはないけれど、もうひとつはきっと私が諦めない限り、そして捨てようと思わない限り―――これから先もずっと、続いていくんだと思う。ううん、捨てたくないし諦めたくない。できる限り、私はここで皆を彩るいろを作り続けていきたいって思う。
- 92 -
prevbacknext
TOP