その横顔に見惚れてしまう
その日は珍しく秋組の皆で、お昼を外に食べに行こうって話になった。
左京にぃも仕事が落ち着いてお休み、万チャンも十座サンも臣クンも俺も課題も用事もない休日で。おまけに他の組の皆はバイトだったり、客演の稽古だったりでほとんどの人が出かけてしまっていたから、それならたまには外に食いに行くかってなったんだよね。休日の昼くらい、臣クンを休ませてあげようって。
本人は好きでやってるから別にいいのに、って笑ってたけど、たまには休まないとまたぶっ倒れちゃうからダメ。
side:太一
全員の食の好みが違うから、っていう理由と、まだ昼だからっていうよくわからない理由で行先は駅前のファミレスです。でも秋組でご飯行くってなかなかないから、ちょっとワクワクするッスよね!
休日だから混んでるかな、と思ってたけど、お昼時から少し外れた時間だったせいか意外とそんなことはなく、そこまで待たないで席へ案内―――されていた時、聞き慣れた声が聞こえたような気がして視線を巡らせた。
確か、今俺達が向かっている方から………あ、やっぱりはるチャンだ!
「臣クン、臣クン」
「ん?どうした、太一」
「はるチャンがいるッス」
「え?」
そういえば今日は用事があるからって、朝ご飯を食べた後出かけていったんだっけ。まさかこんな所で遭遇するとは思わなかったけど。そして案内された席がまさかのはるチャン達の、通路を挟んだ向かい側なんだけども。
さすがに左京にぃ達も気がついたらしくビックリしてる。俺と臣クンはそんな皆を見て笑ってしまった。ごめんね、でも3人揃ってビックリした顔するからちょっと面白かったんだ。
「は?遥ちゃん?!」
「へ?…あれ、珍しい。秋組が勢揃いだ」
万チャンに声をかけられてようやく気がついたらしいチャンは、ビックリしつつも見慣れた笑顔で手を振ってくれた。
その向かいの席には眼鏡をかけたイケメン、はるチャンの隣にはふわふわ髪の可愛い人が座っていて、テーブルの上には飲み物が入っていたであろうコップと…紙やノート、筆記具が広げられていた。勉強…って感じじゃないな、何となく。
「勉強ッスか?はるチャン」
「ううん、サークルの話し合いだよ」
サークル……あ、前に臣クンが演劇のサークルに入ってるって教えてくれたような気がする。ということは、一緒にいる2人はサークルの人なのか。
ひとまず通路に立ったままだと邪魔になっちゃうから、案内された席に座ることにした。店員さんが知り合いなら奥の広い席にご案内しましょうか、って気を利かせてくれたけど丁重にお断りしました。
…あ、それなら違う席に案内し直してもらう方が良かったんスかね?でもそれだとあからさますぎて、逆にはるチャン達に気を遣わせちゃう気がする。
俺達は全然いいんだけど、はるチャン達が気にしないかなって…大丈夫かな。さすがに万チャンと十座サンも店の中で派手なケンカはしないと思うけど。
意識はそっちに向かいつつ、メニューに視線を向ける。だってここにはお昼を食べに来たんスもん!お腹は空いてるからね、ガッツリ食べるッスよ〜。
「音響は?メインしのでいく?」
「んや、今回はサブ。メインは私じゃなくって2年の…」
「ああ、あの子か。いんじゃね?センス良かっただろ」
「そうだね、その辺も引き継いでいかないとだもんな…曲は?作るの?」
「メインとBGM必要な所は…効果音は無理だから集めるけど」
「衣装はどうする?イチから作るか?」
「今回は現代劇だから、リメイク中心でいいんじゃないかな…どっちかと言えば、小物とかに力入れたい」
「小物かぁ…めっちゃなかったっけ?必要なやつ。―――というかさ、そんなにじっと見られるとさすがに恥ずかしいんだけどな?貴方達…!」
はるチャンにジト目で見られてハッと我に返った。
やっべ、いつの間にかじっと見つめて聞き入っちゃってた。珍しく左京にぃもそっちに意識を向けていたらしい。
「いやー、遥ちゃんがそんな真剣な顔で演劇の話してんの初めて見たなって思って」
「……お前、今度ウチの企画会議も参加してみるか?」
「え、何でですか」
「面白い意見を出してくれそうだ」
この左京にぃのトーン、割とガチなやつじゃないッスかね。はるチャンは訝し気な表情っていうか、本気で嫌だって感じの顔でめっちゃしかめっ面してる。
そんな顔もできるんスね…結構、表情がコロコロ変わる人だっていうのは知ってるけど、こんな表情は初めて見た気がする。あんまりしないよね、多分。
でもさっきみたいな真剣な表情で話をしているはるチャン、めっちゃカッコ良かった。
「……………」
「しの?」
「話そうとした内容、全部すっ飛んだ…!」
大きなため息を吐いて、はるチャンはそのままテーブルに突っ伏した。髪の隙間から見えた耳が僅かに赤くなっているから、どうやら時間差でじわじわと照れてしまったらしい。そして話そうとしていた内容が全部すっ飛んでしまった、と。
…うん、何かごめんッス。それ俺達のせいでもあるよね?絶対。
「ははっ集中力も切れちまったんだろ、ずーっと話してたしなぁ」
「今日はこの辺にしとこっか。どっちにしろ、他の皆にも共有して進めていかないといけないし」
「ごめーん………」
「別に東雲のせいではないだろ。人間、そう長くは集中力はもたない」
大分長い間、此処で話をしていたらしくはるチャン達は解散することにしたらしい。突っ伏していた彼女もグッと伸びをして、広げていたノートや筆記具を片付け始めた。
この後、はるチャンはどうするんだろ?そのまま真っ直ぐ寮に帰るのかな?それとも3人で何処かに出かけたりするのだろうか。真っ直ぐ帰る予定なら、俺達と遊んでくれないかなーってちょっと思ったりする。
でも友達と一緒なのにこの後の予定を聞いてもいいものか悩んじゃって。だってあんまりいい気がしないじゃん?目の前でそんなこと聞かれるの。気にしないタイプの友達だったとしても、なんか…常識的に?
「んじゃ私達はこれで。皆はお昼でしょ?」
「おー。遥ちゃんはそのまま帰んの?」
「うん、そうなるかな」
「この後、買い物行くんだよ。良かったら来ねぇ?」
おお、万チャンスマート…!
友達の2人が先に行ったのを見計らって、声をかけたんスかねぇ?
「ん、いいよ。適当に時間潰してるから、此処出る時に連絡ちょうだい」
また後でね、と手を振って、はるチャンは友達の後を追っていった。