安らぎの場所


同室である臣クンの寝顔を見たことは、そんなにない。俺の方が眠るのが早くて、起きるのが遅いから、見たことがそんなにないのは当たり前なんだけど!
合宿の時はどうだったっけ…結局、臣クンや左京にぃに起こされたような気がするんだよね。
まぁ、何が言いたいのかと言いますと…臣クンが、談話室のソファで眠ってるんスよ!珍しく!!しかもはるチャンの肩にもたれかかって!!!

 side:太一

あーちゃんとストリートアクトをやって帰ってきたら、寮内は割と静かだった。休日だし、皆出かけてるのかもしれないなーって思いながら談話室のドアを開けたんだけど、いつも聞こえる臣クンのおかえりが聞こえなかったんだよね。出かける前は確かにキッチンでお菓子作りをしていたのに。
その代わり、聞こえたのははるチャンの声だった。彼女はソファに座って、何やら本を読んでいたみたい。談話室に入ってすぐキッチンに目を向けちゃってたから、ソファに意識が向いてなかったみたい。
もう一度ただいまと口にしながら、俺は目を見開いた。あーちゃんなんか途中で黙り込んじゃったからね。

「大丈夫?莇くん」
「だ、だ、だいじょうぶ……!」

きっとあーちゃんにとって、今目の前に広がっている光景も照れてしまうものなんだろうなぁ。
思っている以上に恋愛方面に初心なあーちゃんは、ちょっとしたことでも顔を真っ赤にしちゃうから。臣クンが起きていたら何してんだ!って叫んでたのかな。

「珍しいね、臣クンがうたた寝してるの」
「お菓子作りが終わった後、パタッと寝ちゃったのよね。疲れてたのかも」
「…臣さんってあんまりこういう姿見せないよな」

あーちゃんの言っていることはよくわかる。俺達が知っている臣クンって、いつでも何かをしているんだよね。止まっている時間がないというか、…お菓子作ってたり、趣味の手芸をむっちゃんや幸チャンに教えていたり、仕込みをしていたり、至サンの夜食を作っていたり…その他エトセトラ。
唯一、落ち着いて座っているとすれば、コーヒーを飲んでいる時くらいかなぁ。部屋でもカメラの調整や掃除をしていたり、課題をやっていたり、写真の整理をしていたりするし。あんまりゆっくりしている所って見ないかもしれない。
大丈夫なのかな、って心配になるんだけど、本人は至って普通なんだよなぁ。好きでやってるから大丈夫っていうのが臣クンの意見です。
確かに料理している時も、お菓子作っている時も楽しそうだけど…さすがに課題やっている時とかは、眉間にシワ寄ったりもしてるけど。それはね、さすがに楽しいってものではないし…俺も宿題や試験勉強してる時は楽しくないもん。楽しい人も世の中にはいるんだろうけど。

「まぁ、そうだね…気を張ってるわけじゃないとは思うけど」
「ふぅん…無理してるんじゃないならいいけど」

そう呟いたあーちゃんの目に浮かんでいるのは、心配の色だった。

「大丈夫だとは思うよ。好きでやってることが多いのは確かだけど、息抜きもしてるから」
「そっか、…それなら俺っち達も安心かな」
「ふふ、心配してくれる仲間もいるしね」

パタン、と本を閉じて、臣クンを見つめるはるチャンの目はとても優し気で慈愛に満ちているようだった。臣クンのことが心の底から愛しいんだ、と言っているようで。
2人のこういう関係性が、俺はとても好きだった。きっと臣クンが安らげる場所なんだろうな、はるチャンの隣って。俺達秋組や、寮はまた少し違うだろうから。
もちろん臣クンが困っていたりすれば、皆喜んで手を貸すけど。はるチャンの隣は、そういうものとはちょっと違うんだろうなって。

「ちょっと冷えてきたし、かけるもの持ってくる」
「ありがとう、莇くん。冷蔵庫に臣くんが作ってくれたおやつが入ってるから、戻ってきたらどーぞ」
「わかった」
「あ、じゃあ俺っち飲み物用意しておくね!はるチャンも飲むでしょ?」
「じゃあ…もらおうかな」
「お任せあれッス!」

キッチンに行く途中でそっと振り返り、まだはるチャンに寄り掛かってスヤスヤと眠る臣クンの後ろ姿を盗み見る。
平和で、幸せな光景に口元が自然と緩んだ。ずっと、ずーっと2人には仲良しでいてもらいたいッス。
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