そんな時もあるよってことで


「―――ひっつき虫?」
「ああ、おかえり太一」
「ただいま、臣クン」

カバンを置く為に部屋に戻ってきたら、そこには臣クンと―――ピクリとも動かないはるチャンがいた。

 side:太一

臣クンと俺の部屋、105号室にはるチャンが訪ねてくることは別にそう珍しいことではないけれど、今の光景というか…状況?は、結構珍しいかもしれないと思う。というか、本当に全く動かないまま臣クンの背中に引っ付いてるんだけど、大丈夫?ねぇ、これ大丈夫?
さすがに心配になって、こっそり臣クンにどうしたのか聞いてみたら、臣クンも何でこの状態なのか聞けてないんだって。突然、部屋にやってきて無言のまま背中に引っ付いてきて―――今に至る、と。ピクリとも動かないのは、恐らく寝てるんじゃないか?って。
ああ、成程…?人の体温に触れてると、眠くなることあるもんね。

「はるチャンがじっとしてるのって、何か珍しいかも」
「言われてみればそうかもな…動いていないと落ち着かないらしい」
「昔からそうだったの?」

俺がそう問いかけると、臣クンは顎に手を当ててしばし考え込んだ。やや間を置いて返ってきたのは、「中学にあがった頃からはそうかも」という言葉。
どうやら小さい頃はそこまでではなかったらしい。どちらかと言うと、外で遊ぶよりは家の中で本を読んだりする方が好きなタイプだったって。臣クン曰く、はるチャンの実家が古書店を経営していたのも関係あるのかもなってさ。
本に触れる機会が多かったから、今でもはるチャンの趣味は読書らしいです。確かに談話室や2階の共有スペースで見かける時、本を読んでいることが多いかも。紬さんとオススメの本の話をしているとこも、見かけるもんね。

「へぇ…はるチャンって割と外出してること多いから、アウトドア派かと思ってた」
「家にいるのも、外に出るのも今は割と好きみたいだぞ」
「そうなんだ」

誘ってやれば、予定がない限り快諾すると思う。
いまだ背中にひっついたままの彼女の頭を撫で、臣クンは穏やかな笑みを浮かべている。
愛しい人を見つめる甘い蜂蜜色は、対はるチャンでない限り絶対しないであろう色だと思う。俺もそんなに見たことないし、見たことあるのって多分はるチャン以外にはそうそういないと思うんだよね。俺みたいにたまたま居合わせた、とかじゃない限りは。2
人共、そういう所を弁える人だから皆がいる所とか、いつ・誰が来るかわからない場所ではあまりくっついたりしないしね。距離感は近いけど、でもそれはつき合う前からのことだから今更誰もツッコんだりはしないし。
だから臣クンのこういう顔は、知られていないと思う。皆には。

「んん……」
「お、起きたか?」
「おはよ、はるチャン」
「…おはよ……?」

埋められていた顔がゆっくりと上がり、寝ぼけ眼のはるチャンがそう呟いた。
うん、完全に寝起きだなぁ…こんな風にぽやぽやしているはるチャンも珍しいよね。

「俺っち、何か飲み物取ってくるよ。臣クンとはるチャンの分も!」
「あ、飲み物なら俺が…」
「臣クンはゆっくりしてて大丈夫。俺っちにお任せあれ!」
「じゃあ…お言葉に甘えようかな。ありがとう、太一」

寝起きだからかはるチャンからの反応は鈍い。というかまだ状況を飲み込めていなかったり、もしくは半分夢の中なんだと思う。それでも緩慢な動きで手を振ってくれたから、それに振り替えして俺は部屋を出た。
薄っすらと聞こえてきた2人の会話に、ゆっくり飲み物の準備をして、それからお茶菓子を探して…なるべくゆっくり、部屋に戻ってこようと誓った。
はるチャンが臣クンに癒される時間が、少しでも長くあるように。
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