お手伝い、2回目


夏組第二回公演の手伝いの件を引き受け、無事にお母さんの許可も取り、あれから1週間が経ちました。いづみさんからテーマが決まったよ!とLIMEがきていたから、そろそろ脚本が出来上がる頃合かなぁ。
実家の店番をしながらそんなことを考えていたら、スマホがメッセージを受信したらしくピロン、と軽快な音を立てた。誰だろう、とLIMEを開いてみると、皆木くんという珍しい子から。知り合って割とすぐに交換したけど、滅多に連絡しないんだよね。
そして肝心のメッセージはといいますと…オールひらがなで『きゃくほんできた』とだけ。うん、わかるけど、わかるんだけど…何でオールひらがな?大丈夫なのか?これ。


「臣くんと皆木くん本人が言っていた通り、これは倒れ込んでるパターンかなぁ…」


それ以上はメッセージが届く様子もなく、乾いた笑いを零し電源を落とした。でも脚本ができたってことは、近々お呼ばれするのかも。今回は最初から関わってくれると助かる、と言われているので、何ができるかわからないけれど全力でやろうと思います。もう開き直りました!
今回以降の手伝いはまだどうするか決めていないし、声がかかるのかもわからないから考えることはやめた。とにかく目の前の公演に集中したい。それで皆と一緒に良い舞台を作り上げたいから。1人で改めて気合を入れていると、またスマホがピロン、と鳴った。お、皆木くんかな……と思ったら、違った。臣くんだ。えーっとなになに…『良かったら夜、こっちに来ないか?』。こっちって寮のこと、だよね?臣くんの家じゃないよね?帰ってきてるなんて聞いてないし、帰るとも言ってなかったし。これはつまり、夕飯のお誘いってやつなのかなぁ。

(確か、お母さんは少し早めにお店を閉めて友達と久しぶりに会ってくる、って言ってたっけ)

じゃあ夕飯は適当に食べるよ、と話をしていたのは記憶に新しい。お店を閉めるのは18時だって言ってたから、それから買い物に行けばいいやと思ってたし、まだ食材も用意できていない。これはお誘いを受けた方が利口かな…臣くんが作ったご飯の方が断然美味しいし。
でも迷惑じゃないのかな?臣くんのことだから、勝手に誘ってきてたりはしないと思うけど。多分だけど、いづみさんや皆に許可をとっているはずだ。だったら、…お邪魔しても問題はないってことになる。…うん、行こうかな。


「お母さーん、私もお店閉めた後に出かけてくるねー」





18時にお店を閉めた後、私はMANKAIカンパニーの寮にお邪魔しています。すっごい賑やかです、相変わらず。


「はるチャン久しぶりっス!」
「あはは、うん。久しぶり、太一くん」
「遥、今回も手伝ってくれるんだって?衣装もよろしく」
「それはいいけど、私、役に立つ?」
「馬鹿犬より全然役に立つから大丈夫。今回は採寸とか買い出しとか、そこからつき合って」
「幸チャンひどいっすよー!!」
「うるさい」


こんなこと言ってるけど、瑠璃川くんだって太一くんの腕がメキメキ上達してることは知ってるし、認めてるっぽいんだよね。前回の公演の時、そんな感じに思えたもんね。今回だってきっと、太一くんにお手伝いしてもらうんじゃないのかなぁ。太一くんも楽しそうにやってたし。
私も、…うん、慣れてくると楽しいなぁとか思ってたんだよね。実は。瑠璃川くん本人に言っちゃうと「じゃあまた手伝って」って言われそうな気がしてたから。結果としては言ってないけどそうなりましたけど。バッチリお手伝いすることになったけれども!やるからにはしっかりやるけどね。
そういえば、皆木くんはいないのかな?もしかして部屋で寝てるとか?ちょうど近くにいた摂津くんに皆木くんの居場所を聞いてみると、そこ、と指差された。そこって…え?ソファ?でも三好くんと斑鳩くんしか見えないけどなぁ、と不思議に思いながらも近寄ってみれば、ああ成程、確かにソファにいるわ。ぐったりと横たわって爆睡している模様です。


「やっほ〜はるるん」
「あ、遥だ〜」
「こんばんは。三好くん、斑鳩くん」
「つづるんに用事だったりする?」
「そうなんだけど、…しばらく起きそうにないし、あとでにするよ」


突っ伏してるから顔は見えないけど、きっと気持ち良さそうに寝ているんだろうし。無理に起こされると眠気がひどいし、機嫌も損なわれるからねぇ。触らぬ神に祟りなしってわけではないけど、自然に起きるまでそっとしておくのが一番なのさ。脚本を見せてもらいたかったけど、帰るまでに起きなかったらいづみさんに頼もうかな。
いつから寝てるのかわからないけれど、メッセージがきた時間を考えると…そろそろ3時間くらい経っているはずだ。もしかしたらご飯食べ終わる頃には起きているかもしれないしね!…と、食べ始める前は思っていたんだけれど、皆木くんはよっぽど無茶をしていたらしく、ご飯を食べ終わり、片付けも済ませ、各々自由に過ごし始める時間になっても起きる気配が全くありません。


「起きないなぁ…」
「ここ数日、かなり無茶していたみたいだからな。コーヒー飲むか?」
「飲む。ありがと、臣くん」


周りで高校生組が騒いでいても起きないとか、爆睡中の爆睡じゃないか。どれだけ深い睡眠なんだ、あの子。
まぁ、今日脚本をもらわないといけないわけではないし、そもそも私は役者でもないのでなくても支障は全くないのだ。ただ私が彼の書く脚本のファンなだけ。だから早く読みたかった、というだけなんだよなぁ。最終手段としていづみさんに頼もうと思っていたんだけど、夕方から出かけてしまっているらしくまだ帰ってきていません。仕方ないか、…後日、またもらいに来よう。あんまり遅くまでいるのも迷惑になっちゃうし。


「ねぇ、遥」
「ん?どうしたの、瑠璃川くん」
「衣装用の布とか小物とか買いに行きたいんだけど、いつ空いてる?」
「水曜なら確実に空いてる。あとはー…日曜の午後ならまだ時間作れるかなぁ」
「じゃあ次の日曜、空けておいて。12時に天鵞絨駅ね」
「あ、はい」


トントン拍子に決まった予定に、思わずポカーン。向かいに座って全てを見ていた臣くんも、あまりの早さと手際の良さにちょっと驚いてるみたい。あ、臣くんの驚いた顔可愛いなぁ。
そんな私達には目もくれず、瑠璃川くんは忘れないでよ、それで遅れないでよ!と残し、談話室を後にした。


「幸ははるに懐いてるな」
「そうなの?まぁ、確かにアリスの衣装作りで距離は縮まった気がするけど…」
「他の団員とも打ち解けてるだろ。…少し、羨ましいな」
「へ?」
「…あ、21時回ってるぞ。時間平気か?」


一瞬だけ、臣くんが淋しそうな目をした気がした。でもそれはすぐに隠れてしまい、更に時計に向けられた彼の視線に釣られるようにして私も視線を外してしまったから、元の位置に戻した時にはもう見慣れた笑顔しか浮かべられていなくて。
さっきのアレは、私の見間違い?普段のように素直に問いかければいいのだろうけど、何だか…今日は聞いてはいけないような、触れてはいけないような気がして、出かけた言葉を慌てて飲み込む。
臣くんは昔からそうだ。人の気持ちには敏感ですぐ気がつくし、困っていれば手を差し伸べてくれるような性格をしているけど、他人には弱音とかそういうのを一切見せてくれない。幼なじみでつき合いの長い私ですら、彼の弱音や涙を目にしたのは恐らく片手で数えられるくらいだもの。


「―――出会って間もないいづみさんには、見せたのに…」
「はる?なにか言ったか?」
「ううん、何でもないよ。私、そろそろ帰るね」


じゃあ送っていくよ、といつもの様子で立ち上がりかけた臣くん。それを制するように今日は自転車だからいらない、と言葉を発した。それは寮にお邪魔して何度か繰り返されたやり取り、だけど今日は自分でも驚くくらい冷たい声音だった。
賑やかだったはずの談話室が、しんと静まり返る。目の前にいる臣くんも驚いていて、でもその顔を可愛いと思うような余裕はなくて思わず手の甲で口を覆った。今更そうした所でもう遅いんだけど。室内に漂う気舞う過ぎる空気に耐えられなくって(いや、そうしたのは私自身なんだけど!)、ごめん!とだけ口にして逃げるように寮を飛び出した。
臣くんが私の名前を呼んだけど、それに反応する余裕もないし、今はとにかく彼の傍から離れたくて仕方がない。自転車に飛び乗り、思いっきりペダルを踏んだ。





「臣、遥ちゃんとケンカか?」
「いや…ケンカした覚えはないんだが」
「はるチャンのあんな冷たい声聞いたの、初めてっすよ…」


知らないうちに気に障るようなことを言ってしまったのだろうか?去り際に見せた傷ついたような顔が、頭から離れない。突き放すような言葉を言ったのはそっちのくせに、そんな顔をするなよ。
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