かわいい子は正義!


皆木くんのお節介(すみません、優しさです)により、私は無事に臣くんに謝ることができました。彼はただ一言、何かしちゃったのかと思ったとだけ。深く聞いてくることは、一切しなかった。一言そう言って、いつものように私の頭を撫でて、何食わぬ顔でご飯に手を付けた。
深く聞かれたらどうしよう、という私の心配はただの杞憂で終わってしまいましたとさ。…いや、いいんだけど。聞かれてもどう答えたらいいかわからないし、全然構わないんだけど…何で淋しいとか思っちゃうかなぁ私。面倒すぎるでしょ、恋人でもないのに。ただの幼なじみなのに。


「ちょっとなにボーッと歩いてるの?ぶつかるよ」
「わっ…!あ、瑠璃川くん」
「全く、前くらいちゃんと見なよ」


考えごとしながら歩いていたら、どうやら人にぶつかりそうになっていたらしい。それを瑠璃川くんが助けてくれたみたい。
そう、今日は彼と一緒に衣装作りの布やら何やらを買いに行く日なのです。でもいつの間にか駅に着いてたのか、本当に気がついてなかったぞ私。ボーっとし過ぎにも程がある。助けてくれた彼にありがとう、とお礼をし、ICカードをかざして駅構内へ。
気持ちを切り替えよう、今日は衣装用のとはいえ買い物だし!気分転換だ、気分転換。


「駅で待ち合わせだったから電車に乗るとは思ってたけど、どこまで行くの?」
「5駅くらい先のとこ。知らない?布の問屋街」
「ああ…聞いたことあるかも」


衣装に使う布やら小物やらを買いに行くならそこが一番いい、品揃えもいいと聞いたことがある気がする。聞いたことがあるだけで行くのは今日が初めてだけど。どんな所か楽しみだな、と鼻歌でも歌いそうな気分になってきた時、はたと気がついた。
そういえば、瑠璃川くん1人なんだな。てっきりいつも衣装作りを手伝っている太一くんを連れてくるものだ、と思っていたのに。


「ああ、馬鹿犬?連れてくるとうるさいから置いてきた」
「あはは…そっか。でも他に男手なくて平気?結構な量になるでしょ」


お母さんの手伝いをしているから、力にはそこそこ自信があるけど男性にはやっぱり負けるもんね。当たり前だけど。


「それも平気。丞が帰りに拾ってくれるんだって」
「高遠さんが?」
「そう。何か紬とこっちに用事があるらしくて、その帰りに」


きっと月岡さんが乗せてあげよう、ってお願いしてくれたんだろうな。高遠さんも優しい人だと知ったけれど、どこか不器用で口下手な感じだから。こういうのが上手なのは月岡さんや雪白さんなんだろう、と勝手に思っている。学生組はわかんないけど。でも摂津くんとかエスコート上手そうだ。
まぁ、それはともかく、帰りの心配をしなくていいのならば買い込んでも問題はなさそうだね。何度も買い出しに行くのは大変だもん、できることなら一度で済ませてあとは衣装作りに専念した方が絶対いい。ちょっとしたことでも時間のロスになるのが目に見えてるから。


「じゃあ大丈夫だね」
「そっちこそ臣を誘ってるかと思った」
「え?何で臣くん?」
「だって仲良いじゃん、アンタら」
「そりゃあ…幼なじみだから、仲悪くはないけど」


早くつき合っちゃえばいいのに。
瑠璃川くんが呟いた言葉は、飲み物を飲んでいる時に聞いたら十中八九吹き出すくらい衝撃的だった。爆弾だ、爆弾。電車の中なのに思わずでっかい声出しかけちゃったじゃん!なんなの?私、誰にも言ったことないよね?臣くんが好きだ、ってこと。それとも顔に出てた?そこまで顔に出やすいタイプじゃないんだけど、…おっかしいなぁ。


「あ、本当に臣のこと好きなんだ」
「……え、」
「ふぅん、そっか」
「うっわー、マジか。最近の中学生怖い…」
「アンタ、隠すの下手じゃないのに焦るとダメなんだね。面白い」


面白くない。こっちは全く面白くないよ瑠璃川くん!!もー…なんだ、カマかけてたのか。うまくスルーしてればバレずに済んだってこと?マジでバカじゃないか、私。
別に瑠璃川くんが他の人に言いふらすとか、そんなことするとは思ってないけど…なんだろ、こういうのってあんまり知られたくないことですよねってアレです。どれ?って感じだけど、うん、察して!でもバレちゃったもんは仕方ないし、潔く腹括るしかないかぁ。
とはいえ、瑠璃川くんはそれ以上何かを聞いてくることはなくって、問屋街がある駅に着くまでの間はずっと次の公演の衣装の話ばかりしていたんだけどね。どうやらこの子、カマかけてきたにもかかわらずあまり興味はないみたい。私としては助かったけど。





「わ、話には聞いてたけど本当にズラリとお店が並んでる」
「この問屋街、布とかボタンとかだけじゃなくて服も安く売ってるお店がある。あとでつき合って」
「いいけど…」
「本当はオレの行きつけのお店に連れて行きたいんだけど、それはまた今度ね」


暗にまた出かけるよ、と約束させられました。いいけどさ。


「初めて会った時から、全身コーディネートしてみたくてウズウズしてたんだよね」
「私の?」
「そう。作ってみたい服もあるし、とことんつき合ってもらうから」
「それはいづみさんの方がいいんじゃないかなぁ」
「監督と遥じゃ色々違うんだよ」


そうなの?と首を傾げてみるけれど、そうだよとしか返答がなかったので詳しく聞くのはやめておくことにする。服飾のことはさっぱりわからないから、多分、説明されても頭上にたくさんのクエスチョンマークが浮かんで終了って感じがするし。詳しい瑠璃川くんがそう言うのだから、きっとそうなんだろう。でもやっぱり疑問に残るのは、私よりいづみさんの方がスタイルもいいし似合うんじゃないのか?ってことなんだけれど。そう言った所で彼に違うから、と一蹴されちゃうだろうし言わないけどね。
さて、話はそこまで―――早速、今日の本来の目的である布探しに繰り出すとしましょうか!もう彼の中でデザインは出来上がっていて、色とかももう事細かに決まってるんだって。ちゃんとデザイン画も持ってきてくれているので、それを参考に布を探すことになりました。
しっかし、すごいなこの子!デザインからして半端ないわ。アリスで手伝うまで半信半疑だったけど、本当に瑠璃川くんが全組の衣装を作ってるんだなぁ。脚本家の皆木くんといい、フライヤー担当の三好くんと臣くんといい、衣装係の瑠璃川くんといい…すっごいメンツが揃ってると思う。本当に。


「ねぇねぇ、この色は?」
「色はいいけど、重すぎる。動き回る舞台には不向き」
「そんなに重いのか…」
「普通に仕立てるにしたって、ちょっと重いと思うけどね。オレ」


え、そうなの?!うわぁ、衣装作りって難しい…。前回は全部揃ってる状態だったから、こんなに苦労しているなんて知らなかった。舞台の手伝いをしていても、こういうことには一切携わってこなかったからなぁ。手伝いじゃなくて正式な団員になってたら、もしかしたらこういう場面にも出くわしていたのかもしれないけどさ。
そして何軒もお店を回り、何とか全部揃えることに成功しました…!こっちに着いたのがお昼過ぎで、今が15時過ぎ。そりゃあお腹も空くってもんですよ。まだ高遠さん達が来ないのであれば、どこかカフェにでも入りたい所だなぁ。


「遥、丞達もう少し時間かかるらしいからどこか入ろ。お腹空いた」
「あっ私も同じこと考えてたの!」
「ファーストフード?それともカフェ?」
「カフェかなぁ…ゆっくりしたいし」
「じゃあ駅前まで戻ろう。駅の裏に静かでいいとこがあるんだよ」


ああ、そうか。瑠璃川くんは公演がある度にこの問屋街に来て、今日みたいにたくさんの布を買ってるんだもんね。この辺りに詳しくて当たり前じゃん。1人納得しながら彼の後に着いていくと、確かに駅の裏に1軒のカフェがひっそりと建っていた。
とてもレトロな外観で、カフェっていうより…ええっと、あのー…あ、そうだ!純喫茶!あんな感じなんです。うん、流れている音楽も静かでいい曲。クラシックなのかな?荷物が多かったからか、2人なのに4人掛けのボックス席に通されました。でも有難い。他のお客さんに迷惑かけずに済むし。


「あ、クリームソーダ…懐かしい」
「なに?そういうの好きなの?」
「んー…甘いもの好きだから。普段はコーヒーとか紅茶ばっかりだけどね」


それにオシャレなカフェだとクリームソーダなんて、メニューにないし。ファーストフードにはあったかなぁ、確か。


「瑠璃川くんの髪色みたいで綺麗だよね、これ」
「は、…はぁ?!アンタ何言ってんの!」
「だって似た色してるじゃん」
「〜〜〜っ…はぁ、アンタのそれって天然なの?ずいぶん厄介なんだけど」


何で彼が頭抱えて項垂れているのかがわからない。
程なくして迎えに来てくれた高遠さんと月岡さんに、さっきのことを瑠璃川くんが説明すると2人もさっきの彼のように頭抱えて項垂れられました。え、なんで?
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