さみしいと言ってくれ
俺の幼なじみは表情が豊かだと思う。よく笑うし、怒るし、拗ねるし、泣く。大げさに表現すれば、1秒ごとに表情が変わっているんじゃないかってくらいだ。
…でも、表情は豊かなくせに自分の気持ちを言葉にしたり、表に出すことだけは誰よりも苦手だったんじゃないかな。いや、気持ち全般っていうより淋しいとか、悲しいとか、マイナスの気持ちをって言った方が正しいか。嬉しいこと・楽しいことは、こっちも釣られて笑っちまうくらいの笑顔と弾んだ声で教えてくれていたから。
side:臣
幼い頃はもう少し、マイナスの気持ちも言葉にしていた気がする。それが徐々に減っていったのはきっと、アイツの親父さんが行方知れずになってからだと思う。いつだって笑顔を絶やさなかったけど、その頃からは余計に笑っていようと頑張っている気がしてたし、空回っていたというか…無理に笑っているような、気がしてたんだ。
元気か?って聞けば、パッと見慣れた笑顔を浮かべて元気だよって言う。大丈夫か?って聞けば、同じような顔で大丈夫だよって言う。何度か泣いてる所を見たことがあっても、弱音を吐かれたことはなくて。何の為の幼なじみだよ、と思ったことは一度や二度じゃない。
(―――ただの幼なじみには、弱音は吐かないか)
色んな面を見てきてるし、誰よりも近い場所にいるって自負している。その自信はどこからくるんだ、と我ながら思うけど、その自信だけは昔から人一倍強かった。アイツのことを一番理解しているのは自分だ、って。
そう思ってはいたけど、…いや、今でも思ってはいるんだけどな?よくよく思い返してみれば、理解していないというか知らない部分も多々あるんだな、と。
それもそうだ。幼い時と違って何でもかんでも口にしているわけじゃないし、話しているわけでもない。俺だって実家を出ることは伝えたけど、劇団に入ることと寮に入ることは言わなかったから。まぁ、事情があるにはあったんだけど。
「頼ってほしい、って気持ちは前からあったけど…」
それがどういう気持ちからくるものなのか、俺にはわからない。大事な存在なのには間違いない。
そりゃあ幼なじみなんだから当然なんだと思うんだが、何かが―――違う、と俺の中の誰かが叫んでいる。
「臣クン?考え事ッスか?」
「…太一、」
「最近、ずっとボーッとしてる。何かあったの?」
課題のレポートをしていたはずが、いつの間にかぼんやりと意識を飛ばしてしまっていたらしい。共同のテーブルの上で同じように課題をやっていたはずの太一に声をかけられ、ハッと我に返った。…しまった、最後に覚えのある画面と何ら変わりがねぇ。割と早めに飛んじまってたんだな。
「うーん…何かあった、ってわけじゃないんだが」
「ならいいっすけど。…そういえばはるチャン大丈夫なんすか?」
「え?」
「ほら、監督先生が公演の手伝いに来れなくなったって言ってたから」
団員の皆にははるの親父さんが亡くなったことは伏せてある。プライベートなことだし、まだそこまで関係が深くなっているわけでもないから、そのことを知っているのは俺とカントクと左京さんだけ。皆にはただ手伝いに来れなくなってしまった、とだけ伝えてある。
詳しく聞かれたらどうするかってことは、事情を伏せようと話をした時に相談もしたけれど、不思議と全員がすんなりと納得したらしい。夏組の奴らは残念そうにしていたけどな。でも仕方ないから、今度来た時に撮ったやつを見てもらうんだって三角と椋と一成が盛り上がっていたのを覚えている。
「たまに大学で会うけど、元気にしてるぞ。まだ忙しいみたいだけどな」
「そっかー…でもいいなー、臣クンと綴クンは大学で会えるじゃん?俺っちもはるチャンに会いたいっすよ〜」
「…事が落ち着いたらまた遊びに来るんじゃないか?」
俺がそう言えば、太一は嬉しそうに笑った。どうやら太一ははるにかなり懐いているらしい。今までそれを微笑ましく見ていたし、思っていたはずだったのに―――何で、こんなに胸がざわつくんだ?弟みたいに思っている太一を、疎ましいと思ってしまいそうな自分にゾッとする。
ふるり、と頭を振ってパソコンへと向き直った。きっと課題が思うように進まなくて、それでイラついているだけだ。これがひと段落して片付いてしまえば、このよくわからないモヤモヤした気持ちも何もかも消えるだろ。全ての気持ちを押し隠すようにして、キーボードを叩き始めた。
「…臣クンって案外、自分の気持ちに鈍いのかもしれないッス」
考え込んだり、ボーッとする時間が増えたのってはるチャンがこっちに来なくなってからなんすよ?眉間にシワ寄せることも増えたし、溜息も増えたかなぁ。皆と談話室にいる時は割と平気だけど、部屋に戻ってくるとそんな感じだから最初は俺っち何かした?!ってビクビクしてたけど。
でも気がついた、臣クンはきっとはるチャンのことが心配で仕方ないんだって。俺っち達が知らない彼女の事情を、この人は知っているんだろうから。