ファインダー越しにキミを見た
衣装は無事完成。最後の直しも終わって、役者陣からのOKも、幸ちゃんからのOKも出て本日はフライヤーの撮影日です。
さすがにデジカメで撮影するわけにもいかなくって、だからといって臣くんに一眼を貸してっていうのもちょっと怖くてできなかった。最終的に写真部の知り合いに使ってないカメラを借りる、という手段に出たわけです。でも一眼なんて使ったことないから何度も何度も練習して、データを臣くんと一成くんに確認をしてもらい、これなら大丈夫と花丸をもらえた。
自分で無理矢理頼み込んだんだもん、下手なものは撮りたくないから努力は惜しまないよ。だってフライヤーは言わば、舞台の看板みたいなものだから。フライヤーに惹かれなければ、内容を知らない舞台を観に行こうって思うことは少ないって、私はそう思ってる。だから皆の魅力を、最大限に引き出したいんだ。
「うん。フルーチェさんとセッツァーはこれでOKっしょ!」
「じゃあ次は、…十座くん、お願いします」
「うっす」
『異邦人』はSFというか、近未来的というか、そんな世界観なので衣装も割と個性的だ。その中でも万里くん演じるドムに付き従うジョンの衣装は、なかなかに面白いと思う。あのゴーグル、前は見えているらしいんだけどこっちから見ると瞳が見えないから、本当に大丈夫?って目の前で手を振った記憶がある。衣装合わせの時に。
あれは万里くんに盛大に笑われて、結局、ケンカに発展しちゃったんだよなぁ…こうもケンカばっかりされると、ちょっと心配になるよね。舞台上では息ピッタリのイメージなんだけどなぁ。旗揚げ見た印象だと。
(…っと、今は撮影に集中しないと!)
危うく意識が別の所に飛ぶ所だったよ。撮影後は稽古だって言ってたし、重要なフライヤー撮影だとはいえ、必要以上に時間をとらせるのは良くない。なるべく迅速に、且ついい写真を撮らなくちゃいけない。そう思うと臣くんのカメラの腕ってすごいんだなぁ。
そんなことを考えながら私は、ひたすらにシャッターを切る。…うん、いい感じ。それから予備に何枚か撮って、十座くんの撮影も無事終了です。最後は主演と準主演の2人だ。この2人の写真はフライヤーの表を大きく飾るから、尚更気合を入れて撮らなくちゃね!
「よろしくな、はる」
「よろしくッスー!」
「うん、頑張ります。こちらこそよろしくね、2人共」
「はるるん、こういうアングルで撮りたいから…ちょっと下からのがいいかも」
「ん、リョーカイっす」
ポーズや構図の指定は完全に一成くん任せ。フライヤーのデザイン自体を彼がやってくれているから、その方がイメージ通りに仕上がると思ってね。表情は私もちょっと口出しするけど、でもそれ以外は全部丸投げ状態。そりゃ写真を選ぶのは私も一緒にするとは思うけどさ…フライヤー作りに参加するのも、その撮影に参加するのも初めてだから。下手に口を出すより、何度も経験している人に任せてしまうのが一番いいと思ってる。
いいものを作りたいなら、尚更かなぁ…これからも引き続き、撮影に参加していくことになったらこんなのがいい!とか要望を口にするかもしんないけど。だけど、今回は最初だから。私自身、失敗しないように必死だよね。探り探りだよ、さっきからずっと。
背景にあるのは一台のバイク。太一くんはそれに跨ってもらい、臣くんはその手前に立ってもらう。目線は2人共、こっちにしてもらった方がいいな…んで、太一くんは笑ってもらって、臣くんは仏頂面。それぞれのキャラクターを意識すると、そんな表情をしてもらうのが一番いいと思う。
アングルを変えて何度もシャッターを切って、気がつけばそれなりの枚数を撮ってしまっている自分がいた。そのまま裏面に使う立ち姿の写真も撮り、臣くん達の撮影も無事終了です!あとは写真を確認して、どれを使うか決めるだけ…!はー、すっごい緊張した。大丈夫だったかな、私。ずっと眉間にシワ寄せてた気がするんだけど。
「はるるん、眉間のシワヤバイよ」
「え。」
「ほら、たいっちゃんが怯えてる」
「う〜…はるチャン、俺っち何かしたッスか?!」
「あ、ごめん。大丈夫、何もしてないから」
へらっと笑みを浮かべてみると、涙目の太一くんはあからさまにホッとした顔になった。あ、そんなに怖かった?眉間にシワ寄せてた自覚はあるけど、怯えられる程にひどかったとは思わなかったよ。
ほんと集中してると周りの視線とか、音とか、一切気にしなくなるからなぁ。
「あんな表情で撮って大丈夫なのかよ、遥ちゃん」
「む。写真と撮る側の表情は関係ないでしょ…」
「そうでもないぞ?撮る側の表情が怖いと、被写体にも影響は出るからな」
ほら、太一がいい例だろ?と臣くんに言われてしまうと、もう言葉に詰まってしまう。慌てて撮ったばかりのデータを確認してみると、何とか大丈夫でした。…最後の方だけ、太一くんの表情が若干強張っているのは見ないフリです。これは気のせいです、絶対に気のせいです。
でもそれを運悪く万里くんに見られてしまって、臣の言うこと合ってんじゃんって笑われた。知ってるよ!私も今、正に実感したよ!!
「まあまあ、落ち着いて?遥ちゃん。撮影は終わった?」
「うん、何とか。もう稽古の時間ですか?」
「時間までもう少しあるけど、早く終わったなら繰り上げで始めようかなと思って」
それを聞いた秋組の皆は、衣装から稽古着に着替える為ゾロゾロとこの場を離れていく。さて、私は一成くんと写真を選んで、フライヤーのデザインを完成させますか…!
「あっ衣装はちゃんとハンガーにかけてレッスン室に置いておいてねーあとで回収に行くから!」
適当に放り投げておくと、幸ちゃんの鉄槌が下ります。と去っていく背中に声を掛けると、5人揃って肩がビクッて震えてちょっと面白かったです。衣装をぞんざいに扱った時の幸ちゃんは、本当に鬼の形相になるからねぇ…衣装作りとか、衣装全般で彼に逆らうのは良くないってことだ。誰よりも知識と腕があるからね。
「じゃあフライヤーは任せたからね!一成くん、遥ちゃん」
「めっちゃいいやつにするから、期待していいよン♪」
「任せてください」
機材を片づけ、フライヤーを完成させるべく一成くんの部屋へお邪魔することに。休日だったこともあり、ルームメイトである椋くんも部屋にいた。真剣な顔で少女漫画読んでて可愛いなぁ…秋組の公演が終わったら時間も余裕もできるだろうし、おススメの少女漫画を借りてみるのもいいかも。
ちょっとだけズレた思考回路を引き戻し、パソコンに取り込まれた写真のデータへ視線を移す。こうして改めて見ると、結構な枚数撮ってたんだな。ある程度の自覚はあったけど、ここまでだとはさすがに思わなかった。最初っからめちゃくちゃ飛ばしてたのね、私。
「あ、それって秋組のフライヤー用の写真ですか?」
「そうだよ、今撮ってきたの」
「えっ遥さんが撮ったんですか?!」
「はるるん、思ったより写真撮るの上手いよ。今度、むっくんも一緒に撮ってもらおー!」
「それは臣くんに頼みなよ……あ、その左京さんの表情、いい感じかも」
「セッツァーはこれで、ヒョードルはこっちかな」
「…この太一くんと臣さん、すっごく雰囲気が出てて素敵です!!」
椋くんが指差したのは、さっき軽く見返した時に私が一番よく撮れてるな、と内心自画自賛したやつだった。一成くんもだよね!テンアゲだよね!!ってテンションめっちゃ高い。嬉しい、嬉しいけどちょっと恥ずかしくなってきたよ。
まぁ、それは置いておいて…臣くんと太一くんの写真は、椋くん絶賛のもので満場一致。裏面の写真もすんなり決まり、一成くんがデザインしたレイアウトに写真をはめ込んでいく。へぇ…こうして作ってたんだね、MANKAIカンパニーの舞台のフライヤーって。
一成くんが黙々と文字を打ち込んでいくのを感嘆の息を吐きながら見つめていると、ふっと視界に首からぶら下げたままのカメラが映る。何となしにデータを開き、さっき見たばかりのはずの写真たちを1枚1枚また目を通していく。その手が止まったのは、普段の表情よりもやや硬め…というか、見慣れた笑顔を一切浮かべていない臣くんの写真だった。
(ああやっぱり、カッコいいなぁ。臣くんは)
柔らかく笑った顔も好きだし、ちょっと困った顔も好きだし、驚いた顔ももちろん好きだ。この写真のように仏頂面の臣くんだって、すごくカッコイイ。つまりは、どんな臣くんだってカッコイイし好きだってことなんだけど。
今回の公演が臣くんにどんな影響を与えるのかわからないし、それがプラスに働くかマイナスに働くかもわからない。しいて言えば、今の所は完全にマイナスに働いているようにしか感じなくて。漠然とした不安がずっと心の中にある。
願うのは、どうかまた大好きな笑顔が見れますように。