不器用すぎる先輩


俺が通う葉星大学には、同じ劇団に所属する先輩が2人いる。1人は同じ学部で、もう1人は違う学部。そしてその2人は生まれた時から一緒にいるという幼なじみ。学部が違っても時々、一緒に昼メシ食ってたり、帰ったり(まぁ、これは帰る場所が一緒だから当たり前なんだけど)、図書館で勉強してたり…俺からすれば、見かける度に相変わらず仲いいなぁって思うくらいだった。万里なんかはあれでつき合ってないって嘘だろ、って言ってたし。
でもやっぱり学部が違うし、お互いに友達もいるだろうから四六時中一緒ってわけじゃない。だから一緒にいない姿も、そりゃあ目にするわけだよ。そういうわけだから一緒にいない姿を見ても、別段不思議に思うことはなかったんだけど…ここ最近は、ちょっと別だ。


 side:綴


その先輩っつーのは伏見さんと東雲さん。2人共、寮で暮らしてるから寮内でのんびりお茶してたり話してたりする姿もよく見てたんだけど、最近はそれをめっきり見なくなった。もっと詳しく言えば、一緒に料理してる姿もあんまり見てないかも。前はさ、伏見さんが当番だと東雲さんがフラ〜ッと来て手伝ってたんだ。それがなくなった…気が、する。というか、寮内で東雲さんの姿を見ることが減った気がするんだよなぁ。
不思議に思って大学で会った時に聞いてみたら、何かサークルとかゼミの課題が忙しいんだと。だから大学の図書館とか、部室に籠ってるから帰ってくるのも遅いらしい。それがかれこれ、2週間くらいだったかな。続いてる。最初はそうなんだ、って納得してたんだけど、ここまで続くといやおかしいだろ!ってなるだろ?
伏見さんは多分、普通。今までと何も変わってない―――と、思う。でも東雲さんが変なんだ。伏見さんのことを避けてるような、そんな気がしてる。それに気がついたのはつい最近だけど。ケンカしたのか?って思ったけど、さっきも言ったように伏見さんは普通だからそうではないんだろう。前にこんな感じのことがあった時、伏見さんも様子がおかしかったし。


「東雲さんと何かありました?」
「え?」


気になることは本人に突撃しとけ。時と場合によるけど。
ってわけで、偶然食堂で一緒になったんで伏見さんとメシ食ってます。


「なんだ?急に」
「いや、最近大学でも寮でも一緒にいる姿見ないんで…ケンカでもしたのかな、と」
「…幼なじみだって言っても、四六時中一緒にいるわけじゃないさ」
「それはそうでしょうけど…うーん、なんつーか頻度が急激に減ったっていうか」


俺の勘違いならそれはそれでいい。でもチラッと見た伏見さんの顔は、ばつが悪そうな顔をしている。うん、これは何かあったんだな…ケンカっつーより伏見さんがやらかした感じか?けど、伏見さんがやらかすって想像つかないんだけどな。東雲さんは時々、突拍子もないことをするってことを知ったから、もしかして原因は東雲さん?いやいや、だったら伏見さんがこんな顔する理由がない。ばつが悪そうな顔をしているってことは、この人自身に原因があるってこと…だよな?多分。
これ以上、突っ込んで聞くのはさすがにマズいだろうか。最後の一口を放り込んでとりあえず、大人しく咀嚼していると伏見さんが口を開いた。


「何かあったというか、ケンカというか…」
「はい」
「俺がやらかしちまってな」
「……えっ伏見さんが?!」
「そんなに驚くことか?」
「いやぁ、伏見さんがやらかすって想像つかねっす…」


俺の推理、バッチリ当たってんじゃん。


「あれ、でも原因がわかってんなら解決方法なんて1つしかないと思いますけど」
「いや、まぁそうなんだが…色々と自分でもワケがわからない状態で」
「???」


なんか、…伏見さん自身も混乱してる?ズズッと食後のお茶を飲みながら続きを待っていると、ひとつひとつ言葉を選ぶようにして伏見さんは事情を話し始めてくれた。
東雲さんが他の人と話をして楽しそうにしていると嫌な気分になること、一緒にいると今まで以上に安心してしまうこと、どうしてだかわからないが触れたくなること、その結果傷つけるような真似をしてしまったこと―――戸惑いながらも語られる伏見さんの心情に、俺は思わずジト目になってしまった。
だってこの人、ここまできておきながらわかってないとか重症じゃないっすか?!さすがの俺でもそれが『何ていう気持ち』なのかわかるっつーの!どれだけ鈍いんだ、この人は…。不器用なのかもしれない、とは思ってたけど、それ以上に鈍感すぎてビックリだわ。


「…って綴、すごい顔になってるぞ」
「伏見さん…なんっでそこまでわかってるのに、結論までいきつかないんすか!!」
「へ?……え?」
「東雲さんが他の人と話をしてるのが嫌とか、一緒にいると安心するとか、ンなの結論は一個しかないでしょーよ」


勢い余ってガタンッと思いっきり立ち上がってしまった。だがしかし、此処は昼休みで賑わっている食堂だ。案外、自分以外の人間に興味を示す奴は多くない。これが男女だったら少しは注目されてたのかもしんないけど、男同士だし。だから余計に注目されないのかもな。
まぁ、多少は目立ってるっぽいけど。思いっきり立ち上がっちゃったし、そこそこの声量で叫んじまったし。それもこれも鈍感すぎる伏見さんが悪い。


「つ、綴…?」
「少女漫画並みにじれったいっすよ、いや、少女漫画の方がまだ展開早いか…?」


俺がブツブツ言ってたら、視界に入った伏見さんの顔がブワッと真っ赤に染まった。あ、ようやく辿り着いたんすね。


「わかりました?」
「あ、ああ…わかったけど、嘘だろ…?」
「残念ながら真実っす」
「…そうか…」


真っ赤な顔を隠すようにズルズルとテーブルに突っ伏してしまった。なんだこれ、伏見さんのこんな姿初めて見たぞ。珍しいもの見た。…でもそうか、もしかしたらって思ったことは何度かあったけど、やっぱり伏見さんは東雲さんのことが好きだったんだな。
東雲さんの気持ちも伏見さんに向いてるような気がしてならないんだけど、こればっかりは俺が何か言える立場じゃねぇし。そもそもあの人の気持ちはあの人にしかわかんないから。勝手に俺がそうかも、って思ってるだけで、実際は違うかもしれない。ただの憶測で物を言うべきではない。


「でも、…気がつくのが遅すぎたよな」


ボソッと呟かれた言葉と、伏見さんの諦めたような表情の意味が―――俺にはどうしてもわからなかった。
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