お前の真意が見えてこないんだ


綴からはるが東さんと飲みに行った、と聞いたのは、夕食の準備を手伝っていた時だった。あまりにも意外過ぎる組み合わせで、何も言えずに固まったのは記憶に新しい。モヤモヤしたもんを胸の内に抱えながらも、アイツが誰と飲みに行こうが俺にはそれを止める資格も権利もないんだから、と無理矢理飲み込んだ。


 side:臣


夕食の片付けも、風呂も、明日の朝食の仕込みも全部済ませた。学生組が次々と部屋へ戻っていくのを見届け、淹れたばかりのコーヒーを飲みながらソファに腰を下ろす。向かいのソファには左京さん。この人もまだ寝る気配はない。…というか、スマホ片手に眉間にシワ寄せてる…仕事でトラブルでもあったかな。
纏うオーラはそうでもないけど、ひとまず声をかけるのはやめておくか。本当に仕事関連で何かあったんなら、俺なんかに話をしてくれるはずもないし。


「おい、伏見」
「はい?」
「東雲は酒に弱いのか」
「………は?」


何で急にはるの話に?疑問符を浮かべながらもええと、と必死に言葉を引っ張り出す。


「弱くはないですけど、でも強くもないかな…というか、やらかしたことあるから飲みすぎたりしないはずですよ」
「雪白からLIMEだ。東雲が潰れたらしい」
「あのバカ…!」


脱力。潰れる程、飲むなよ…思わず溜息を吐けば、おもむろに立ち上がった左京さんに行くぞ、と声をかけられた。行く?行くってどこに?相変わらず言葉が少ないな、この人は。
温くなり始めたコーヒーを一気に飲み干して、どこに行くんですか?と質問すると、迎えだ。と簡潔な言葉が返ってくる。簡潔すぎる気もするけれど、それだけで察しがついた。きっと、というか確実にはると東さんの所だな。どう考えたって潰れたはるを東さんが連れ帰ってこれるとは思わないし。だから左京さんにわざわざLIMEを送ってきたんだろうし。


「行くのは構いませんけど、…何で俺まで?」
「お前は東雲の保護者だろ」
「いやいやいや…幼なじみではありますけど、保護者じゃないですからね?」
「うるせぇ。ガタガタ言ってねぇで来い。ずっとソワソワしやがって」


気になって仕方ねぇんなら行った方が早いだろ。
それだけ言って左京さんはスタスタと談話室を出て行ってしまった。顔に出さないように、態度に出さないようにしていたつもりだったんだが、左京さんには通用しなかったか。このまま行かないって手もないわけじゃないけど、それはそれで左京さんに怒鳴られそうだな。
…それに気になって仕方ないのは本当だし、大人しく帰ってくるまで此処で待ってるっていうのも―――多分、できないだろう。だったら素直についていった方がいい。


「左京さんにも、東さんにも触れてほしくねぇとか…我ながら引くな」


左京さんの車に乗り込み、程なくして着いたのは一生来る機会なんてなさそうなバーだった。きっと東さんの行きつけとかなんだろう、此処は。
これは入るのにちょっと躊躇しそうだな、と苦笑していたのは俺だけで、左京さんは何でもない顔でドアを開けて中に入ってしまった。いやいや、何も言わずに置いていくのはちょっとひどくありません?きっとそう言った所で返ってくるのは、『うるせぇ。』って一言のみなんだろうけど。


「あ、臣も来てくれたんだ」
「ええ、まぁ…うわ、本当に潰れちまってるんですね」
「そうなんだ。見事に爆睡中」
「雪白…こうなる前に止めろよ」


ああ…まぁ、左京さんの言いたいことはわかるけど。2人の会話を聞き流しながらはるの隣に腰を下ろすけど、全く反応は返ってこない。ぐーすか寝てるんだよな、真っ赤な顔で。本当にどれだけ飲んだんだよ…テーブルの上に残ってるのは、恐らくはるの飲みかけであろうスクリュードライバーとおつまみが数品、それから東さんが飲んでいる赤ワインのみ。
空のグラスは新しいのを運んできた時に店員が回収していったんだと思う。だからどのくらい飲んだかは判断できないし、知る術もないが、きっと知らない方がいいってやつなんだろうな。聞いたら聞いたで溜息を吐きそうだし、最近の色々をすっ飛ばして説教しちまいそうだ。その前にはるの奴が大人しく俺の話を聞いてくれるかどうか、って所なんだけどな。
避けられてるんだろうな、とは薄々感じていた。忙しいっていうのが嘘だとは思ってないし事実だってこともわかってるけど、それを置いておくとしてもアイツの俺に対する態度はどこかよそよそしかったから。どうにかしなくちゃいけないと思ってはいるんだが、…実際問題、どうしたらいいのかさっぱりだ。腹を割って話せばいいんだろうけど、それをしたら間違いなく俺達の関係は変わってしまう。それも最悪な方に。

真実を知るのも、改めて現実を見るのも―――怖いと思ってしまうんだ。


「伏見、東雲を運べるか」
「問題ないです。もう出ますか?」
「遥が潰れちゃってるし、これ以上ここにいる理由もないからね」
「わかりました。…はる、はる、起きろ。帰るぞ」
「ん、んん〜…」


ペチペチと頬を叩いてみても起きる気配がない。
仕方ない、できれば本人に持ち上げる旨を告げておきたかったけど、勝手に持ち上げるしかないな。この際、明日の朝まで起きないでくれ。変な所で目を覚ましてセクハラ扱いされても困る。


「よ…っと」
「じゃあ僕はお会計してくるから、先に車に戻ってて大丈夫だよ」
「どこに停めたか知らねぇだろ…店の前で待ってるから早く来い」
「ふふっありがとう、左京くん」


お前は先に戻ってろ、と車のキーを渡されたから、お言葉に甘えて寝入っているはるを抱えたまま、一足先に店を出た。
抱え上げても、車に乗せても、更に寮に着いてからも…はるは一度も目を開けていない。ずっとスヤスヤ眠ったままだ。東さん曰く、かなりの量を飲んでいたらしいから水を飲ませたかったんだがな。とりあえず部屋に運んで枕元に水を置いておくか。喉が乾けば目を覚まして勝手に飲むだろ。さすがに着替えさせるのは無理だから諦めてくれ。
ベッドに寝かせ、水を置いて部屋を出ようと思ったらグッと何かに引っ張られた。


「…はる?」
「おーちゃ…」
「久しぶりに聞いたな、その呼び方。気分悪くないか?」


どうやら目を覚ましたはるが俺の服の裾を掴んでいたらしい。しかし目を覚ましたなら好都合だ、水を飲ませて酒を薄めさせておくか。


「とりあえず水飲んでくれ。酒を薄めないと…」


酔っているからなのか、それとも寝惚けているのか、はるは体を起こしたものの目はとろんとしたままだ。…うん、これはなかなかの破壊力だと思う。直視したら負けなんじゃないか?思わずつきそうになった溜息を慌てて飲み込んだ。というか、そんなことを考えている場合じゃない。
頭をよぎったよからぬ感情を振り払うように笑みを張り付け、開けたばかりのペットボトルを差し出した。けれど、はるは一向にそれを受け取る気配がない。やっぱりまだ頭が働いていないのか…仕方なく口元にペットボトルを持っていくと―――酔っ払いで寝起きとは思えない力で引っ張られた。
おいおい、嘘だろ…?!力で負けるわけはない、でも今回ばかりは不意打ちすぎて警戒も何もあったもんじゃない。元々、はるに警戒心なんか抱いちゃいないんだが。あ、水零れてないよな…?!


「おーちゃん」
「ん?なんだ、はる。というか、急に引っ張ったら危ないだろ」
「…なんで、おーちゃんは私にキスしたの」
「え…」
「私のことすきじゃないくせに、なんで」


はらはらと零れ落ちる涙、言葉。それは間違いなく、コイツが押し殺してきたであろう本音なんだと思う。


「どうして、…好きな人がいるくせに。私の気持ちを弄ぶようなことするの」


反論する暇などなく、そのまま唇が重なった。
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