逃げてしまったら後の祭り
「アンタ本当になに言ってんの」
ズバッと言い放った幸ちゃんの言葉の威力はすごいと思います。グサッと思いっきり刺さったよ、多分、しばらく抜けないよこれ。
でも言い返せるほどのものは持っていないし、私もそう思ったし、事実そうなので乾いた笑いを浮かべることしかできません。はは、と笑いながらアイスティーを啜る。
「せっかく話をする機会をオカンがセッティングしてくれて?気持ちも伝えてくれて?それであとはアンタの気持ちを伝える所まできておいて?…何でベッドに潜り込むの」
「いやー…人間ってテンパると本当にわけわかんない行動とるんだね…」
「はぁ…突拍子なさすぎて笑えもしない」
笑われたらダメージ倍増だよ、幸ちゃん。
というわけで、自分の行動に呆れに呆れかえってしまった私は臣くんへの恋心を知っている幸ちゃんを呼び出して、話を聞いてもらっている最中です。学校帰りに、ちょっと隠れ家っぽいカフェで。
事の次第を全て理解した彼はまるでチベスナのような目で、美味しそうなパフェを食べている。うん、私の事情はひとまず置いておくとしてパフェを食べる時はもっと美味しそうな顔をしてあげて。
「うあ〜…どうしよう、幸ちゃん〜〜〜」
「どうもこうもないでしょ。ちゃんと話すればいいだけの話」
「簡単に言うけどさぁ…時間が経つと何かこう、こっぱずかしくなってきたというか」
「自業自得。」
「……仰る通りです」
そうなのだ。あの日、ベッドに潜り込んだままでもいいから話をしてしまえば良かったのだ。そうすれば全てが丸く収まっていたはずだし、こんなにも悩まずに済んでいたかもしれない。というか、悩まなかったと思う。気恥ずかしさとか、そういうものは残っていたかもしれないけど…気持ち的には絶対に晴れやかだったと断言できるもんね。
臣くんがせっかく伝えてくれたのに、話をしようとしてくれていたのに。それなのに私は全てを台無しにした。というか、ムードの欠片もないな。本当。
「とにかくオカンに遥の気持ちはバレてるんでしょ?」
「…うん、酔っ払って言っちゃったようなものだし」
「だったらもう結末は1つしかない。怖がる必要もないでしょ」
はい、全く仰る通りでございます。幸ちゃんの言う通り、結末はもう1つしかなくて決まってる。私が手を伸ばせば、全てが終わるようになっているのだ。少し前の私のように関係が壊れるのが怖いと嘆く必要は、全くなくなってるんだから。それなのにいまだできていないのは、さっきも言ったけど時間が経てば経つほどにこっぱずかしくなっているからでして。いや、そうしたのは明らかに自分の責任だから何も文句は言えないんだけども。
とはいえ、あの時また後日に!って言っちゃったしなかったことにもできない。つーか、したくないし…それはさすがにどうなのよって思うし。それに臣くんの気持ちを知った今では、他の誰かに渡すなんて考えられないもの。だったらさっさと話をしろ、って話なんだけどさ。果たして約束を取り付けたとして、私は逃げずに臣くんと向き合うことができるのだろうか。
「…ダメ、逃げる自信しかない」
「逃げグセつけてどうすんの」
「いや、ほんとに…反論できないっす」
「だったら外で話すれば?」
「え?」
外でしようが寮でしようが、私はきっと逃げますけれども。きょとんとした私に幸ちゃんは、変わらずパフェをつつきながら「話をしようと意気込むから逃げたくなるんでしょ?」と言い放った。だから出かけるのを一番の目的にして、そのついでにすればいいんじゃないの?だって。ああ、成程…それはまぁ、一理あるのかも?
「まぁ、それでもアンタは緊張して逃げ出そうとするのかもしんないけど」
「う…」
「だけど、試してみる価値は少なからずあるんじゃない?」
うーん…やってみないよりいいのかなぁ。確かに寮で話すぞ!って意気込むより、出かけて気分転換してから話し始めた方がそこまで緊張―――しない、のか?いや、するわ。絶対に緊張するわ、しない自信がないわ。とはいえ、このまま逃げてばっかりもいられないので…幸ちゃんのこの案、やってみるしかないか。
よし、そうと決まればすぐに行動に移すとしよう。今すぐやらないと絶対、恥ずかしくてできなくなるから。幸ちゃんに了解をとり、スマホを取り出してLIMEを起動した。ドクドクとうるさい心臓を無視していつもより倍の時間をかけて、臣くん宛のメッセージを打ち込んでいく。
ただ『どこか行かない?』って誘うだけなのに、何でこんなに緊張……あ、本来の目的は出かけることじゃないから緊張するのか。というか、この状態で2人で出かけるのはどっちにしろ緊張するわ。するなって方が無理な話だと思う。だって好きな人と2人で出かけるんだよ?それってデートじゃんか!!!どう考えたって!
「で、デートのお誘いになっちゃったんだけど幸ちゃん…!」
「今更なに言ってんの?好き合ってる男女が2人きりで出かけるんだから、デートでしょ」
「いやそうなんだけどさあああぁああ…!」
「うるさい。てか、さっさと送信しなよ」
送信する勇気さえなくなったんだって!そう反論しようと顔を上げるのと同時に、幸ちゃんが手を伸ばして送信ボタンを押してくれやがった。あ、死んだ。
「ん、これでよしっと」
「よしじゃない…私は全然よしじゃないよ、幸ちゃん〜〜〜!!!」
「じゃあ送る気ゼロだったの?」
「ゼロじゃ、ない、けど…」
ゼロじゃない、ゼロじゃないけどまだ心の準備ができてないのにどうしてくれますか…溜息をつきかけた所で、スマホがヴヴッと震えた。そして画面に映し出されたのは、LIMEにメッセージが届いたことを知らせる通知。もちろんメッセージを送ってきたのは、臣くんだ。こんなに早く返ってくると思わなかったです。いいよ、としか書かれていないけれど、それでもじわじわと嬉しさが込み上げてきて顔が自然とニヤケてしまう。
チラッと視線だけをこっちに向けた幸ちゃんにもバッチリ見られたらしく、締まりのない顔って呆れられてしまったけれど。これで土台は作り終えたようなものだ、あとは…私自身が頑張る、だけ。上手く話せるかはひとまず置いておくとして、まずは逃げ出さないことを第一目標にしなければ。…逃げないことを第一目標、って普通はしないよね。
「OKもらったんだよね?だったら行くよ、遥」
「行くってどこに?」
「ショッピングモール。アクセとか見に行くよ」
「えっ?!」
「ほら、あんまり遅くなれないんだからさっさと立って」
「あっハイ」
思わず返事をしてしまった私は、慌てて立ち上がり幸ちゃんの後を追った。