気まぐれ猫に懐かれた気分です
碓氷真澄。
新生春組のメンバーで、花高に通う高校二年生で、そして総監督であるいづみさん大好きっ子。いつでも真っ直ぐ好きだ、と伝えている子。一途だなぁ、と思う。
まぁ、もう少し周りに目を向けてもいいんじゃない?と思わなくはないけれど、彼は彼なりに春組のメンバーのことを大切に思ってるみたいだし…この劇団を居場所だと思ってくれているようなので、いいんじゃないかな。うん。盲目すぎる愛情はちょーっと心配ではあるけれども。
いづみさん以外には塩対応もいいとこの彼と、それなりに仲良くなったきっかけは『音楽』だった。
「あれ、碓氷くん?」
「……なに」
「用事があるわけじゃないけど、姿が見えたから」
「ふぅん」
大学の帰り道。実家の古書店が定休日だし、サークルもないから寄り道でもしていこうって立ち寄ったCDショップで最近知り合った男の子の後ろ姿を見つけた。思わず声をかけてしまったけど、かけなければ良かったと即座に後悔した。
だってヘッドフォンを少しだけずらして返事を返してきた彼―――碓氷くんは、とても不機嫌そう。
そういえば碓氷くんってベタ惚れないづみさん以外には興味がない子だったんだっけ…うっかりしてた。でも声をかけちゃったし、このままじゃっ!て立ち去るのもアレだし…というか、私が見たいとこって碓氷くんがいるコーナーだし。うんいいや、物色しよう。
頭の中を切り替えて好きなアーティストのCDを探そうとした時、彼が試聴しているCDのジャケットが偶然目に入った。
「碓氷くんもそのアーティスト好きなんだ」
「…『も』?」
「私も好きなの。ファーストアルバムがすごく良くてね…」
「ファーストアルバムって限定版?通常版?」
「限定。ボーナストラックの曲がドツボで、って…碓氷くん?」
「限定版……!」
私を見る碓氷くんの目が、心なしか輝いているように見えます。
なんだ、こんな顔もできるんじゃないかこの子。そう思ったら途端に可愛く思えてきた。
「良かったら貸そうか?」
「…いいの?」
「もちろん!限定版ってもう売ってないみたいだし」
「そう。中古でもかなり高い値段になってて、ずっと手が出なかった」
「ふふっじゃあ尚更、貸してあげる。今度、寮に持っていくね」
「わかった。……ありがと」
その場でLIMEを交換して、週末にCDを届けに行って…気がつけば、割と話をする間柄になっていた。もちろん塩対応っていうか、そっけないはそっけないんだけど、外で声をかけてくれることも増えたし、碓氷くんのオススメCDを貸してくれたりもする。
仲良し、という程ではないんだけどさ、それなりに心を許してくれてんのかなーってちょっと思った。好きなアーティストが一緒だと、感想をあれこれ言い合えるのが楽しい。これが私と彼の、きっかけ。
「遥、これ見たことある?」
「んー?あ、これ見たことない!」
「じゃあ見よう。きっと気に入る」
談話室でぼんやりと真澄くんとのきっかけを思い出していたら、当人がひょっこりと視界いっぱいに映り込んできた。とあるアーティストのライブDVDと一緒に。
私が寮に引っ越してきてから、毎週金曜日の夜、こうしてDVDを見たり新しく買ったCDの感想を言い合ったりしてる。別にやろうって言い出したわけでもないんだけど。でもやっぱり楽しいし、真澄くんも楽しそうにしてくれてるから…まだしばらくは、こんな週末は続きそうです。