紬さんと臣くんと


―――バッターン!!

「ちょっと聞いてよ遥ちゃん!!」

談話室でのんびり臣くんと紅茶を飲んでいたら、けたたましい音を立ててドアが開いた。そして響く紬さんの大きな声。これはまた、ずいぶんと怒っていらっしゃるなぁ。

「どうしたんすか、紬さん」
「コーヒー淹れてきましょうか」
「ありがとう、臣くん!」

ガタン、と臣くんが立ちあがり、それと入れ替わりで紬さんが私の隣に腰を下ろした。彼の手にはシワが寄ったチケットらしきものが2枚握られていて、何となく予想がつきましたよね。確実に観劇のことで丞さんとケンカしたんだな…この人。
紬さんは温厚そうに見えて意外と頑固者らしく、丞さんとよくケンカをしている。それはいい、別にケンカくらいすればいいと思うけど、その度に私の所へ来るのは何でなんすか。もっと他にいるでしょ、東さんとか。あの人だったら絶対スマートに話聞いてくれるし、アドバイスもしてくれると思うんだけど。

「それでね丞が…」
「はいはい。ひとまずコーヒーと臣くん作のマフィン食べて、それで落ち着いてくださいねー」

カゴに詰まれていたマフィンを1つ掴み、それを紬さんの口に突っ込んだ。ちょうどコーヒーを淹れて戻って来た臣くんが、うわぁという顔をしていたけど見ないフリ。だってこうでもしないとマシンガントーク始まっちゃうんだもん。話はいくらでも聞くけど、気持ちが昂ったままじゃどうにもなんないでしょうよ。
甘いもの摂取すればちょっとは落ち着くじゃん。そうでなくとも臣くんの作るお菓子は美味しいし、美味しいもの食べると気分も変わるからね。そしてマフィンを口に突っ込まれた紬さんは、両手で持ってもぐもぐ食べてくれています。なんか小動物みたい…可愛い。天使でもいい。

「コーヒーここに置いておきますね」
「うん、ありがとう…ご、ごめんね?2人の邪魔しちゃって」
「別に大丈夫ですよ、何してたわけでもないですし。…それで?丞さんとケンカしたんでしょ?」
「ケンカっていうか、…観に行こうって言っていた舞台があって、それでチケット取ったんだけど…」


ズズ、とコーヒーを飲みながら、ポツリポツリと話を始めた紬さん。

「…丞も、同じチケット取っちゃってて」
「ああ、そんなこったろうとは思いましたけど。ダブっちゃったんすね、チケット」
「そうなんだ。何でかわかんないけど、それがカチンッときちゃって言い合いに…」

うん、言っちゃ悪いけど紬さん…そんな理由で言い合いになるってどうなの。子供みたいなケンカしてるなぁ、この人達。いや、確かに他人からすればそんな理由で?っていうケンカはたくさんありますけども。私もしたことあるからあんまり人のこと言えた立場でもないけどさ。

「何というか…割と意思疎通しているように見えるのに、今回に限って何で話しなかったんですか」
「だってその舞台ってすごく人気の劇団のやつでね?!早くしないと買えないから」
「紬さん、それ多分、丞さんも同じだと思いますよ」

黙って聞いていた臣くんが苦笑気味にそう言った。
うん、そうね。私も同意見。私達の言葉を聞いてすくっと立ち上がった紬さんは、謝ってくる!と宣言し、談話室を出ていきました。きっとすんなりと仲直りできるでしょ、あの2人なら。


(後日、幼なじみコンビから謝罪とダブったチケットを頂きました)
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