愛情はまだ込められません


11月2日は幼なじみである臣くんの誕生日である。小さな頃から何度もお祝いしてきて、小学生の高学年になった辺りからプレゼントも用意するようになっていい加減、何をあげたらいいのかわからなくなってきたぞ。マフラーと手袋は3年前にあげたし、一昨年はキーケース、去年はお財布…今年はもうキッチングッズか癒しグッズくらいしか選択肢が残ってないんですけど。

「そんなわけで何か欲しいものある?」
「そこで本人に聞いちゃうはるチャンはマジ勇者ッス」
「はるは昔からこういう奴だ。毎年、聞かれてる」
「ええー…サプライズの概念……」
「私の辞書にサプライズの文字はない。」
「いや、刻んであげてほしいッス」

サプライズ?そんなものは一度もしたことがない。でも誤解のないように言っておくと、毎年なにが欲しい?って聞いてるわけじゃないよ?それは今回が初めて!今までは大体目星をつけて、これでいい?って聞いてただけだから!
最終決断を臣くんにしてもらってたの。そこに至るまでは自分で考えて、探してるからね。そして私にサプライズをする気持ちがないだけで、決してサプライズが嫌いというわけではないです。あしからず。

「はるチャンって面白い思考回路してると思う」
「奇遇だな、太一。俺もそう思うよ」
「臣くんのお墨付きなら間違いないッスね!」
「ねぇ。君ら、私に対して失礼な発言連発してるってわかってる?」

違くて。私はこんなコントみたいな会話をしに、2人の部屋にお邪魔してるわけじゃないんだよ。臣くんに欲しいものがあるかどうか聞きにきたんだよ。一体どうしてこうなった。
というかさー、サプライズも素敵だと思うけどどうせなら本人が欲しいものあげたいし、したいことにつき合ってあげたいじゃん。全部、一から準備とか計画とかしたりするのも楽しいとは思ってるけど…私は確実に喜んでもらいたいから。驚かせるよりも、喜ばせるの優先にしたいんだよ。

「しかし、急に欲しいものって言われてもなぁ…」
「キッチンで足りないモノとかは?」
「はるチャン、それじゃあ劇団へのプレゼントになっちゃわない?」
「……あ、そうか。あのキッチンって臣くんのものじゃなかったんだっけ」
「今更だな…」

まぁ、確かに圧力鍋とかあると便利だとは思うけどな。
視線を雑誌に戻しながら臣くんが呟いた。今のは本気で欲しがってるトーンだけど、…圧力鍋かぁ。お値段がそこそこ張るけど、臣くんが本当に欲しがっているのなら買うのもアリかなぁ。でもそれだと彼自身へのプレゼントにはならないんだよな、さっき太一くんが言っていた通り。いや、本人がそれでもいいなら全然買うけども。
いまだ雑誌から視線を上げない臣くんは、しっかり考えてくれているらしい。だって眉間にシワ寄ってるし、考え込んでる感じするし。でもここまで悩んでるってことは、欲しいものはないのかもしれない。やっぱりここは圧力鍋か?

「ねぇ、臣くんの誕生日当日って2人は大学あるんスか?」
「ああ…俺は2限だけだから、昼には終わるけどな」
「私も1限と2限だけだったな、確か」
「だったら2人でお出かけしてくるといいッスよ!」
「え、やだ。」

太一くんの言葉に被せるようにして零れ落ちた、否定の言葉。それを聞いて太一くんは心底驚いた顔をし、臣くんはちょっとショック受けてるような顔をしている。…あ、しまった。間違いなく言葉が足りないぞ、私。

「いや、あの、臣くんと出かけるのが嫌ってわけじゃなくってね?!」
「今のはさすがに傷つくぞ、はる…」
「はるチャーン…」
「わああああぁああ!ごめん!ごめんってば!!違うの、ちょっと言葉足らずっ…!」

とりあえず違うの!と拳を握りながら力強く言えば、臣くんがふはっと吹き出した。そのまま肩を震わせ、声も出さず笑っていらっしゃいます。もちろん、太一くんも。こっちはしっかり声を出して笑ってるけどね。うん、でもそんなに笑うようなこと?!確かに我ながら必死過ぎないか、と思ったりもしたけどさ!!
悪いのは私だけどむぅ、とむくれて黙り込むと、目尻に薄らと浮かんだ涙を拭いながら臣くんは謝罪を口にした。まだ笑ってるから謝罪されてる感ゼロだけど。

「じゃあどういう意味なんだ?」
「…だって、絶対団員で誕生日パーティーするでしょ?それなのに主役がいないとかダメじゃん」
「午前で大学終わるんなら夕方までに帰ってくればいいんスよー」
「あ。」
「なんでそこがすっぽ抜けるんだ、お前は」

いや、それは私も聞きたい。でもそうか、午前で講義は全部終わるんだもんね…夕方に寮に着くようにすれば、何の問題もない。手伝いもできるじゃないか。何で私は夜まで出かける、って考えになっていたんだろう。本当に。そりゃあ臣くんも呆れた顔になるって。そして傷つけてごめんなさい。
というわけで、太一くんの案を採用して2人でちょっとだけ出かけることになりました。メインは彼の誕生日プレゼント探しになると思うけどね。こっそり言うと、まだ先なのにすでにめっちゃ緊張してます…!だって片思いしてる臣くんと2人でお出かけとか!!今までに何度もしてきてるけど、それでも緊張するもんはするよ!うあー、何着ていこう。今から考えておかないと、絶対当日の朝にドタバタして失敗する。




「平日の昼間だと、そんなに人はいないな」
「だねー。あ、このオムライス美味しい」
「それは良かった」

―――誕生日当日。
講義を終えた私達は、大学のある駅から3つ行った先にある大きなショッピングモールへと来ています。ここがリニューアルした時に新しく入った洋食屋さんがずっと気になってて、買い物もできるからーって理由でここになった。でもこれじゃあ私の行きたい所へ来ている気がしてならない…いいのだろうか、とスプーンを咥えながら考える。チラッと見やった臣くんはすでに食事を終えていて、行き交う人を見ながら穏やかな顔でコーヒーを啜っていたりするんですが。

(ただそれだけなのにカッコイイとか、惚れた欲目ってやつなのかな)

もちろん、何してんだろうコイツって思う瞬間もあるけど、臣くんが好きだと自覚した時からはカッコイイなぁって思う部分の方が断然多くて。それこそ今みたいな、何度も何度も見ているはずの何でもない仕草とか…そういうのにドキッとしたりすることが増えた気がする。元からカッコイイと思ってたけど、それ以上に。まぁ、めちゃくちゃモテる奴だから惚れた欲目ばかりではないんだろうけどね。

「ねぇ、臣くーん」
「なんだ?」
「本当に欲しいものないの?それか行きたい場所とかさ」
「ないなぁ。別段、足りないものもないし」

えー?どうしよう、詰んだ。それじゃあただ、私が楽しいだけの一日になっちゃうんだけど。

「実際問題、はるとゆっくり出かけられるだけで嬉しいからな」
「てっ……!」
「て?」
「天然人タラシ…!!!」
「相変わらずひどい言い草だな」

そう言いながらも表情は穏やかなまま、楽しそうに笑っている。どうやらさっきの言葉は、臣くんの本心―――だったらしいです。私からするとこっ恥ずかしくて仕方ないけども!!!
本当、臣くんのこういう所やだ…嬉しいけど恥ずかしいから全力で逃げたくなる。こんなんだから周りにつき合ってないの?って聞かれるんだ。つき合ってないよ、でも実際につき合えたら色々死ぬ気がする。私。絶対心臓もたない。
それを考えると今の立ち位置がちょうどいいのかもしれないけど、…でも他の誰かに取られるのは嫌だなぁ。ズズーッと残り少ないオレンジジュースを飲んでいると、「あ」と臣くんが言った。ん?もしかして欲しいもの見つかったのかな?

「なにー?」
「思いついた、欲しいもの」
「うん、どんなの?」
「はるが作った料理と、ケーキ」
「……は?」

本気でひっくい声が出て、臣くんのツボにクリーンヒットです。いや、だって何言ってんの?コイツ。

「ははっすごい低い声が出たな」
「低い声にもなるだろうよ…何でそんなもの欲しがるの」
「俺にとっては『そんなもの』じゃないからだよ。ダメか?」
「ダメじゃ、ない、けど…安上がりだなぁ、臣くんは」
「こうして2人で出かける時間ももらったし、欲張りな方だと思うけどなぁ」

そういう所がズルイ、って私は今までに何度思っただろう。これから先、何度思うのだろう。…いや、何度思うことができるんだろう―――が正解、かな。
彼の隣を誰にも譲りたくないし、渡したくないけれど…臣くんにとっての私はただの幼なじみでしかない。それ以上でもそれ以下でもない私はきっと、恋愛対象としては見てもらえない。さっきの言動だって、深い意味なんて絶対ないんだ。ドキドキするだけ無駄だ、ってわかってはいるんだけど、どうしたって臣くんに恋をしているからドキドキしちゃうんだ。それはどうしたって、止めることはできないと思う。

「…料理、お任せでいいの?」
「もちろん。お前が作る料理は温かくて、どれも好きだから」
「ほーんと人タラシ…買い物、つき合ってよね」
「ああ。荷物持ちもバッチリしてやるから安心しろ」

さて、何を作ろうか。ケーキもどんなものにしよう。王道のショートケーキ?それとも臣くんが気に入ってくれていたタルト?
色んなものを思い浮かべていると、自然と笑みが浮かぶ。ああ、誰かの為に作る料理を考えるのは本当に楽しい。―――でも、皆へ向ける愛情以上のものを込める勇気は…まだ、ない。

「じゃあ少しこの中見て回って、天鵞絨駅近くのスーパーで買い物していくか」
「うん」
「どこか見たい所あるか?」
「んー…じゃあ2階にあった雑貨屋さん」
「わかった、行こう。はる」
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