和気あいあいとはこういうこと


いづみさんが団員さん全員を紹介したいと言ってる、と臣くんから聞いて2週間程。ついに寮へ再びお邪魔する日がやって参りました。
講義が終わった後、臣くんと一緒に向かおうと思ってたんだけど何と彼は今日のラストの講義が休講だったらしく、先に帰ってしまってるんだよね。だから綴と一緒に来てくれ、とLIMEが入ってました。はるの好きな物作って待ってるから、とも。
臣くんの手料理を食べるのは久しぶりだから、単純に嬉しい。メッセージを見返しながらベンチに座って皆木くんを待っていると、パタパタと走る音、そして私の名前を呼ぶ声が聞こえた。スマホをしまって視線を上げれば、予想通り少し息を切らせた皆木くんがやって来た。そんなに急いで来なくても良かったのになぁ。


「お疲れ様、皆木くん」
「お疲れっす。待たせてすみません…!」
「別に大丈夫だよ。そんなに待ってないから」


むしろ、急がせてすみませんと謝りたいくらい。そもそも臣くんから講義が休講だった、とLIMEをもらった時は1人で行く気満々だったんだけど、先手を打つように彼から綴に連絡しておくから一緒に来てくれ、とメッセージがきちゃったんだよねー。
時間が時間だから心配してくれた、のかな。こういうさり気ない気遣いに嬉しくなっちゃうんだよね、深い意味はなかったとしても。


「至さん以外はもう揃ってるらしいんで、ちょっと急ぎましょっか」
「…あ、あの王子様みたいな人か」
「えーっと、うん、まぁ…」


皆木くんが歯切れ悪く返事をした。幻滅しないでやってくださいね、と付け加えて。え?幻滅ってなにに?急に何を言い出したんだ?この子は。頭上にクエスチョンマークを浮かべたまま、大学の正門を出るとそこには車が停まっていた。
誰かの迎えかな、とそのまま通り過ぎようとしたんだけど、皆木くんが足を止めて小さな声で「至さん…?」と呟いている。すると助手席側の窓が開き、舞台で見覚えのある人が顔を出した。
その正体は春組の茅ヶ崎さん、さっきまで私達の会話に登場していた人物です。うわ、やっぱり王子様みたい…イケメンだな、この人。


「綴、おつ〜」
「お疲れっす…なにしてんすか、アンタ」
「監督さんに帰るよ、って連絡したら、2人を拾って来てくれって頼まれてさ。行き違いにならなくて良かった」
「じゃあLIMEしろよ、その方が確実だろ」
「ちょうどしようとした所だったんだけどね。えーっと、東雲さんだよね?乗って」
「あ、はい。すみません、ありがとうございます」


茅ヶ崎さんに促され、皆木くんと私は車に乗り込んだ。乗った瞬間に助手席くればいいのに、と言われたけど、そういうわけにはいきませんって…!何か男性の運転する車の助手席に乗るのって、こう…彼女だけってイメージあるじゃん。運転してるのがいづみさんとか友達とか、男性でも臣くんだったら躊躇することなく助手席に乗ると思うけど。今回のような場合は避けた方がいい、断った方がいい。そんな気がする。
皆木くんは呆れた顔で変なこと言ってんなよ、と溜息をついている。意外。皆木くんって年上相手でもこんなに砕けた話し方することもあるんだ…臣くんや私と話す時はここまで砕けた話し方してないから、ちょっとびっくりかも。


「皆木くんってそんな話し方もできるんだね」
「え?」
「口調。普段はもう少し丁寧だし、敬語使ってるでしょ?」
「…そう、っすか?」
「うん、そうなの。でも茅ヶ崎さんと話してる時って、…うーん、素に近いのかな?って感じがした」
「寮だとそんな感じだよな。シトロンにもさっきみたいな口調でツッコんでるし」


シトロンさんってあの外国人の。あの人も綺麗な顔立ちしてたなぁ、外国の人って皆そうなのかなって思うくらいに、美形だと思う。うん。


「あれはシトロンさんが変なこと言うからっすよ」
「ぶっ飛んでるけどたまにツボ。面白いじゃん」
「いや、否定はしないっすけどなに言ってるかわかんねーって」


2人の間で繰り広げられる会話は、テンポ良くぽんぽんと進んでいく。新生春組として旗揚げ公演を行ってからそう時間は経っていないはずなのに、こうやって見ていると仲が良いというか、気が合っているというか…プライベート?でも結束力とか信頼関係とか、しっかり築けているんだなって印象。
あれかな、寮で共同生活をしているからこその結果なのかな。私は舞台上での皆しか知らないから、こういう光景はとても新鮮で楽しいと思ってしまう。思わずふふっと笑みを零すと、2人の視線がこちらを向いた。向いた、と言っても運転中の茅ヶ崎さんとはミラー越しに目が一瞬合っただけなんだけど。


「え?なに?」
「いや、東雲さんが笑ったから…」
「ああ…2人の話すテンポがいいなぁ、と思っただけだよ」
「それって笑うほど?」
「あはは、気分を害されたならすみません。皆木くんは大学で会いますけど、茅ヶ崎さんは舞台上での姿しか知らないので」


こんな風に話す人だったんだ、と思っただけなんだと口にすれば、皆木くんが素の至さん知ったら幻滅されんじゃないっすか?とくつくつ笑ってる。でも茅ヶ崎さんはそれを気にしているようには見えないし、それでもいーんじゃない?って言う始末。だけど、やっぱり幻滅するの意味がわかんなくて首を傾げてしまう。
こうして見てみると茅ヶ崎さんのどこにも幻滅する要素は見つからないし、我が後輩は一体何を―――あ、でもさっき『素の至さん』とか何とか言ってたっけ。そこから連想すると…思いつくのは部屋が汚いとか、外面がいいとかそんな陳腐な言葉ばかり。いや、当たってたとしても初対面の人に言うセリフじゃないわ。どう考えたってアウトだわ。

(ま、気にすることもないか。劇団に入るわけじゃあるまいし)

そう。私はただ、次の公演のお手伝いをするだけだ。劇団に入るわけじゃないし、寮で共同生活を送るわけでもない。だったら別に茅ヶ崎さんのプライベートがどんなにひどいもので、第一印象が粉々に砕け散るものだったとしても然して問題はないのです。
こう言うと他人のことはどうでもいいんだな、って思われるんだけど、別にそういうわけでもないんだけどなぁ…その人がどんな生活しててもいいんじゃない?って考えなんだけど、私のそれは伝わりにくいものらしい。他人に興味がないわけでもないんだけどね。


「はい、とーちゃく。車置いてくるから先に入ってて」
「っす。ありがとうございました」
「ありがとうございます、助かりました」


言われた通り、寮に先に入ると真っ先にいづみさんと太一くんが飛んできてくれました。わぁ、熱烈な歓迎ですね!


「いらっしゃい、遥ちゃん!綴くん、おかえり」
「おかえりっす綴クン!はるチャンも!」
「ただいま、監督。太一」
「え、これって私もただいまって言った方がいいの?」
「いや、言わなくても問題ないっすよ」


ああ、そうですか。とりあえずお邪魔します、とだけ言って共用ルームに足を踏み入れると、大半が舞台上で見た方々。全組の劇団員が揃っていると圧巻…ええっと、一組5人だったはずだから劇団員だけでも20人ってことになるのかな。そこにいづみさんと私が加わって22人。人数だけでいうと宴会じゃん、これ。
よく臣くんってばこんなに豪華な料理を大人数分作ったね。それも1人で。こんなことなら講義をサボって手伝いに来れば良かったなぁ。絶対に怒られるからしないけど。

どうしたらいいのかわからず、ドア付近でつっ立っていると銀髪の綺麗な男性―――確か冬組の雪白さんがこっちにおいで、と手招きしてくれた。うっわ、本当綺麗な人だな。男性だってわかってても何か色気を感じるというか、中性的な感じがする。
どぎまぎしながら失礼します、と隣に座るのと同時に、茅ヶ崎さんが顔を出した。


「あ、至さんおかえりなさい!」
「ただいま。着替えてきてもいい?」
「大丈夫ですよ!でも急いでくださいね」
「無理な注文しないで」


いづみさんの言葉に苦笑しながら茅ヶ崎さんは、そのまま引っ込んだ。きっと着替えに自室に向かったのだろう。ああでも、これで全員揃ったのか。
さて、と手をパンッと叩いたいづみさんが茅ヶ崎さんが戻るまでの間に自己紹介を済ませちゃいましょう!と提案してきた。このまま食事を始めると思っていた私は、ちょっと虚をつかれた気分。でも確かに食事をしながら説明とかするより、その前にしちゃった方が早いかなぁ。


「というわけで、次回公演の手伝いをしてくれる東雲遥ちゃんです」
「あ…東雲遥です。よろしくお願いします」


ペコっと頭を下げると学生組が元気な声で「よろしくお願いしまーす!」と返してくれて、吹き出しそうになったよね。一瞬だけ幼稚園とか、小学校の先生になった気分でした。そのままの流れで春組から自己紹介が始まり、それぞれによろしくお願いしますと返していく。
一度、自己紹介を済ませた摂津くんや元々の知り合いである臣くん・皆木くん・左京さんもその場のノリなのかわかんないけど、自己紹介してくれました。知ってるけど、とツッコミたくなったのは致し方ないと思う。2回も自己紹介されるとは思わないじゃん?いいんだけど。
そしてラストの冬組―――GOD座の元・トップだった高遠さんに順番が回る。実は共用ルームに足を踏み入れた時から、ずっと視線を感じてはいるんだけど何も言えずにいた。どう声をかけたらいいのかもわからなかったし。


「…久しぶり、と言ってもいいのか?」
「へっ?あ、はい大丈夫ですけど……知ってたんですか?私のこと」
「よく働いているのを見ていたからな。名前も、顔も覚えてる」
「丞と東雲さんって知り合いだったの?」


高遠さんの隣に座っていた月岡さんがキョトンとした顔でこっちを見てきたので、ひとまず頷きを返す。それを補うかのように太一くんがGOD座で裏方やってたんすよーと続けてくれました。案の定、全員ビックリした顔で叫んだけど。
その叫び声が上がったのと同じタイミングで戻ってきた茅ヶ崎さんは「え?何事?」と訝し気。そりゃそうだ、ドア開けた瞬間に叫び声が上がれば、誰だってこうなる。驚いていないのは前回会った摂津くんと、元々知っているメンバーだけ。


「咲也、何の騒ぎ?」
「あっえっと、東雲さんがGOD座で裏方やってたって話をしてて」
「え?そうなの?」
「裏方といっても受付とか、掃除とか………あとパシリ?」
「せめて雑用って表現をしろよ、はる」
「あ、それ。ナイスアシスト、臣くん」


音響とか、照明とか、そういう類の裏方じゃない。雑用全般を仕事とする裏方です。だからそんなに目立つポジションでもなかったから、役者である高遠さんが私のことを知っているとは思わなかったんだよね。
話したことが全くないわけじゃなかったけど、それらは全て舞台に関することだったし。雑談とか、そんなフランクなつき合いは一切していないんですよ。はー…緊張する。


「ええっと、他の劇団の手伝いもちょくちょくさせてもらってるので雑用とパシリはお任せください!」
「だからパシリはやめろって」
「というか、させないっすからね?」
「え?そうなの?喜んでやるよ?」
「喜ぶって…ドМかよ、遥ちゃんって」
「おい、摂津。さん付けしねーか、年上だろ」
「あ?いちいちうっせーんだよ、お前は」


ケンカし始めそうな兵頭くんと摂津くんを宥めたのは、そういうことに慣れている臣くんだ。そのままワイワイと食事が始まったんだけど…さすが育ち盛り・食べ盛りがいるだけあって、大量の料理があっという間に減っていく。大人数だと食事は戦争だ、なんてよく聞くけど、それを今、目の当たりにしている気がします。すっごいな、これ。
思わず箸を止めて見入っちゃうよね。ぽかん、としていると、小皿にポイポイとおかずが盛られていっていることに気がついた。その正体は隣に座っている雪白さん。


「早く食べないとなくなっちゃうよ。臣が頑張って作っていたから、たくさん食べてあげて」
「そうだとも。存分に食べたまえ、…東雲くん?遥くん?どちらで呼べばいいかな?」
「あ、どちらでも。お好きなようにどうぞ」
「では遥くんと呼ぶことにしよう」
「ボクも遥って呼ばせてもらおうかな」
「マシュマロ…1個だけならあげる」
「え?マシュマロ?」


御影さんからはい、とマシュマロをもらったけど、どうしたらいいのコレ…。


「すっかり馴染んでくれてるね。俺も遥ちゃんって呼んでも大丈夫?」
「はい、構わないです。月岡さん」
「マシュマロはこのティッシュの上に置いておいたら?先にご飯食べちゃおうね」


月岡さんにどうぞ、と広げてもらったティッシュの上にもらったマシュマロを避難させ、小皿に盛られたおかず達に手をつける。からあげにミニハンバーグ、それからジャガイモの素揚げ…メッセージがきていた通り、臣くんは本当に私が好きなものを作ってくれたみたいです。
他にもミートグラタンやシーザーサラダなどが、テーブルの上に所狭しと並べられている。久しぶりに食べた彼の手料理は、記憶と違わず美味しい。むしろ、もっと美味しくなっている気がするな。
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