変わらない日々を、きみと


「あ。」

とある日の休日の朝。朝食の準備と、ついでに昼食の下ごしらえをしようと冷蔵庫を開けた―――ら、小さくではあったが自分でも笑ってしまいそうな程のマヌケな声が出た。
いや、でも開けた瞬間にほとんど食材が入っていない冷蔵庫を見たら誰でもそうなるだろ?とりあえず朝食分は何とかなるか…片付けを済ませたら、早めに買い物に行った方が良さそうだ。

 side:臣

「ふあ〜…おはよ、臣くん」
「おはよう、はる。早いな」
「目が覚めちゃって。朝ご飯作るんでしょ?手伝う」

手を洗って、エプロンをつけたはるにありがとう、と返す。さて、何を作ろうか。さっき見た冷蔵庫の中身を思い返しながら考えこんでいると、冷蔵庫を開けたらしいはるが「うっわぁ…」と声を零した。
ああうん、だよな、やっぱりそうなるよな。買い物に行かないと何もないんだ、と苦笑すれば、はるも眉をハの字にしてみたいだねぇ、と溜息を零している。

「朝食分は何とかなりそうだから、片付けが終わったら行ってくるよ」
「じゃあ私も行くよ。結構な量になるだろうし、至さんか左京さんに車出してもらう?」
「んー……いや、バイクで行けるだろ」
「別にいいけどいけるかなぁ…」

確かにはるの言う通り、結構な量になるだろうし本来なら車を持っている至さんや左京さん、もしくは丞さんに頼んで連れて行ってもらった方がいいだろう。それが最善なのはもちろん、俺だってわかってはいるんだが…はるも来てくれるっていうなら、2人の方がいいなんてそんな欲が出ちまうんだ。
まぁ、それは本人には言えないけどな。恥ずかしいから。きっと言ったとしても、照れ臭そうに笑って「仕方ないなぁ」って言ってくれるとは思うけど。

「サラダとスープと…あ、パンが残ってるし、ホットケーキミックスもあるじゃん」
「卵とハムも少しあるし、米も炊いてあるから好きに食ってもらう形式にするか」
「それが一番良いかもね。サラダとスープくらいしか全員分は作れなさそうだし」

全員分をホットケーキにしても良かったんだが、朝から甘いものを嫌がる人もいるからなぁ…それだったらバイキング形式にしちまった方がそういう事態にならずに済むだろ。全員の好みはそれなりに把握しているつもりだが、生憎今の冷蔵庫事情じゃそれに応えられそうにないからな。よし、朝食の方向性が決まったことだし早速、作り始めるとするか。
俺が腕まくりをして献立を頭に思い浮かべる頃には、はるはもう手際良くホットケーキの下準備を始めていた。幼なじみ、だからなのかは俺にもわからないけれど、はるとキッチンに立つ時は何も言わなくても互いに何をするのかとか、そういうもんが手に取るようにわかる。やってほしいこととかも、気がつけば手をつけてくれていることが多いんだよな。だからといって、カントクや綴とキッチンに立つのが嫌ってわけではない。あの2人と料理をするのだって楽しいからな。
はるの場合は―――…また何かが、違う。それはきっと、カントク達に向けるものとは違う想いを抱いているからなんだろう。

「はる、米とパンどっちにする?それともホットケーキ食うか?」
「ご飯がいい。おにぎり食べたい」
「おにぎりか…何か具になるもの残ってたかな」
「冷蔵庫に鮭フレークあったよ。あと戸棚の中にスパムがあった気がする」

スパム?…そういえば、スパムおにぎりってあったよな。作ってみるか、せっかくだし。ゴソゴソと戸棚を漁ってみると、確かにはるの言っていた通りスパムが入っていた。誰かが買ってそのままにしちまってたんだろうなぁ…お、賞味期限も大丈夫だ。
味付けは…スパム自体が塩気が強いし、粗びき胡椒とマヨネーズとからしを混ぜ合わせたソースだけで十分だろう。

「うわ、いい匂い。お腹空いた」
「ははっ確かにこれは食欲をそそられるよな。悪い、皿取ってくれるか」
「はいはーい。あ、フライパンはこっちでもらうよ」
「?まだ洗ってないぞ」
「ついでに洗っちゃう。その後、ホットケーキ焼くし」

そう言い切るのと同時に、フライパンはあっという間にはるに奪い取られた。流れるような仕草でスパムを皿に移し、それをどけると宣言していた通りフライパンを洗い出す。…っと、呆気に取られている場合じゃないな。さっさとおにぎりを作ってしまおう。炊飯器を開ければ炊き立ての米が顔を出す。そのまま握るのはさすがに熱いから、いつもボウルに移して少しだけ冷ますんだ。火傷したなんて洒落にならないしな。
そういえば、小さい頃にはるとおにぎりを作った時…冷ますのを忘れて握っちまって盛大に泣いてたこともあったか。あの時の泣き顔と熱さにビックリした顔を思い出して、思わずくつりと喉を鳴らす。
俺達しかいない静かなキッチンだからそれが聞こえたらしい。フライパンを洗う手を止め、キョトンとした顔ではるが俺を見上げた。

「小さい頃、大泣きしただろ。おにぎり作るの手伝った時」
「……よく覚えてるね、そんなこと」
「泣き顔と驚いた顔がな、子供ながらに強烈だったというか…」
「何気にスパッと悪口言うよな、臣くん」
「いやー、だってなぁ?」
「あーもー!我ながらブサイクだっただろうな、ってことはわかってるよ!臣くんのバーーーーカ!!」

プイッと横を向いて、フライパン片手にそこどいて!という声は怒ってる、というより、どこか拗ねている印象で。そんな所も相変わらずだなぁ、と思ってしまう。本当に俺の幼なじみは可愛い。
くく、と笑みを零しながら、粗熱がとれたであろう米に手を伸ばす。ホットケーキが焼ける音、水が流れる音、皿同士がぶつかる音に混じってドアが開く音や賑やかな声が聞こえ始めた。ああ、起き始めたんだな。

「臣さん、遥さんおはようございます!」
「おはよう、咲也」
「うっわ、めっちゃいい匂い!ホットケーキっすか?」
「ホットケーキも、おにぎりも、パンもあるぞ。好きなやつ食ってくれ」

いつだって、この寮は賑やかだ。
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