阿吽の呼吸?
「はる、それ取ってくれ」
「ん、どーぞ」
「…あ、臣くん」
「これだろ?」
「そうそう!ありがとー」
「あれ?」
「十座くんなら着替えに部屋戻ってるよ」
「そうか」
臣と遥ちゃんのやり取りは、いつ見ても熟年夫婦かよ!って大声でツッコみたくなる。これ、この劇団にいる奴なら全員同意してくれると思うんだよな。マジで。
side:万里
2人が幼なじみなのは知ってるし、言葉がなくても意思疎通できてることは多かったけどよ…最初のうちはそれもすげぇなって単純に思ってたけど、こうも何度も何度も繰り返し見てるとツッコミいれたくなるのは仕方ねぇことだと思う。ここまでやってんのにつき合ってねぇって事実に驚くしかねぇよ。
さっさとくっつきゃいいのに、とやきもきしちまうのは所詮、他人事だからなんだろう。他人事だから早くくっつけよとか、告白しちまえよとか言えんだろうなぁ。それを理解するまでに大分時間はかかっちまったけど。…だから、臣達にもそう思うことは多々あれど直接、告げたことは一度もねぇ。
互いに好き合ってるのは確実だと思ってるけど、それを頑なに言葉にしないってことは―――何かしら、事情があるんだってそう思ってるから。言いたくねぇとか、あんだろ。俺にはよくわからねぇけど。好きなら言っちまえばいい、って思うしな。それをしない2人はガキなのか、はたまたそれが大人ってもんなのか。
(大人っつったって、20歳だし…俺達が思ってるほど、そうでもねぇのかもしんねぇけどさ)
淹れてもらったコーヒーを飲みながらそっと視線を移せば、そこには並んで何かを作ってる臣と遥ちゃんの姿があった。それは遥ちゃんがこの寮に引っ越してきてから、度々見るようになった光景だったりする。たまにそこへ兵頭や椋、咲也、それから綴の誰かが混ざってることもあるけど。
でも俺が目撃するのは、臣と遥ちゃんの2人だった。街中で見るカップルみたいにべたべたくっついてるわけじゃねぇけど、でも幼なじみって言葉で片づけるには近すぎるこいつらの距離感はよくわからねぇよなぁ。
「ただいま帰りました!」
「お、おかえり。咲也」
「ただいま、万里くん!臣さん、遥さん、頼まれたもの買ってきました!」
「ありがと、咲也くん!お礼に明日のおやつ豪華にしてあげる」
「えっいいです大丈夫です…!」
「重いもの頼んじまったからな。ご褒美だ」
…父さんと母さんか、あんたら。
咲也の頭を撫でたりする2人を見て、思わずジト目になっちまった俺は決して悪くないと思う。
「あ、臣くん。それ違う、万里くんのはこっち」
「ん?ああ、そうか」
「それと今日の夕飯なんだけどさ、いづみさんと左京さんは帰りが遅くなるからいらないって」
「ん、わかった」
手際良く並べられていくおやつであるマフィンとドーナツが盛りつけられたカゴ。そして俺用に分けて作ってくれたらしい甘さ控えめのドーナツ。遥ちゃんがそれらを運んでいる間に、キッチンに残った臣が使った器具を洗っているらしい。器具同士がぶつかる音と、水が流れる音、そして臣達の会話が今のBGMだ。
ただその会話が今日の夕飯のこととか、明日の朝食のこととか、弁当はどんなのにするかとか…どこぞの主婦かって言いたくなる内容だけど。でも不思議とそんな色気のない会話も、2人の距離感も相まって甘く感じるんだからある意味、すげぇって思う。
「万里くん、どうしたの?眉間にシワ寄ってるよ」
「咲也……いや、なんでもね」
「仲良いよね、臣さんと遥さん」
「…ま、幼なじみだからな。あの2人」
「うん、それもあるんだけど…」
向かいに座った咲也の手が、山盛りになっているマフィンを1つ掴んだ。
「夫婦みたいだなぁって、時々思うんだ」
「わからないでもねぇけどさ…あれでつき合ってねぇんだぜ?臣と遥ちゃん」
「あはは。それ、太一くんも不思議がってたよ」
「だろうな」
別に臣と遥ちゃんの問題だから、外野がとやかく口を出せる問題じゃねぇ。それはよーくわかっちゃいるんだが、…でもやっぱり思うのは、早くくっつけよお前ら!だった。