実はあの子、


「どっせーーーい!!!」
「…今の色気のない声は、リズか?」


晴れたある昼下がり。食堂でコーヒーを淹れて、天気がいいから甲板で休憩しようと扉を開けたら…すっげぇ声が聞こえてきた。つーか、どっせーーーい!!!ってなんだよ、どっせーーーい!!!って。もっと何かこう…色々あんだろ、掛け声って。
うんざりしつつも歩みを進めると、その先にはリズとシャチ。2人を囲むように数人のクルーの姿があった。


 side:ペンギン


何の掛け声だと思ったけど、2人の姿を見てようやくわかった。手合せしてたのか。多分、2人を囲むように座っている奴らは、どっちが勝つか賭けてんだろうなぁ。そういうの好きでよくやってるから。おれとシャチでやった時もいいカモにされたしな。
壁に背中を預けてボケーッと手合せの様子を眺めていると、隣に人の気配。視線だけを動かすとそこにいたのは我らが船長だった。おや、自発的に部屋から出てくるのは珍しい―――と思ったが、その隣にベポの姿が見えて合点がいった。この人、昼寝をしに来たんだな。


「久しぶりですよね。リズとシャチが手合せしてるの」
「ああ」
「ペンギンはどっちに賭けてるの?」
「ん?いや、おれもさっき来たばっかりでな…賭けには参加してないんだ」


でも賭けるとすれば―――…


「リズだろうなぁ…船長は?」
「お前と同じだ。ペンギンとリズなら、わからねぇけどな」
「ああ…そういえば、リズと手合せしたことないですね」


昔からリズが手合せしてたのはシャチだった。というか、シャチの奴が暇になると彼女をひっ捕まえて手合せしようって言ってたからなぁ。何度もその光景を見てるけど、リズが断ってるのを見たことがない。嫌がっている様子も見たことがない気がする。リズも体を動かすことは好きなんだろうな、きっと。
特に海の上では、戦闘がなければ体を動かす機会なんてないに等しい。それこそ自分からきっかけを作らないといけないくらいだ。それを実感しているからこそ、リズはシャチの誘いを断らないのかもしれない。


「シャッちゃん遅い!」
「ぅお?!…ッおれが遅いんじゃなくて、お前がすばしっこすぎるんだよ!!」
「へっへー!それが私の持ち味だもん、ねっ!」


一瞬の隙をついてリズがシャチの懐に入り込み、顎に掌底打ち。うわ、あれダメージでかいんだよな…間一髪の所で避けたらしいシャチは、掠っただけで済んだみたいだが。あれをまともに食らったらもう立ってはいられないだろう。
リズは素早い上に動きに無駄がない。ひとつ外れても次の瞬間には、二手目を繰り出してるから懐に入られると厄介なんだ。攻撃の手が一切緩まない猛攻が始まるからな。今が正にその状態。シャチだってそう簡単にやられやしないが、防ぐのに精一杯だって顔をしてる。プラス攻撃が当たらなくてちょっとイラついてるな、アレ。


「シャチー!お前に賭けてんだから、防戦一方じゃなくて攻撃しろー!」
「リズいいぞ!シャチを負かしたれ!!」
「盛り上がってるねぇ。賭けてるから尚更かな」
「…勝負アリだな」
「え?」


帽子のツバを下げた船長の口元が、ニヤリと弧を描いた。その瞬間、わっと歓声が上がる。勝ったーとか負けたーとか、そんな声も混じっていて、確かに船長が宣言した通り勝負あったらしい。おれが船長の言葉に気を取られ、目を離した一瞬だった。
どっちが勝ったのかと視線を戻すと、リズがしゃがみ込んで伏せているシャチをつついてる。うん、負けたんだな。アイツ。いい勝負するんだけど、ツメが甘いのかリズに勝てないことも多いんだ。それでも懲りずにまた誘うんだけど、シャチってそういう奴だし。


「あーっ負けたー!!」
「にししっ約束守ってよね〜シャッちゃん」
「わぁってるよ!男に二言はねぇ」
「…なんだ、お前ら自身も賭けしてたのか?」


普段、賭けなんてしないのに珍しいなぁと声をかけると、次に上陸する予定の島で菓子を奢ってもらう約束を取り付けてたんだと。
何でもその島の特産である果物をふんだんに使ったタルトで、美味しいと評判らしいんだ。それを何かで知ったシャチがリズに教えた所、勝った方が奢り!と珍しく手合せに誘って来たらしい。


「自分で買ってもいいんだけど、ちょうど体鈍ってたし」
「ちぇー。今回は自信あったんだけどなぁ」
「甘いものがかかったリズは強いよね」
「あ、ベポくんも見てたんだ。じゃあキャプテンも?」
「うん。あっちにいるよー」


ベポがほら、と指差した先には、さっきと同じ場所で壁に背を預けている船長の姿。ただ立ってるだけで絵になる、っていうのも…なかなかにすごいよな。ウチの船長、めっちゃカッコイイ。
リズが嬉しそうにブンブンと手を振ると、船長の口元が微かに緩んだ気がした。


「キャプテン、キャプテン!見てた?シャッちゃんに勝ったよ!」
「ああ、見てた。でもまだ踏み込みが甘ェな…掌底打ち避けられてたじゃねぇか」
「そうなんだよな〜…」


タタッと駆け寄る姿は、まるで犬だ。船長に忠実で、それでいて敵にはバッチリ噛みつく有能な―――番犬。
犬扱いするつもりは毛頭ないけど、敢えて例えるならやっぱりリズは犬ってことになるんだろう。そんなアイツは、ハートの海賊団の頼れる参謀長で、一番槍だ。

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