とにかく安静にしてろ


 side:ベポ


いつもと何ら変わらない朝。この時間帯にキャプテンが食堂にいないのは割とよくあることだし、他の皆もいつも通りのはずなんだけど…何かが変。でも何が変なのかがわからなくて、首を傾げながら受け取った朝ご飯をもぐもぐ咀嚼する。
んん〜?なんだろ、変なのは確かなのにその原因がわかんないなぁ。誰かがいない、とか?いや、不寝番で持ち場についてるクルーもいるから、全員揃って朝ご飯っていうのはなかなかない。そもそもキャプテンがいないことも多いしね。夕食は何も異変がなければ、全員揃って食べることが多いけどさ。


「ベポ、さっきからなに首傾げながらメシ食ってんだ?」
「あ、シャチ。おはよー」
「はよ。…で?何か気になるの?」
「んっと…何かいつもと違うんだけど、何が違うのかわかんなくって…」
「いつもと違う?」


向かいの席に座ったシャチも、こてんと首を傾げた。何だろうね、とおれもまた首を傾げて。


「…なにしてんだ、ベポ。シャチ」
「あ、ペンギンもおはよー」
「おう、おはよ。…あれ、リズはまだ起きてないのか?」
「…あっそれだ!!」


ピーンときてガタッと立ち上がれば、シャチもペンギンも肩をビクッと震わせてこっちを見た。ちょっと離れて朝ご飯を食べてたクルーも何事だ?とこっちを見てて、何だか注目の的だおれ。


「び、びった〜…それって何だよ」
「だからリズだよ!いつも早起きのリズがいないから、変な感じがしたんだ。あの子、不寝番だったっけ?」
「いや、アイツじゃない。珍しく寝坊か?」
「けど毎朝、新聞受け取ってんのアイツだろ?今日の新聞なら定位置に置いてあるぞ」


いつからだったか覚えてないけど、ニュースクーから新聞を買うのはリズの役目なんだ。あの子はあんまり夜更かししないし、朝にも強いから割と早い時間から起きて朝食当番の手伝いもしたりしてる。
だからうっかり寝坊していない限り、いつもこの時間には食堂でおれ達と一緒にご飯食べてるはずなんだけど…今日はリズの姿が何処にもない。でも今日発行の新聞は、シャチの言う通り定位置に置いてあるんだよね。ということは、起きてはいるってことだよねぇ?もしかして先に食べ終わってもう仕事してる、とか?


「それはないな。そこまで早い時間に朝食はできあがってないはずだから」
「だよなぁ。どうしたんだろうな、リズ」
「船長の所…?いや、こんな朝っぱらから行くとは思えない」
「ね、ねぇ、まさか具合が悪くて寝込んでるとか…ないよね?ベッドから起き上がれないとか」


もしかしたら、今日の新聞は誰かリズじゃない人が受け取ってるとか。
何だか嫌な予感がしてペンギンとシャチに声をかけてみれば、2人共ピタッと箸が止まった。そしてサーッと血の気が引いていき、真っ青に。立ち上がったのは3人同時で、今度はなんだ?!と皆の視線がおれ達に集まっているのがわかる。わかるけど、それ所じゃなかった。だって一大事かもしれないんだ!妹分の!!
食べかけの朝ご飯はそのままに(ちゃんと当番のクルーにそのままにしておいてねって言ってあるよ!)、おれ達は食堂を飛び出してリズの部屋へと急いだ。代表でペンギンがコンコン、とドアを叩くけど、返事はない。耳を澄ませてみても物音もしない…かな。あれ?いないのかな。でも誰かいる気配だけはするから、多分リズだと思うんだけど。


「リズー?もう朝メシの時間だぞー起きろー」
「…仕方ない。気は引けるが、開けるぞ」
「うん!」


ペンギンがそっとドアノブを回すと、鍵はかかっていないらしくあっさりと開いた。おれ達が乗っているのは潜水艦だから、窓の数が極端に少ない。でもリズの部屋には1つだけ窓があって、そこには可愛いカーテンがあるんだ。
だけどカーテンは閉ざされたままで、ベッド脇のランプが薄らと部屋の中を照らしているだけ。…あれ、ベッドにはいないや。人の気配がしたはずなんだけど、気のせいだったのかなぁあれ。やっぱりどこか別の場所にいるのかも、と視線をベッドから床に移した時―――何かが、そこに転がってたんだ。


「リズ?!」


それは、部屋着に身を包んだリズだった。


「おい、リズ!…うっわ、コイツめちゃくちゃあっちいぞ?!」
「風邪かもな…ベポ、船長叩き起こしてきてくれ。シャチは当番の奴に言って氷もらってこい」
「う、うん!」
「わかった!」


ペンギンの指示でおれは慌ててキャプテンの部屋に行った。この時間じゃ絶対、熟睡中だと思うんだけどリズの一大事!起きてもらわなきゃ困るんだよキャプテン!
ノックしないで開けても良かったんだけど、開けた瞬間にバラされても困るから、ゴンゴンゴンッと勢い良く叩いてみる。このくらいの音だったらきっと熟睡中でも起きてくれると思うんだ!


「……うるせぇ、なんだベポ…」
「キャプテンおはよう!大変なんだ、リズが部屋で倒れてて…すごい熱があるの!」
「リズが…?わかった、すぐ行く」


一旦、部屋に引っ込んだけどキャプテンは着替えを済ませて、すぐに顔を出した。また隈が濃くなってるし、寝ぐせもついたままだけど構ってる暇はないよね。
キャプテンと一緒にリズの部屋に戻った時には、もうあの子はベッドに寝かせられてて額には氷嚢が載せられてた。傍にはペンギンとシャチがいて、キャプテンの姿を見て2人共ホッとしたような顔。もう大丈夫だって顔になった。


「船長〜!リズがめちゃくちゃあっちいんですよ!!」
「最近、力を使うような戦闘もなかったので多分、疲労か風邪だと思うんですが…」
「だろうな…リズ、聞こえてるか」
「ぅ、……きゃぷ、てん……?」
「そうだ。診察するぞ」


キャプテンが声をかけると、リズが薄らと目を開いた。でも開かれた目は虚ろで、いつもの光は宿っていない。具合が悪いんだから当然だけど…やっぱり心配になっちゃう。リズにはいつだって元気でいてほしいから。


「どこか痛むか?」
「どこもいたくない…平気…」
「…聞き方を変える。辛い所は?」
「つらい………あたま、が重い…」
「口開けろ。少し我慢してろよ」


リズの口を開かせて喉を見たキャプテンは、溜息をひとつ吐きながら風邪だ、と呟いた。喉が少し腫れてるけど、このくらいなら数日で良くなるはずだって。
リズは薬が効きにくい体質だから、滅多なことがない限り薬は処方しないんだって前にキャプテンから聞いた。それでも熱が高いのは辛いから、って、キャプテンが何度も何度も試してようやくリズの変わった体質にも効果が出る解熱剤を作り上げてたけどね。今回はそれを点滴に溶かして、様子を見るみたい。
でも良かった〜大したことなくて…床に倒れてるのを見た時は、どうなることかと思ったけど。


「うあー…ビビッた」
「リズ、こっちの寿命が縮むから倒れるまで我慢してくれるなよ」
「…ん。ごめん、なさい…」
「ペンギン、点滴の準備してこい。シャチは今日の当番に野菜スープ作るように指示出し」
「わかりました」
「アイアイ!持ってくるのは昼でいいんすか?」
「ああ」


パタパタと出ていく2人の姿を見送って、キャプテンは静かにベッド脇の椅子に座った。症状は少し前から出てただろとか、我慢するなと何度言えば気が済むんだとか、お小言を並べてるんだけど…それでもリズを見つめる目は、何だかいつもより柔らかくって、優しくって。おれはそれが嬉しくてね、くふくふ笑いながらそっと部屋を後にしたんだ。

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