全ては嘘と強がりでできている
リズの様子が何か普段と違う、と思ったのは、島が見えた頃だった。驚いたように目を見開いていたような、そんな気がしたんだ。ただ、それはほんの一瞬で瞬きをしている間に驚きの表情は消え、嬉しそうに他のクルーとどんな所だろうか、と話をしている。
一瞬すぎて真偽がわからん、おれの見間違いだったんだろうか?見間違いならば、それはそれでいい。杞憂で済むのならそれに越したことはないからな。けれど、どうしたってさっきの表情が脳裏をよぎって消えそうにない。何というかこう…胸がざわつくというか、嫌な予感ばかり募っていく感じなんだよな。
side:ペンギン
「あれ?リズはまだ来てないの?」
「来てないのってベポ…お前も船に残ってたんじゃねぇの?」
「うん、残ってたけど…あの子、おれが昼寝している間に出かけたみたいで」
船番をしている数人を除き、夜は酒場に集まって宴をする予定になっていた。自発的に船に残っていたリズとベポも、後から合流する予定になっていたんだが…姿を見せたのはベポだけ。一緒に来るだろうと思っていたおれ達は、その事実とベポの言葉に面食らった。
「出かけた?特に用事ないから行かない、って言ってたのにか?」
「船番してた奴に聞いたら、急用ができたーって言ってたって」
急いで出かけていったみたいだよ、とベポは定位置の船長の隣に座りながら首を傾げた。
まぁ、急用ができたんなら仕方ないが…何か足りなくなったものが出てきたのかもしれないからな。それを咎めるつもりは更々ないが、リズが時間に遅れるなんて珍しいと思う。マイペースな奴ではあるが、時間を指定すれば必ず10分か5分前には待ち合わせ場所に姿を現すから。
とはいえ、宴だってついさっき始まったばかりだし、何より時間厳守ってわけでもない。だから別に遅れたって罰があるわけでも何でもないんだけどな。それでもどこか引っかかるのは、リズもこうして皆で騒ぐのが好きなのを知っているからなんだろう。そのうち来るだろう、とジョッキを煽れば、いまだ首を傾げていたベポがでもね、と言葉を紡いだ。
「リズ、つなぎもキャップも身に着けてなかったんだって。滅多に着ない私服着てたんだって」
「…私服?」
「うん。そりゃ持ってるのは知ってるし、特に理由があるわけじゃないと思うんだけど…急いで出ていったって言ってたからちょっと気になってるんだ」
船長が賞金首になったのもあり、無名だったハートの海賊団も大分認知度が上がってきた。それにおれ達は揃いのつなぎを着ているし、つなぎにもハートのシンボルが刺繍されているからそれで海賊だって騒がれることも段々増えてきている。それを厭わしいと思わないわけではないが、名が知れていくというのはやっぱり嬉しいものだった。
それを一際喜んでいたのは、他の誰でもないリズだ。
船長が賞金首になった時もそう、受け取った新聞に挟まれていた手配書を見て、当の本人よりも喜んでいたのは記憶に新しい。それはもうすげぇ喜びようだったし、何なら船長ちょっと引いてたからな。
…話が逸れた。それだけハートと船長を愛しているアイツは、船長命令でつなぎを脱げって言われた時、ものすっごい渋るんだよ。いくら大好きな船長の命令でもそれは嫌だ、ってごねる。だから自分から私服に着替えるなんてこと、寝る時以外は考えられないんだよなっていうのがおれの見解。ベポが引っかかってるのも、その辺りをしっかりと理解しているからだろう。
「船長…」
「アイツが私服で出かけていったからといって、何か問題に巻き込まれたわけじゃねぇだろう。放っておけ」
「だといいんですけどね…」
一旦は引っ込んでいた不安や嫌な予感が、また忍び寄ってくる。船長の言うように問題に巻き込まれたわけじゃないだろうし、そう決めつけるのはまだ早すぎる。世の中には気まぐれって言葉だって存在する。だから無駄に心配するなってことだと思うんだが…島が見えた時のあの表情と、珍しく下船しないと言っていた時の表情や声音を思い出すと、どうにも落ち着かん。
あの時、リズは笑って何でもない、大丈夫だと言ってはいたが―――それは果たして、本心だったんだろうか?ジョッキ片手に考えに耽るものの、結局は周りの騒がしさに流され色んなものが霧散していく。遅れて姿を現してくれればいい、杞憂だったなと苦笑できればいい…けれど、それはあまりにも無残にも打ち砕かれていく。
「なぁ、あの噂知ってるか?」
「あ?どれだよ」
「人間兵器作ってる施設の噂だよ!」
「ああ…あれか。単なる噂だろ?ンなもん実際には有り得るワケねぇって」
「いやいや、わかんねぇぞ?今日、変な奴らが女連れて立ち入り禁止の森に入っていったって噂も―――」
『人間兵器』、『施設』、『女』というキーワードにジョッキを煽る手がピタリ、と止まった。あまりにもタイムリーなキーワードすぎて洒落にならんし、笑えない。おいおい…アイツ、無関係だろうな。
戯言にも近い会話を船長も聞いていたらしい。ジョッキに口をつけたまま、視線をゆらりと男共に向けた。その視線はひどく厳しいもので、この人あの男共に突っかかっていかねぇだろうな…と変に心配になる。本人にケンカ売るつもりはなくとも、言葉足らずやら何やらで話しかけられた相手はケンカを売られたって勘違いするんだよな。真偽を問いたいならおれかシャチが行くべきだろう。命令してくれればすぐにでも動くつもりだが…船長はどう考えているんだろうか。
「噂…なぁ?」
「曖昧すぎる情報ですが、無関係とも言いきれませんね」
「キャプテン…!」
「そう心配するな、ベポ。…ペンギン、探れ」
「アイアイ」
下された船長命令を完遂すべく、おれはゆっくりと立ち上がった。
「オニーサン達、ちょーっと聞きたいことあるんだけど…時間くれない?」
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