蝶の行方
「船長、情報収集が粗方終わりましたよ」
「ずいぶんとかかったな。聞かせろ」
リズが姿を消して2日―――噂話を元にアイツの居場所やらを探っていたペンギンが、ようやく場所を突き止めた、と船に戻ってきた。ペンギンにしちゃあ時間かかったな、と思ったのは船長も同じだったらしい。
一番はリズだけど、ペンギンの情報収集能力も決して低いわけではない。だけど、今回の情報の元が噂だったからなっかなか集めらんなかったんだと。昼夜問わず島中を歩き回っていたらペンギンは、疲れ果てていた。そりゃそうか。
side:シャチ
ペンギン曰く、立ち入り禁止になっている森の奥深くにでっかい建物があって、恐らくはそこが例の実験施設だろうって。森の入口まで行ってみたけど、思ったより森が深くてそっからじゃ建物があるのかどうかは確認できなかったらしい。けど、見張り役っぽい奴らがうろついてたから間違いはないだろうってさ。
「リズが出かけてくる、と船を下りた日に、森へ入っていく女の姿を島の奴ら数人が目撃してます。念の為に特徴を伝えて確認してみましたが、十中八九リズかと」
「…そうか。で、実験施設は稼働してんのか?」
「話を聞いてみただけでは何とも…ですが、あの森を根城にしている奴らがいるのは確かみたいですね」
昔、あの森は立ち入り禁止ではなかったらしい。それが十数年前、突然やってきた奴らが占拠した―――が、それはその頃のお偉いさん達の手で隠蔽されたんだと。けど、噂としては残っちまったみたいだな。だからこの島に住む大半の奴らが、噂としては聞いたことあるけど…って感じだったらしい。
それだけならまだいいが、隠蔽することになった理由はちょっといけ好かねぇんだよなぁ。まぁ、簡単に言うと金の為、だな。場所代とか口止め料とか、その他諸々?とにかく口外しなきゃ、この島には一定額の金が入ってくる。それでいて自分達に被害がこなけりゃ、そりゃあいいことづくめだよな。
「でもさー、その実験施設の大本ってリズがいたとこだろ?」
「恐らくはな」
「だったらこの島の施設が稼働してる可能性って低いんじゃねぇの?」
「…そうとは限らん。大本が潰れても、こっちに拠点を移せばいいだけの話だ」
「あ、そうか」
おれ達がリズに会ったのは、もう施設が爆破された後だった。どんな施設だったのかは簡単にリズから聞いたし、噂で聞いたことがあったけど…そんなのがまだ他にもあったなんて考えもしなかったな。そしてアイツもまた、自由な海から不自由な場所へと連れ戻されちまったし…いや、目撃情報とかベポや船番の奴らの話をまとめるとリズ自身の意思でついていったのか…?
信じたくねぇけど、嘘だって思いたいけど、もしかしたらアイツは…リズは―――もう戻ってくる気が、ないのかもしれない。でもそれを言葉にしたらいよいよ終わりな気がして、おれは口を噤んだ。
「それでどうしますか?船長」
「―――夜更けに決行する。ペンギン、シャチ、ベポ、準備しておけ」
「うん!」
「アイアイ、船長!」
「他の奴らは?待機ですか?」
「ああ。買い出しはもう済んでるだろ」
戻り次第、船を出す。出港準備をさせておけ。
それだけ言うと船長は部屋を出ていった。留守番組は文句言いそうだけど、あんまり大人数で行くのは得策じゃねぇもんな…夜更けに決行するってことは、恐らくそういうことだ。
バカでかい建物じゃなければ、最低限の人数で乗り込むのが最適。別にその施設をぶっ壊すわけでも、施設の奴らをぶっ飛ばしに行くわけでもない。仲間をひとり、連れ戻しに行くだけだから。
「リズ…大丈夫かなぁ。痛い思いとか、辛い思いとかしてないかな」
「いる場所が場所だ…それは無理な話だろうな。医務室の準備もしておくよう伝達しておくか」
「治療は船長がするだろうけど、その方がいいだろうな〜」
「じゃあおれは全員に伝達してくる。2人は仮眠とっとけ、長丁場にならないとは言えないからな」
「おー、いってら」
ペンギンも出ていき、残ったのはおれとベポだけ。ベポはリズのことが心配で仕方ないのかずっとしゅん、とした顔。ある意味、情けない顔とも言えるけど…それは他の奴らにも言えることで。あんまり情けない顔晒してると船長にバラされるからアレだけど、ふっと気を抜いた瞬間とか、そういう時に表情が曇るんだ。
今思えばリズがいなくなったことなんかなかったからなぁ…ずいぶんと船内が静かだ。アイツの声が、しないだけでこんなに。唯一、船長だけは普段と変わらないように見える。でもきっと、おれ達の中でいっちばん心配してて動揺してるのは船長だ。あの人は表情があんまり変わらないし、それを表に出さないようにしている人だから…だから胸の内は誰にもわからないけど。
でもそんな気がするんだ。ウチで一番リズを想ってるのは、大事にしてるのは、やっぱりあの人だから。おれ達だって妹分であるリズが可愛いと思うし、大事だって思ってるけどな。
「うしっベポ、仮眠とろうぜ」
「え、あ、うん…でも、」
「船長が決行は夜更けっつってたろ?それまでに万全にしておかねぇと」
「うん…そうだよね」
「…大丈夫だよ。船長もいる、おれ達もいる。絶対、連れ戻せる。な?」
しょんぼりするベポの頭を撫でてやれば、眉はハの字のままだったけどそれでも笑みを浮かべて頷いた。
そうさ、アイツは絶対に連れ戻せる―――それは絶対に揺るがない、事実だ。
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