その首に懸けられたし金の値
海の上で生活をしていると、新聞から得られる情報というものは宝だ。お金と同じくらいの価値があると、私はそう思っている。そりゃあ陸で暮らしてたって情報は価値のある宝だけど。
でも陸には同じように生活をしている人間が周りに存在するから、噂やら何やらで情報は意外と入ってくるものなのだ。それに別の島から物資を運んでくる人だっているし、海軍が立ち寄ることだってあるから酒場へ行けば自然と集まる。それでも手に入らない情報は、新聞で仕入れればいい。
まぁ、そんなことしなくたっていいと言われてしまえばそこまでなんだけど…海賊を名乗る以上、より多くの情報を知っておくに越したことはない。その情報のひとつが私達の命を左右する、なんてことだってないとは言い切れないのが、この『大海賊時代』なんだから。
「…あ、『麦わらのルフィ』の賞金が上がってる」
新聞の間に挟まっていた1枚の手配書。それはいつぞや見た麦わら帽子をかぶった少年のものだ。確か前に見た時は3000万ベリーだったよね、それが1億ベリーかぁ…7000万の金額アップ。妥当な上がり方と言えば、妥当なのかな。こういうのはどうして上がったか、とか語られることがないからなぁ。詳細を知る術がないっていうのがね、ちょっと面白くはない。
別に他の賞金首のことだったらそんなに気にしないけど、ほら、ウチのカッコイイキャプテンも賞金が懸かってる海賊の1人ですから!知ることができたら嬉しいよね、って話。そしてキャプテンの手配書、もう1枚ください。切実に。
「お前、まだ船長の手配書を諦めてなかったのか…」
「だってカッコイイじゃん!あの手配書の写真!手配書がダメなら写真を、―――んぎゅ!」
「やめろ。ストーカーか、お前は」
「船長、おはようございます…ってもう昼ですけどね。コーヒー飲みますか?」
「ああ、頼む」
思いっきり打ちつけた鼻を擦りながらガバッと顔を上げれば、やっぱりキャプテンが私の隣に座っていた。そして涼しい顔で新聞を読んでいます。ごめんとか、謝罪の言葉はないんですか。
「謝る必要がどこにある」
「ええ〜…そりゃあまぁ、大して痛くないっつーか痛み感じてないけどさぁ。慣れてるし」
「さらっと自虐ネタぶっ込むんじゃねぇよ。おれがいつでも虐待してるみてぇだろうが」
「そんな勘違いを起こすクルーはいませんー大丈夫ですー」
だってハートのクルーは皆、私の境遇とか正体?とか知ってるし。率先して話したワケじゃないけど、まぁ一緒に旅をしてるわけだし…話さなくてもバレちゃうことってありますよね。うん。大半が戦闘とかそういうのでバレて、かいつまんで話したりした。そして気がつけば、旗揚げメンバーしか知らなかったはずの事実が全員に知れ渡っていた、という。
別に私も隠してるわけじゃないし…確かに突っ込んで聞かれたり、興味本位で聞かれたりするのはとてつもなく嫌だけど!それでも大事な大事な仲間である皆には、できるだけ隠し事をしたくないっていうのは本音だったりする。事実を知っても誰ひとり、態度を変えないでいてくれたのは嬉しかったなー…うん。
「そういえば…鰐さんが七武海の称号剥奪だって」
「ワニ?…ああ、クロコダイルか。じゃあ監獄行きだなぁ、そいつも」
「何だっけ、…なんか秘密結社?だか何かの社長をやってたとか何とか」
アラバスタを乗っ取ろうとしていたとか、国民を騙していたとか、混乱に陥れようとしていたとか…まぁ、そんなことがあったらしい。しかもアラバスタって世界政府の加盟国だしねー…そんな国で悪事を働いたことは、そりゃあもう立派な反逆罪とみなされても仕方のないことでしょう。
七武海はいい隠れ蓑だった、ってことなのかなぁ。鰐さんにとって。その裏にどんな思惑があったのか、それを知りたいとは思わないけど。
「しかし、海軍と世界政府が進んで七武海の1人の企みを突き止めたとは…あまり思えねぇけどな」
「まぁ、それはごもっともだけど…その辺りは詳しく書かれてないんだよね」
「隠蔽したい事実でもあったんじゃねぇのか?…興味はねぇがな」
「にししっさすがキャプテン!」
海軍のやることも、世界政府のやることも、興味なんてこれっぽっちもない。自分達の航海に支障が出ないのであれば触れないのが吉。前に立ちはだかってくるんなら、蹴散らすだけ。
そう、ただそれだけのことなんだよね。興味はない、と一蹴したキャプテンに笑みを深め、テーブルの上に置きっぱなしだった手配書に視線を戻す。
「船長、どうぞ。ついでに腹に食いもんいれてください」
「ああ」
「リズも昼メシ食ってなかっただろ。どうぞ」
「ありがと、ペンくん」
「…リズ、手配書か?それ」
「んぐ、…うん、そう。今日の新聞に挟まってた」
「―――こいつ、イーストブルーの奴か」
「そういえば噂で聞きましたね。最弱の海・イーストブルーの海賊に初頭で3000万の額がついたとか…」
あー、そうだ。手配書を初めて見た時、そんな噂を聞いたような気もする。イーストブルーは最弱の海って呼ばれてて、海賊達にももちろん懸賞金を懸けられている奴はごまんといるけれど金額はそう高くはないらしい。
いや、高くはないって言われてるけど…一般人の感覚からしたら、1000万とか高いと思うけどね。そこそこ遊んで暮らせるよ、それだけのお金があったら。旅をしてたらすぐなくなっちゃうだろうけど。私、一般人でも何でもないけど。
「気になるのか?この男」
「うん?ん〜…気になるのかなーどう思います?キャプテン」
「こっちが聞いてんだアホ」
おにぎりを頬張るキャプテンにベシッと頭を叩かれた。痛くはないけど、あんまりバシバシ叩かれるとバカになるからやめて。
今更とか言わないで、鼻で笑うのもやめて傷つく!!プリプリ怒りながら2個目のおにぎりに手を伸ばした。
「なーんか引っかかるというか…んんん」
「リズのセンサーに引っ掛かるとは、よっぽどだな」
「なにそれ。私、センサーなんかついてないんだけど…」
「だが、似たようなもんはあるだろ。お前の情報収集能力はウチの中じゃ一番だからな」
「わーい、キャプテンに褒められたー!」
「……単純な奴」
くつくつと笑うキャプテンと、苦笑しながらコーヒーを飲むペンくんを交互に見比べ、そして私はまた笑みを深くした。
- 21 -
prev|back|next
TOP