はぐれた、じゃ済まされない


「おー…これはこれは……立派な森林デスネ?」
「森林じゃねぇよ。ジャングルだよ、立派な!!」


生い茂る樹木を見上げて感嘆の息と、斜め上の感想を漏らしたリズにシャチが勢い良くツッコミを入れている。決してバカな奴じゃないんだが、…時々、予想もしていないすっとぼけをかますんだよな。コイツ。
それも斜め上すぎて反応に困ることも多々あり。今みたいにツッコミを入れられるだけマシな方だ、と思わないとやっていけないことだってあるんだ。うん。


 side:ペンギン


しっかし…これはまた、本当に立派なジャングルだな。ここに薬草が自生してるって話だったが…本当かよ。木も草も多すぎて見つけられる自信がねぇよ。だが、意地でも見つけねぇとどうにもならねぇしやるしかないんだが。
この島に来ることになったのは、薬の仕入れの為に行った薬屋のおっちゃんの言葉がきっかけだったりする。

『は?薬がない?』
『ああ。残念ながらこの紙に書かれてる薬のほとんどが、今じゃ作られてないものばっかりなんだよ』
『どういうことだ?そんなに珍しい薬でもねぇだろ』
『ああ、あんたの言う通り珍しい薬じゃあない。だが…原料の薬草が近くの島に自生しているんだが―――その島を海賊が根城にしちまっていてな…取りに行くこともできねぇのさ』

他の島から薬を仕入れることもできるが、この島に物資を積んだ定期船が来るのは月に一度だけ。そして定期船に積まれている薬のほとんどが、病院へと納品されちまうらしくて個人経営の薬屋に卸されることは滅多にねぇんだとよ。
そりゃあそうだよな。卸す先をでっかい病院と個人経営のこじんまりとした薬屋、どっちを選ぶかと聞かれたら、ほとんどの奴が前者を選ぶだろうよ。その方が収入だって安定するからな。
諦めて次の島で仕入れを、って案も出たんだが、おっちゃんの話だとログが貯まるまでに1週間弱、そして次の島に到着するまでログが貯まるのと同じくらいの時間―――つまり、1週間弱かかるっつー話だ。今はまだ数が少なくなった薬を必要とするような病気に罹ったクルーはいねぇ。全員、健康体だ。
だが、それがいつまで続くかはわからねぇし…いつ何が起こるのがわからないのが、海の上だ。準備は整えておくに越したことはねぇ。まぁ、現在おれ達が此処にいるってことを踏まえれば…ウチの船長がどんな決断をしたかなんて、手に取るようにわかるだろ?
薬屋のおっちゃんが持ってるっつーエターナルポースと小舟を借り、船長・リズ・ベポ・シャチ・おれの4人で島にやってきたってわけだ。ついでに海賊も始末しておいてやる、って船長は言ってたけど…鬱蒼と木が生い茂っている状態で鉢合わせることがあるのかどうかも疑問だ。


「キャプテーン、おじさんが言ってた海賊って鉢合わせたらぶっ飛ばしていいの?」
「ああ構わねぇ。邪魔するようなら遠慮なくぶっ飛ばして、縛っておけ」
「アイアイ!」
「でも船長、海賊退治まで請け負うんなら他の奴らも連れて来れば良かったんじゃねぇっすか」
「人数が多すぎても動きづれぇし、そう大きくねぇ島だ。不利になるだろ」


少ない方が戦闘になった時に相手を翻弄できる、置いていくクルーを船長はそう説得した。船長の言うことは尤もだし、実際に島に来てみてわかった。確かにそう大きい島ではないな…昔は人が住んでいたらしいが、今となっては例の海賊以外に人は住んでねぇって話だし。うん、人数を絞って行動するのが正論かもしれない。
乗ってきた小舟を浜辺に上げ、船長がエターナルポースと一緒に借りてきた島の地図をバサリ、と広げた。


「おれ達がいるのがここ、薬屋の話じゃあ海賊がいるのは…大体この辺り、島の真ん中だな」
「薬草が生えてるのは?」
「島の外周をぐるっといっているらしい。要は水辺に近い場所だ」
「そう大きくはねぇ島ですが…外周をぐるっと回るとなると、割と時間がかかりますね」
「だから手分けするぞ。ペンギン、リズ、お前らはこっちから行け。おれ達はこっちからだ」
「アイアイ、キャプテン!」


ある程度の量が集まったらまた、この小舟を置いた浜辺に集合―――何かあったら、自分で何とかしろ。というこれまた船長らしい言葉を頂き、おれは苦笑するしかできない。リズは隣で楽しそうに笑いながら船長らしい、と言ってるけど。
いや、船長らしいけど………まぁ、いいか。船長ばかりに頼ってはいられない。グランドラインを五体満足で生きていく為には、もっと強くならないといけないと思っていた所だ。その一環だと思えばいい。


「じゃあ行くか、リズ」
「アイアイ、ペンくん!キャプテン達、また後でね!気をつけてねー」
「リズとペンギンもね!」


船長達と別れて島の端まで来てみれば、成程。確かに教えてもらった通りの形をした薬草が、そこら中に生えていた。念の為、これまた借りた植物図鑑で隅々まで確認をしてからブチブチと引き抜いていく。
引き抜いたそれらをリズに抱えてもらってるカゴの中に次々と放り込んでいけば、そう大きくはないカゴはあっという間に薬草でいっぱいになった。これを何十回と繰り返さなきゃいけねぇわけだけどな。こんなことならでっかいビニール袋でも持ってくるべきだったな。そうすれば小さいカゴを中継せずとも良かったのに。


「薬って作り方教えてもらえたりしないのかなー…」
「弟子になれば教えてもらえるんじゃないのか?」
「ええっ弟子になりたいわけじゃないんけど」
「じゃあ無理な話だろ。んなの教えたら商売上がったりだ」
「そりゃそうだけど…作れた方がお金かからずに済むじゃんか」


まぁ、確かにリズの言うことは一理あるけどな。けど、ストック分を考えると…手作りっていうのは些か効率が悪い。かと言って、使う度に作るってのも面倒だ。そうなるとやっぱり、買った方が早いって結論に行きついちまう。
船長だって考えなかったわけではないだろうが、それを実行していないということは―――効率が悪いと思っている節が、少なからずあるということなわけで。
うーん、でもストックが心許ない時には有効か…?いやいや、行く先々で必要な薬草が自生しているとは限らねぇ。やっぱり無理か、と考えながら引き抜いた薬草を弄ぶ。


「いい案だとは思うが、素人じゃ作れねぇものもある。その辺りは船長に要相談だな」
「そっかー…私も薬の勉強しようかなぁ」
「なんだ、急に。薬はともかく、船長の助手くらいはできるだろ?お前」
「できるけど、こういう薬草とか…見た目もそうだし、効能も知っておけば急ごしらえの薬が作れるじゃない」


カゴの中から薬草を1本取り、それを太陽に翳した。じっと薬草を見つめるリズの横顔は、ずいぶん昔に見たことがある。いつだったか…そうだ、コイツがおれ達と旅をするようになって、懐き始めてくれた頃だ。

戦うことでしか役に立てない、だから他にも此処にいる『理由』が欲しい―――そう言った時の顔と、全く一緒。捨てられることを恐れている、子供のような顔。

初めは戦うことでこの船にいる『理由』を作り、その次は戦うこと以外で船にいられる『理由』を探して、今でも…必要とされるように『理由』を必死で探してる。
全く…コイツは何年おれ達と一緒にいたんだ?そう頑張って『理由』なんざ探さなくても、見つけなくても、あの船長が手離すわけないだろうに。そんな薄情な人じゃないのは、リズだってよくわかっているはずだ。バカだな、本当。
ぽん、と頭に手を置けば、リズは緩慢な仕草でこっちを見た。


「なに?」
「ンな必死にならなくても、お前はハートのクルーだろ」
「!」
「理由なんざなくても、あの人はお前を下ろしたりしねぇさ」
「……うん」


さて、この辺りの薬草は大体摘み終わったか。リズの表情も元に戻ったし、先に進むとするかな。


「先に進むぞ」
「ほいさー」
「…気が抜ける返事だな…」


ザクリ、と更に奥へ足を踏み入れた時、空気が変わったような…そんな嫌な感じがした。隣を歩いていたリズも何かを感じ取ったらしく、辺りに視線を巡らせながら眉間にシワを寄せている。
気配をハッキリとは感じねぇが、例の海賊達か…?!得物に手を伸ばし、臨戦態勢を取ろうとした瞬間だった。妙な浮遊感に、襲われたのは。

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