地の底、海の底
名前を呼ばれた気がして、ふわふわと意識が浮上する感覚。
うー…朝なのかな、名前を呼ばれてるってことはそういうなんだよね。でもまだ起きたくない、って体中が拒否してるんだって。もう少しだけ、
「リズ!起きろ!!!」
「ッう、わ……?!」
耳元で聞こえた大きな声に思わずガバリ、と起き上がった。そして視界に映ったのはホッとしたように息を吐くペンくんと、真っ暗な空間。あれ?もしかしなくてもここ、ポーラータング号の中じゃない…?というか、私が座ってるの地面だ。それも直に。
そこまで考えてようやく思い出した、私はキャプテン達と薬草摘みとついでの海賊退治に近くの島まで足を延ばしたんだってことを。それで奥に進もうとして嫌な感じがしたんだ…それで、…それで?あれ、その後の記憶がさっぱりなんだけど。首を傾げて何が起きたんだ?と独り言を呟くと、私と同じように地面に座り込んでいたペンくんが穴に落ちたんだよ、と教えてくれた。
んん?穴、ですと…?!
「穴?!」
「でけぇ声出すなって。穴だよ、文字通り落とし穴!それもかなりでっかいやつな」
嘘でしょ、と恐る恐る上を見上げてみたけれど、薄らと光が見えるくらい。つまりは、かなりの深さがあるってことです。うわー、ドジッたってレベルじゃなくない?これ。
「とりあえず座ってても仕方がねぇ。奥に行ってみよう」
「でも出口とかある…?」
「お前が寝こけてる間に少し見てみたが、この穴は自然にできたもんじゃねぇよ」
「…例の海賊?」
「多分な。自然にできてたとしても、こんな綺麗な穴にはならねぇさ。それに落ちるまで穴が開いてることに気がつかなかったし」
…言われてみれば。嫌な感じがしたのは確かだけど、周りを見ても一面緑だったもんな。穴が開いているような感じは全く、なかったと思う。自然に開いた穴じゃないと仮定すれば…気がつかなかったことにも説明がつく。意図的に穴を隠している、ということだもんね。そして私達はそこに運悪く足を踏み入れ、穴の底へ真っ逆さまに落ちてきたってわけかぁ。
奥に海賊が待っていたりするんだろうか。鉢合わせしたらぶっ飛ばしていい、と言われてるから容赦するつもりはこれっぽっちもないけど、面倒じゃないわけではないのです。でも倒しておかないとこの薬草を薬屋さんは、一生摘み取りに来れないわけで。人助けとか、そんなのは趣味でもガラでもないんだけど…何となく、協力してあげたいって思ってしまったというか。一番は船長命令だから、なんだけれども。
「…ペンくん」
「うん?」
段々と目が慣れて来た頃、少し先にぼんやりと白いものが見えた。人?動物?…でも生きてる感じが、ない。気配を感じないということは、無機物ってことなのかな。んんん、でもよく見えないからハッキリと言えない。だけど何かがあるのは確かだから、少し前を歩くペンくんの名前を呼び、振り向いた彼に何も言葉を返さないでスッと指を差した。
指先を辿るようにペンくんの視線がゆっくりと動き、ピタリと止まる。何かを認識したみたいだけど、その正体はやっぱりわからないのかペンくんはこてん、と首を傾げちゃいました。ああ、ですよね。もっと近寄らないと何かまではわかんないよねー。気配はないし、多分、警戒しないでも大丈夫。うん。
念の為に持ってきていたダガーの柄を掴み、いつでも抜ける状態にしてからタタッと駆け寄った―――けれど、本当に警戒心なんて無用だった。そして武器も。
「人骨…?!」
「それもひとつふたつじゃない、かなりの量だよ」
「この穴に落ちて餓死したか、それとも…」
ゴロリ、と転がる頭蓋骨をひとつ掴み、ペンくんの指がツツ、と傷痕のようなものをなぞっていく。
「殺されたか、だな」
彼の指がなぞった傷痕のようなものは、何か棒状のもので突かれたことによってできたものだろう。キャプテンに教わりながら医術は少しずつ勉強してるけど、実際に見ることはそこまで多くない。しかも白骨化した状態なんて、そうそう見る機会なんてない。…いや、そうそうどころか一切ないわそんな機会。普通に生活していれば。
だから、なんていうのは言い訳かもしれないけど、見ただけで死因がハッキリとわかるわけじゃないのよね。キャプテンならわかるかもしれないけれども。
「でもまぁ…この島の状況を考えたら、餓死っていう可能性は低いかもね」
「そうだろうな。……リズ、武器を構えろ。何かいるぞ」
「!」
ダガーの柄を握り直し、臨戦態勢を取れば―――奥からジャリ、と地面を踏みしめる音が響き渡る。徐々に徐々に近づいてきて、やがて足が見えた。今度こそ、生きている人間だ。それも殺気を纏った厄介な…ね。
相手の全貌を確認する前に、ダンッと地を蹴る音が聞こえて一気に間合いを詰められてしまった。でも、…簡単にやられるわけにもいかない。振り下ろされた刀をダガーで弾き、そのまま腹に回し蹴りを一発。すかさず顎に掌底打ちをぶち込めば、難なく相手の意識を奪うことができました。
「相変わらず早ェな…おれの出番は一切なしかよ」
「にししっごめんね、ペンくん。あ、縄で縛っておかないと!」
船長命令は忠実にっと!
ウエストポーチから取り出した縄でぐるぐる巻きにして、間違っても解けたりしないように固く結んだら一丁あがり!こいつは…転がしておけばいいのかな。さすがに地上に連れていくのは無理があるし。うん、やっぱり転がしておこう。
ていっと端っこにぶん投げた所ではた、と気がついた。のしちゃう前に何が目的なのか、何者なのか聞いておけば良かった…!格好からして十中八九、この島を根城にしている海賊だろうけど情報はひとつでも多くあった方が断然有利だったのに。しまった、向かってきたからつい反射的に手を出しちゃったよ。情報を得るなんてこと、頭からすっかり抜け落ちてたなぁ。
「…何者か聞き出すの忘れました」
「そういえば…おれもすっかり忘れてたな。よし、叩き起こそうぜ」
「アイア〜イ」
昏倒させちゃったし、ペチペチ優しく叩いただけじゃ起きないよねってことで…ペンくんが思いっきり殴りました。顔を。それでも起きなければもう一度、それが鉄則ってやつだよね!
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