実力行使


「いや、ほんとずびばぜんでじだ」


昏倒させちゃった海賊を起こす為にペンくんが2発。ようやく目を覚ましたこの男がなかなか吐かないので、吐かせる為に2人で4〜5発ずつ殴った結果―――男の顔は、見事に腫れ上がりました。
正直、ちょっとやり過ぎた?って思わなくもないけど、いきなり襲ってきたんだしこのくらいはいいよね。


「で?お前らは何なんだ」
「へっおれ達を知らねぇとはとんだ田舎もんだな!」
「よっし、もう2〜3発いっとくかー」
「あいあいさー」
「わーっ!おっおれ達はアルヴァ海賊団だ!!」


アルヴァ……ああ、手配書にいた気がする。確か懸賞金は…9500万ベリー、だったかな。他のクルーは特に手配書には載っていなかったと思う。


「お前ら最近話題になってる大型ルーキー、トラファルガー・ローの一味だろ!」
「成程、狙いはウチの船長の首か」
「だろうねぇ。というか、今までもこうやって立ち寄った海賊を襲ってたんでしょ」


本当か噂かはわからないけれど、アルヴァ海賊団はなかなかに姑息な手を使うと聞く。闇討ちや奇襲を最も得意とする海賊団だってね。それを思えばこの大掛かりなでっかい落とし穴がある理由も納得がいく。
そしてまんまと引っかかった海賊達を襲って、名を上げてきた―――ということだろうか。下手すればこいつらを捕まえに来た海軍をも殺してる可能性はあるかもな。海賊がこの島を根城にしていることをしったあの島の人達が、今まで一度も海軍を呼んでいないなんてことは有り得ないと思うから。

(まぁ、あっちにも数人の海賊がいて脅しているって線は捨てきれなくもないけどね)

うん、こいつらの手口はどうでもいいや。関係ないし、興味もない。キャプテン達の方にも同じような罠、もしくはこいつの船長が奇襲をかけている恐れはあるけどー…ウチのキャプテン強いしな。それにシャッちゃんとベポくんもいるし、あっけなく返り討ちにしていると思う。やられる可能性?皆無だねぇ。心配なんてする必要もないよ。
今一番心配なのは、あっさり穴に落ちてしまったことをキャプテン達に知られることだったりする。バレたら絶対からかわれる気がするんだよなぁ…特にシャッちゃん。さすがに怒られることはないと思うんだけど、からかわれるのはムカツクしなー。


「へへっ…んなに悠長にしてていいのかぁ?」
「縄で縛られてるってのに余裕だね、君」
「こーんなでっかい穴に潜んでいるのが、おれ1人だって…誰が言った?」


ニヤリ、と男の口元が歪む。さっきまでぶん殴られてオドオドしていたクセに、急に態度が変わったな。…でもそれははったりでも強気でもない、確かに気配がする。何人だろう。そっと耳を澄ませてみても足音の数が多すぎて、上手く判別ができない。
とにかくかなりの数が近づいてきている、ってことだけはわかる。そっと見上げたペンくんの表情もどこか固く、懐に忍ばせていたらしい銃を構えている。この状況で笑っているのは、縄で縛られている男ただ1人だけ。


「…だが、これでハッキリしたな」
「うん?なにが」
「出口があるってことが。…この奥だ」
「ああ、確かに。つまり、こいつら全員ぶっ飛ばせば出られるってことかな」
「その通り。簡単だろう?リズ」
「にししっトーゼン!足を引っ張りゃしないよ、ペンくん」
「そんな心配はハナッからしてねぇよ!」


銃声一発―――それが戦闘開始の合図。2人同時に飛び出して、勢いを殺すことなく中心へと突っ込んでいく。まー怪我する確率も高いんだけど、こうすると真正面からいっても奇襲に近いものになるんだよ。そのままのスピードで突っ込むことによって、相手が結構怯んでくれるからやりやすくなるってこと!
それでも向かってくる奴らを殴って、蹴っ飛ばして、ぶん投げて、少し遠くにいる敵はペンくんが銃で退ける―――ああ、何て楽しいんだろう。ここ最近は小競り合いという名の戦闘が多かったから、こんなにも思いっきり暴れられるのなんて久しぶりだもん!そりゃあゾクゾクするってもんですよ。


「リズ!そいつで最後だ!」
「アイアイ!せいや!」


最後の1人に拳を叩き込めば、辺りは再び静寂に包まれた。はぁ…さすがに2人で相手する数じゃなかったかなぁ。ぐるりと辺りを見渡しながら、そっと息を吐く。終わってみるとなかなかの数だよね、そこまで強くはなかったけど数が多いのは面倒なんだよ。でもど真ん中に突っ込んで言った割には、ペンくんも私も怪我してないしいいか。別に。
さて、この穴に潜んでいた敵は(恐らく)全員倒したことですしさっさと出口へ向かうとしますかね。あ、コイツら全員縛っておいた方がいいのかな…目を覚まして追いかけてこられても面倒だよねぇ。そのまま大人しくしてくれればいいけど、きっとしててくれないだろうなぁ。報復だーって再び向かってくる可能性の方が断然高い。
でもここまでの人数を縛れるほど、大量の縄を持ってきているわけではない。むう、どうするか。


「足を粉砕…?」
「おい、なに不穏な言葉吐いてんの」
「いや、追いかけてこられても困るでしょ?でも縄はそんなに持ってきてないし…」
「ああ…だから足を粉砕、ね」


そうそう。足を潰してしまえば動けないでしょ?ほら名案!と笑ってみせれば、全員の足を粉砕する労力がもったいない、とペンくんに頭を小突かれた。
いや、それはそうだけどさぁ…このまま放っておくのも問題じゃん。あとで面倒事に巻き込まれるのは嫌だよ。それこそキャプテンからのお説教待ったなしじゃんか!


「心配しなくても平気だろ」
「なんでさ」
「こいつらの船長はウチの船長の首を狙ってる。…つまり?」
「……あ、キャプテンにバラされる?」
「正解。船長がバラされてちゃあ、戦意も失われるだろ。それに船長のことだ、こいつらの船もぶった切ってる可能性が高いさ」


それは…確かに。船を真っ二つにしてしまえば、海賊達は何処へも行けない。その間に海軍を呼んでしまえば、きっとひとり残らず捕まるだろうし。
ううーん…それが一番ベストな方法かぁ。粗方、キャプテン任せになっちゃうけど。でもでも少しは私達で戦力を削っておくことができたって、そう思いたいです。うん。
それはいいとして…キャプテン達に合流する前に、本来の目的を達成させなくちゃダメだった。


「ペンくん脱出しよう、早く薬草集めないと」
「あー…そうだった。本来の目的はそれだったな」


あんまり遅くなるとキャプテンが心配―――する前にバラされるよ、絶対。
うえー、それは勘弁だ。


「予定の半分の量も採取できてないし、急ぐか」
「うん、…あ、風」
「どうやらすんなり出れそうだな」


ペンくんの言葉にだね、と返し、私は駆け出した。…のですが、光が見えてくるのと同時に波の音が聞こえてきて思わず首を傾げた。いや、島の周りは当然ながら海だし波の音が聞こえるのは不思議でも何でもない…でも私達がいるのって、歩いてきた距離を考えると、海からそれなりに離れてるよなぁ。こんなにもハッキリ聞こえるものか?それも―――穴の、中まで。
違和感は残るものの、早く出たいって気持ちばかりが先走っているのか足を止めることはしない。あともう少し、という所でグイッと首根っこを掴まれた。


「ぐえっ!」
「あっ…ぶね、間一髪だぞリズ」
「ゲホッゴホッ!こっちは首、絞まった…!!」
「すまん。でもおれが引っ張らなかったら、お前真っ逆さまだったし」


は?真っ逆さま?どういうことだ、と問い質す前に、一段と大きく波音が響き渡る。恐る恐る振り向いてみると、目の前に広がっていたのは緑―――ではなく、青だった。青い空に白い雲、そんな光景が視界いっぱいに映る。うん、これってもしかして…もしかするのかな。
そっと身を乗り出してみると、カランッと音を立てて小石が海へと落ちていきました。ああ、成程ね…こうなっていたわけですか。すんげぇ所に穴掘りやがったねあの海賊団!まぁ、誘い込んだ奴らが脱出できないようにする為なんだろうけど。とはいえ飛び降りれない高さじゃないし、もし落ちても泳げさえすれば即死するようなものでもない。
それでもペンくんが私の首根っこを掴んだ理由は、眼下で渦巻く渦潮だ。薬屋のおじさんが言っていたのよね、この島の裏側にはどれだけの年月が経っても消えることのない渦潮がいくつもある、って。私達は今、それを目の当たりにしているわけで。そりゃあ渦潮に飲まれたらひとたまりもないわ。


「これ見たら逃げる気力も失うわな」
「そうだけど、じゃああいつらはどうやって入ってきたの?他に出られそうな所なんてなかったよ」
「ここから出入りしてたのは間違いない。ほら、そこ」
「そこ?……あ、縄!」
「落ちる危険がないわけじゃないが、まぁいけるだろ」


岸壁に垂れ下がる1本の縄。恐らくこれで出入りしてたんだろう。岸壁自体はしっかりしてるし、うん、これなら登ることはできると思う。縄もそう簡単に切れそうにないほど丈夫だし。まぁ…思わず下を見ちゃったらクラッとしそうな光景が広がってることさえ、抜きにすれば。
別に高所恐怖症ではないけど、落ちたら渦潮に飲まれて海の藻屑ーっていうのはさ?なかなかにスリルがありますよねってこと。でもここ以外に脱出できそうな場所がなかったのも事実、嫌だろうが何だろうが登らないとならないのです。頑張りますか。


「よっこらせ、っと!」
「そんなに距離はないと思ったけど、割としんどいな…」
「足場が悪いからじゃない?あと精神的なもんだと思うけど」
「ああ…成程な」


キャプテン達の方がどうなってるかは気になるけど、薬草も採取しないといけない。その狭間でグラッグラ揺れながらも、ひとまずは船長命令を完遂することを選んだ。…というか、選ぶしかなかったと言った方がいい気がする。

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