意外と能天気
「そういう時は戻ってこようよ!」
結果から言いましょう。ペンくんと私は、結局予定の半分も薬草を集められませんでした。そして集められないまま、キャプテン達と合流しました。合流した、というか、例の海賊団の船長に奇襲を食らったキャプテンとシャッちゃんとベポくんは、私達の状況を聞かされたらしく瞬殺してこっちに来たんだって。
そしたらつなぎを泥まみれにした私達が黙々と薬草を採取してたもんだから―――ベポくんの冒頭のセリフが降ってきたわけで。もちろん、聞いた瞬間はえ?なに?って状態だったけどね、ペンくんも私も。経緯を説明されてようやく納得と理解をしたけど。
「いやー…キャプテン達なら大丈夫かなって」
「まぁ実際、何の問題もなかったが…」
「それでも悠長に薬草の採取してるとは思わないって。あーあー2人共、つなぎどろっどろじゃん…」
「穴に落とされたと聞いたが、怪我は」
顔に泥がついていたらしい。キャプテンの親指の腹が、目尻を拭うように滑っていく。
「おれもリズも軽く擦り剥いた程度なんで、問題はないですよ」
「そうか。だが、戻ったら念の為に診察するぞ」
「えっ大丈夫なんだけど…」
「頭、打ってねぇとは言い切れねぇだろ」
「あー…リズは診てもらった方がいいかもな。昏倒したろ」
そういえば、ペンくんに起こされるまで意識を失ってたんだっけ。無意識に後頭部を触るけど、痛む所もたんこぶができてそうな様子もない。頭痛も吐き気もないから問題はないと思うけど、昏倒していたのは事実なので…それをキャプテンに知られてしまった以上、逃げることも誤魔化すこともできないだろうなぁ。
チラッと視線をキャプテンに向けれてみれば、案の定あとで医務室に来い、と言われてしまった。うん、まぁ仕方ないよね。何か起きてからでは遅いし、更に迷惑をかけてしまうだろうし。ここは大人しく従っておこう。
ペンくんも擦り剥いた箇所の消毒をするから、私と同じく医務室へ連行決定。でもその前にお風呂と着替えだね。このままはさすがに嫌だ。
「ひとまず島に戻るぞ」
「アイアイ、キャプテン!ペンギン、そっちの袋貸して。まとめちゃお」
「ああ、悪いなベポ」
おお、キャプテン達の採取した薬草すっごい量。これなら私達が注文する予定の分の他に、薬屋さんで売る分も確保できるかなぁ。この島を根城にしていた海賊はぶっ飛ばしたものの、海軍が捕まえに来るまでは薬草を採取しにはこれないだろうし…これで少しの間だけでも賄うことができればいいんだけどね。とはいえ、どのくらいの量がいるのかわからないから何とも言えないのが現状なんだけど。
つまりは、おじさんに見てもらわないとなーんにもわからないってことになる。はー…でもまぁ、これにてお役目終了ってことだよね!ぐーっと伸びをして、浜辺へと向かうキャプテン達を追いかけた。
「ああ、これだけあれば君達の注文分は余裕だ。それより…」
そこそこ大量の薬草を手に薬屋さんを訪ねると、ご主人であるおじさんはホッとした表情を浮かべて笑った。薬草も十分だったようで薬も何とかなりそう。私達もようやく一息つけそうだ、と思ったんだけど…眉をハの字に下げたおじさんの目が、ペンくんと私に向いて。おじさんがそんな顔をする理由がわからない私達は、顔を見合わせて首を傾げることしかできなかった。
「そこの兄ちゃんと嬢ちゃんはどろどろになっているが、大丈夫か?」
「泥だらけになっただけだから問題ない」
「おじさんが気にすることは何もないっす!」
「…海賊と戦ってくれたんだな」
すまない、ありがとう。
おじさんはそう言って深く、深く頭を下げた。確かにキャプテンがついでに海賊を始末しておく、とは言っていたけれど、結果的にぶっ飛ばしたのだけれど―――それは邪魔をされたからにすぎなくて。何もおじさんの為にってわけでもないんだ。だから謝られる筋合いも、お礼を言われる筋合いもないと思っている。
それはキャプテンも同じだったらしく礼を言われる筋合いはねぇ、邪魔してきた奴らをぶっ飛ばしただけだと言っている。おじさんはその言葉にじゃあこっちも勝手に礼を言わせてもらってもいいだろう?と笑った。これにはさすがのキャプテンも面食らったみたいで、僅かに目を見開いていらっしゃる。
まぁ、意外過ぎる言葉だったもんねぇ。ペンくんとシャッちゃんとベポくんも、くつくつと笑ってるし。これはキャプテンが一本取られちゃった感じかな。
「…勝手にしろ」
「ああ、そうさせてもらおう。薬は5日程待ってもらえれば、注文数を用意できる」
「構わねぇよ。どうせログが貯まるまでの1週間はこの島に滞在するんでな」
「ははっ確かにな」
お願いします、と頼んで私達は薬屋を後にした。
んー…!ひとまず船に戻ってシャワー浴びて、着替えてから医務室かな。他のクルーはもう買い出しとか諸々済ませて、町に遊びに行ってるのかな。あ、今回は宿に泊まったりするんだろうか…ログが貯まるまでの期間を知ったのはこの島に着いてからだし、元々は宿をとる予定でも何でもなかったと記憶してるんだけど。
「今回は好きにさせればいい。船にいてもいいし、下りていてもいい。出港時間にさえ間に合えばな」
「ですね。まぁ、今日の夕飯くらいは酒場でとってもいいんじゃないですか?」
「…そうだな。船にいる奴に伝えておけ」
「わかりました、そのように」
「よっし!ペンギン、シャワーと手当て終わったら出かけようぜ!」
「元気だな、お前…」
確かに。シャッちゃんはまだまだ元気が有り余ってるって感じで、早く出かけたいのかソワソワしてる。まぁ、海上生活が長いとどうしても上陸した時ってこうなるんだよね。息抜きをして、羽を伸ばして、それでまた海へ戻る。それが私達の生活のサイクルだ。
特にグランドラインへ入ってからは、無人島に辿り着くことだって少なくないし。それを考えると、こうして賑やかな島へ上陸した時は皆、ちょっと引くぐらいの盛り上がりを見せるのです。それを見てるのも楽しいんだけど、うん、やっぱりあの盛り上がり具合はビックリするし、引く。
「リズもシャワー浴びておいでよ。泥だらけで気持ち悪いでしょ?」
「ああ、うん…そうだね」
「お前が先に浴びてこいよ、おれは後でいいから」
あ、そうだった。お風呂は別に男女別じゃないから、こういう時は大体どっちかが待つことになるのです。早く泥は落としたいけど、それはペンくんだって一緒だし…それにこの人は、こういう時に必ず譲ってしまう。自分は後でいいから、と笑って。
そういう優しい所は彼の長所だと思っているし、好きだけれども。でもあまり我慢ばかり、遠慮ばかりしてほしくないなぁと思ってしまうのです。今回は私が後でいいよ、と口を開こうとしたら、それよりも先にキャプテンが口を開いた。
「こいつはおれの部屋のシャワーを使わせる。ペンギンもさっさと落としてこい」
「…借りていいの?キャプテン」
「こっちから言い出してなんで断ると思われてんだ」
「ああうん、いやそうなんだけど…」
キャプテン自身からそんな提案をされるとは思ってなかったから、ちょっとビックリしただけです。船長室に入ることを禁止されたことはないし、決して誰も入れないわけじゃない。だってあそこはキャプテンの私室兼仕事部屋だから。
航路のことなどでベポくんやペンくんが訪れることなんてしょっちゅうだし、他のクルーだって何か船内で問題が起こったりすれば報告に行くし、備蓄品について話をしに行くことだってあるから。
でもそれは全て『仕事モード』で訪れるわけで、今回みたいに全く仕事関係なく船長室へ入ることって…そう多いことじゃない。多分、片手で事足りる。でもまぁ…キャプテンがいいよって言ってくれてるわけだし、お言葉に甘えちゃおうかなぁ。
「じゃあ有難くお借りする。着替え取ってきます」
「ああ、おれは医務室にいる。2人共、シャワー済ませたら来い」
「あいあーい」
「わかりました」
さっさと船内に戻っていくキャプテンを追いかけるように、私達もタラップを駆け上った。
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