私のしるべ
えー…どういうわけか、キャプテン達と合流できるまで麦わらの船に乗ることになりました。
それ以外に方法はないし、ログポースなしの状態で小舟で航海するのは確かに危険だから仕方のないことなんだけど…調子が狂う感じがします。本当。9人しかいない海賊団なのに賑やかすぎると思うんだけど。
コックくんが作ってくれたスープを口にしながら、ワイワイと話している麦わら達を視界に入れながらそんなことを思う。賑やかさならウチだって負けてはいないけど、人数の差があるしなぁ…決して多いわけではない人数だけど、麦わらの一味に比べれば多い方だと思う。それなのに、ウチと同じくらいかもしくは倍以上にうるさいかもしれない。
「リズちゃん、口に合った?」
「あ、うん。美味しい」
「それは良かった」
にっこり笑ったコックくんは、とても紳士的。でも航海士ちゃんや学者さんに目をハートにしてメロリン(狙撃手くんと海賊狩りが言ってた)している姿は、ちょっと変…じゃなくて、面白かった。
コックくんのアレは通常なんだって。私に対してはそんな風になってなかったから、さっきまで知らなかったけど。だってほら、今だって普通に話しかけてくれてるし。女の子が好きなんだなぁ、きっと。
「ところでリズ、貴方の仲間が次に向かう島ってわかっているの?」
「わからない。近々、シャボンディ諸島に向かうとはキャプテンが言ってたけど…」
「うーん…私達の指針が指してる島って、魚人島なのよね」
「ぎょじん……?」
「魚人族や人魚が暮らしている島よ。海底にあるって話だわ」
ああ、そういえば聞いたことがある。深い深い海の底にも島は存在しているんだって。そこには魚人族が暮らしているんだって。誰だっけ…あ、そうだペンくんが話してくれたんだ。昔、眠れなかった時に。懐かしい…あの時はお伽噺の感覚で聞いていたけれど、実在してたんだなぁ。
あれ?でも海底って…どうやって行くんだろう。ウチの船は潜水艦だから多分、そのまま行けると思うけど大体の海賊船って帆船だよね?私が今乗せてもらってる、麦わらの一味のような。この状態で海に潜るなんてできないし、そもそも潜る用に作られているわけじゃないから水圧に耐え切れなくなって大破、ってオチになる気がする。そもそも潜れないし。非常に大事なことだから何度も言う。
「潜水艦なら行けるのかな…」
「いや、潜水艦でも難しいと思うぜ?」
「サイボーグさん」
「そもそも潜水艦自体が珍しいが、あれだって最大深度1000mまでがいいとこだ」
「魚人島があるのは?」
「聞いた話じゃあ水深1万mらしい。潜水艦でいったとしても、途中で潰れちまう」
うーわ、マジですか。ということは、ウチの船もぺしゃんこ…クルー揃ってお陀仏ってことか。魚人島は行ってみたいけど、辿り着くまでに死んじゃうわ。それはごめんだわ。でも行く術が存在しないわけではない、んだよなぁ?多分。何かしら方法があるのだと踏んでいるけれど、麦わら達の様子を見る限りじゃあその方法はまだ見つかっていないんだと思う。誰も口にはしていないけれど、そんな気がする。雰囲気的に。
でもそれ以前に…私、無事にキャプテン達と合流することができるのだろうか。まさかはぐれる羽目になるなんて思ってなかったし、あの人達から離れるつもりもあの時以来なかったから、どうしたらいいのかわからない。
ようやく事の大きさに気がついたのか、サーッと血の気が引いていっている気がするんですけど。え、このままずっと会えないとか…有り得るよね。うっそ、そんなの勘弁してほしい!キャプテン達と二度と会えないとか、そんなの地獄でしかない。
「リズ、大丈夫か?顔色悪いぞ」
「え、あ、うん…だい、じょうぶ」
「本当か?嘘は良くないんだぞ!」
「具合が悪いのではなく、あの、ようやく事の大きさに気がついたというか…」
もう二度と会えないかもしれない、という不安が、じわりじわりと体を蝕んでいく。
「だーいじょうぶだって!おれ達が必ず連れてってやるからよ!」
「…君のその根拠のない自信は一体、どこからくるんだ」
「ルフィだからな、仕方ねぇよ」
仕方ない、で済ませていいのか、これ。そしてその考えは一味全員に浸透しているらしく、他の皆も海賊狩りの言葉にうんうんと深く頷いている始末だ。大丈夫なのかなぁ、本当。思わずジト目になってしまったのは当然のことだと思う。
「とりあえず、魚人島へ行く手立てがまだわからないの。まずそれを探さなくちゃ」
「しししっその途中でひょっこり会えるかもしんねーだろ?」
「ああ…うん、そうだといいんだけど」
「ふふふっ不安かもしれないけれど、少しは気を抜いたほうがいいわ。疲れちゃうから」
………学者さんの言うことも一理あるか。手段も何もない状態であれこれ深く考えたって、不安になったって、現状が大きく変化するわけでもない。だったら気楽にいくしかないのかも、しれない。あとは大丈夫だって思い込むこと、なのかな。
麦わら達程は楽観的にはなれないと思うけれど、それでも…もう少しだけ、ゆったり構えてみようか。うん。とりあえず、キャプテン達に連絡取る手段を探さなくちゃ―――…んん?
「あっ!」
「うわっ何だよビックリした!急にでっかい声出すなって!!」
「あ、ごめん…ねぇ、私の着てた服や身に着けてたものって…」
「服?ああ、あの白いつなぎのこと?あれなら干して女部屋で預かってるわよ」
「荷物ってウエストポーチとナイフ、それから二丁の銃だよな。ここにあるぜ」
狙撃手くんに渡されたウエストポーチと愛用の武器達は、ひとつも欠けることなく戻ってきました。念の為、ウエストポーチの中身も確認してみたけれど、うん、ちゃんと全部ある。
隠しポケットに入れておいた小瓶も無事っぽい…!良かった、これでキャプテン達と連絡取れる!電伝虫の番号を書いた紙を持ち歩くクセつけておいて正解だよ、過去の私。ちゃんと役立つ時がきたよ。
「水気は取っておいたから大丈夫だとは思うけど、銃の手入れした方がいいと思うぞ」
「あ、うん。…やべ、手入れの道具ない……」
「それだったらおれの貸してやるよ」
あ、あるんだ。さすが狙撃手。じゃああとでお借りしよう。暴発したり、いざという時に使えないのは困るから。
まずはキャプテンに連絡…!
「じゃああとで借りる。ええっと…あの、ですね」
「もしかして仲間に連絡を取りたいのかしら?」
「あー………うん」
「番号わかるの?子電伝虫は電波が弱いし、電伝虫は持ち運びできないでしょ」
「それは大丈夫。番号が書かれた紙、持ち歩いてるから」
堂々と頼むのは何だか気が引けて、小さな声で電伝虫ってありますか…!と問いかけてみると、航海士ちゃんがふはっと吹き出した。え、なんで?今、笑う要素ひとっつもなかった気がするんですけど!!
ええええ…何なんですか、もう。変なこと言ってないよね?自分の言動をひとつひとつ思い出してみるけれど、やっぱり変なことを言った覚えは全くない。つまり、笑われる要素もないってことになる。でも現に航海士ちゃんは笑ってる…肩を震わせて、クスクスと。
「ふふっごめんね、急にしおらしくなるもんだからさ〜」
「それで笑われたの私…!」
「だからごめんって。来なさい、電伝虫貸してあげるから」
手招きされたのでついていくと、とある一室へと案内された。部屋の中にあるデスクの上に私が求めていたもの、電伝虫が鎮座していらっしゃる。
それにしてもこの部屋って、…誰かの部屋、なのかな?でも航海士ちゃんが案内してくれたってことは、彼女の部屋なのかも。さすがに他の人の部屋に、仲間でも何でもない私を許可なく通したりしないだろうし。
「それ使って。あいつらもここには勝手に入ってくることないと思うから」
「うん、ありがとう」
早速、番号を押してみればちゃんとコール音が聞こえた。よ、良かった…番号間違えてたりしたらどうしようかと思ったよ。そうしたら本当に連絡手段ないし。ホッと息を吐くのと同時くらいだっただろうか、電伝虫の目からブワッと涙が溢れ出た。
あれ、電伝虫が泣くのって緊急信号だったっけ?そう思って受話器を置こうとしたんだけど、聞き慣れた声で名前を呼ばれてピタリ、と動きが止まる。今の声…ベポくん?!
『リズ?!リズなの?!』
「…うん、そうだよベポくん」
『うわぁーんっリズーーーーー!!!』
悪いのは私なんだけど、とりあえず落ち着いてベポくん。それが無理ならキャプテンかペンくん、この際シャッちゃんでもいいから代わってくれ。いまだにおいおいと泣き続けているベポくん相手じゃ、私が置かれている現状の説明もできないです。
そう伝えたくても大声で泣いてくれちゃってるもんだから、きっと私の声は届かないと思う…どうしたもんか、と困っている私の肩を叩いたのは、航海士ちゃんだ。声には出さず、「ごゆっくり」とだけ紡いで部屋を出ていった。その顔に浮かんでいたのは私と同じ、困惑。さすがの泣き声に苦笑していました。
そりゃそうだよねぇ。私自身の口からも乾いた笑いが零れ落ちた。案の定、ベポくんがそれに気がつくことはなくて。いい加減に怒鳴りでもしないと話が進まないな。スゥ、と息を吸った所でベポくんの泣き声が遠のき―――違う声が、鼓膜を揺らした。
『シャチ、ベポを落ち着かせてこい』
『アイアイ。ベポーちょっと外出ようぜ』
『うわああああん』
『……リズで合ってるんだな?』
電伝虫の顔が悲しそうな顔から、しかめっ面へと変化した。この声は、キャプテンだ。
「キャプテンッ…!」
『今度はお前が泣くのか…勘弁しろ』
「う〜…まだ泣いてないもん」
『"まだ"ってことは泣きかけてるんじゃねぇかよ。…無事、と理解していいのか』
「無事だよ。3日意識不明だったらしいけど、何とか」
『電伝虫で連絡を寄越したってことは、拾われたんだな』
「あー、うん、そう。海賊船なんだけどさ、キャプテン達と会えるまで船に乗せてくれるって話で…」
そこで思わず言葉を切った。電伝虫のしかめっ面が更に色濃くなり、それはつまりキャプテンの眉間にも同じように深いシワが刻まれていることになるけれど…どう説明したものか。麦わら達の楽観的思考にノせられ鳴りを潜めていた不安が、ぶわりと肥大していく。
キャプテン達の声を聞けて嬉しいし、ホッとしたことは事実なんだけど、それ以上に淋しくて悲しくて仕方がない。だって声の主が、傍にいない。再会できる保証だって、本当はこれっぽっちもないんだ。
『…リズ、忘れたのか?』
「忘れたのかって何を…」
『おれ達はシャボンディ諸島に向かうと、そう言ったはずだ』
知ってる。忘れてない、ちゃんと覚えてるよ。覚えてるけど…
「でもこの船の指針は、魚人島を指してるって…」
『問題ない。リヴァース・マウンテンで航路は7本に分かれちゃいるが、その後、とある場所で一旦集結する』
「……?」
『シャボンディ諸島だ』
「へっ…?!」
驚いて涙も不安も引っ込んだ。え、本当に?そうなの?!
キャプテン曰く、新世界へ行く為にシャボンディ諸島へ航海者達は集結するんだそうだ。だから心配しなくとも再会できる、らしい。泣くだけ無駄、不安になるだけ無駄、心配するだけ無駄。キャプテンは矢継ぎ早にそう告げた。電伝虫はニヤリ、と不敵な笑みを浮かべていらっしゃる。
くっそう、キャプテンこの野郎!!絶対、くつくつと喉を震わせて笑っていやがるだろう!!もー…この際、さっきのベポくんみたいに大声で泣いてやろうか。それでキャプテンが焦ったり、困ったりするかはわかんないけど。
『魚人島へ行くにはシャボンディ諸島で船をコーティングしなくちゃならねぇ』
「…つまり、この船は勝手にそこまで行くことになるってことデスカ」
『その通りだ。お前が乗っている船がどのくらいで辿り着けるかはわからねぇが…ちゃんと待っててやるよ』
「どれだけ時間がかかっても?」
『ああ。…だから必ず辿り着け。いいな、リズ』
ああ、やっぱりこの人の声は―――私の道標だ。
「アイアイ、キャプテン!」
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