注意報、いまだ発令中!


突然すぎる展開に、私達は食事の手を止めて2人の顔を思わず凝視。ただ、麦わらだけは食事の手を止めることなく2人を見ている。時折、何か言っているみたいなんだけど口に詰め込みすぎて、全く言っていることを理解できない…とりあえず食べるのをやめてやれよ。
いや、でも話を聞いちゃったら終わりな気がする。本能がそう告げている。こういう時はさっさと食べてずらかるに限る。きっと皆もそう思っているだろう、と思っていたのだけれど…女性がいたことが運の尽き。コックくんは素早くその人の足元に傅いて、どうされました?レディ。なーんて言っている。
あああ…これはもう逃げることはできなさそうなんだけど?!溜息をつきたくなったけど、助けを求めに来た本人達を目の前にあからさまに面倒だって態度をとるのはさすがに気が引けた。どうでもいいとは思えど、空気はそれなりに読みますよ。


「お願いです、お話だけでも聞いてくださいませんか…!」
「もちろんです麗しきレディ!」
「サンジくんはちょっと黙ってて…!ねぇ、私達が何者かわかってて声をかけてきたの?」
「……はい。お礼は、もちろん差し上げます」


海賊だとわかっていて声をかけてきた…?なんだ、それ。いくら何でも怪しい。助けてほしいのなら海賊より、海軍の方がよっぽどいいと思うけどな。特に民間人なら。だって海軍相手なら助けてもらってもお礼としてお金を支払う必要なんてないし、無理難題を吹っ掛けられる心配も、それこそ殺される心配も不安もないってーのに。それなのにわざわざ海賊である私達に声をかけてくるなんて、…何か裏があるとしか、思えないけど。
ナミちゃんもそれを不思議に思って、それを確認したんだろう。話を聞く気満々なのはコックくんだけ、きっとよく理解していないのは麦わらだけ。他の皆は…どこかしら疑念を抱いている、といった感じだろう。

(それにこのレストランの今の雰囲気も…ちょっと異様かな)

女性が発した助けて、という声量は、なかなかのものだったと思う。それなのに食事の手を止める様子もなければ、ざわついている様子も一瞬たりともなかった。レストランで働く店員達も全く驚くことなく、料理を配膳したり注文を受けたりしている始末。
普通なら一瞬でも動きが止まったり、こっちに注目したりするはずなのに…それなのに誰ひとり、視線すら寄越さないなんて。日常茶飯事なのか?…いやいやいや、そうだったとしたら余計に嫌だわ。そんなの。


「お礼…ねぇ?常識的な金額じゃ済まないわよ」
「いいぞ、助けてやる」
「おい、ルフィ…ッ」
「ありがとうございます!では、詳しいお話は私達の家でお話させてください」
「おう!」


あー…ダメだ。これはもう、本当にダメな奴だ。
ガックリ、と肩を落としたのは、私と海賊狩りだけ。ロビンちゃん達は苦笑を浮かべているだけのようだ。今回のはさすがに怒ってもいいレベルだと思いますけどね、私。ほんっと何で自ら面倒事に首を突っ込もうとしているんだ麦わらは…!


「何も考えてないのかな、麦わら」
「こうなっちまった以上、逃げるのは難しいぞ。リズ」
「ぅえ、私も巻き込まれるの…?!」
「ったりめーだろ。恩返しだと思いやがれ」


海賊狩りの言葉に本格的に頭を抱えた。隣に座っていたロビンちゃんが背中を撫でて慰めてくれているけれど、効果は薄い。どうして居候先でこんな目に…恩はあるさ、確かにあるさ!言葉以外でもお礼をした方がいいかな、とかちょっと思ってるさ!!でも面倒事に一緒に巻き込まれるのはごめんだってば!
それを恩返しにすればいい、って感じで海賊狩りは言ったけど、嫌に決まってんでしょーよそんなのー!!誰がじゃあそうする、って笑うと思ってんのよ。世界中捜したってそんな奇特な奴いやしないわよ。
もー…早くハートの皆の所に帰りたい…キャプテーン…!





「海賊と結婚?」
「ええ。何でもこの町の奥に海賊のアジトがあるらしいの…つまり、町を襲われたくなければ女をひとり花嫁として寄越せ、ということらしいわ」
「それ、ルフィは引き受けたのか?」
「…そうじゃなきゃあの子がこんな顔してないわ」
「リズの不機嫌の理由は、それなんだな…」


トナカイくんがトコトコと近寄ってきて、私の膝にぽすんと蹄を載せてこっちを見上げてきた。それはとても可愛くて和む光景だし、今すぐギューッと抱きしめてストレス解消といきたいところだけれど…何とかその衝動をグッと堪えた。でも癒されたくて帽子の上からぽふぽふと撫でてみる。帽子ももふもふだ、可愛い。


「でもよー、その話が本当ならレストランにいた奴らが無反応だったのが気にならねぇか?」
「確かになァ。誰も止めることすらしなかった」
「それこそ脅されているのでは?逆らえば殺す、と」
「だったら余計にあいつらを止めなきゃならなかったんじゃねぇのか?」
「ゾロさんの言い分はごもっとも。…けれど、関わることですら何か制裁があるのだとしたら、誰も触れようとしないかもしれませんよ?」


ガイコツさんの言葉に妙に納得した。確かにそれならあの異様な状況にも納得がいくけれど…まぁ、確かに誰だって自分が一番可愛いからなぁ。助かる術があるのならそれに縋りたいと思うだろうし、多少の罪悪感を感じていたとしても死にたくないと思うばかりに他人を犠牲にすることは、そう珍しいことではない。
腐っていると言えばそうかもしれないけれど、それこそ本能のようなものだろう。触らぬ神に祟りなし、とはよく言ったものだ。最初から一切、関わりを持たなければ危害が及ぶことはないって考えなんでしょうね。この町がどれだけの期間、海賊に脅されているのかはわからない。その恐怖に怯えているのかはわからない。ひとつだけわかるのは、この町で暮らす人々に逆らう勇気も気力も一切残っていないということ。

あの男女は結婚を間近に控えた恋人らしい。だからこそ、恐怖に震えながらも助けを私達に求めたらしいけど―――何だろう、この変な感じは。あの2人が嘘をついている?いや、ついていたとしてもどんな利益があるっていうのさ。私達を騙したって何の得にもならないじゃない。
海賊が裏で手を引いて麦わら達の首を狙っていたとしても、討ち取った首を海軍に持っていって換金できるわけでもないし……あ、でも名を上げる為の行為だと言えば納得はできるかもしれない。おびき出すのに民間人を使えば、警戒される心配だってうんと低くなるだろうしね。はてさて、真実はどこにあるんだろうなぁ。


「なぁ、リズ。そんな不機嫌になるほど嫌なら、サニー号で待ってればいいんじゃないか?」
「トナカイくんは優しいねぇ。そうしたいのは山々なんだけど…」
「ダメよ、チョッパー。リズは大事な大事な花嫁役なんだから!」
「えっリズ結婚するのか?!」
「しないよ…例の女性の身代わりだってば」


作戦はこうだ。まず、あの女性の代わりに私がウエディングドレスを着て、結婚式を挙げる予定の教会に行く。途中までは何も騒動を起こさずに進行させて相手の隙を誘うの。それで頃合を見て花嫁を奪還、そして海賊達をぶっ飛ばして解決!ってわけ。
ちなみに花嫁を奪還しにくる恋人役は、海賊狩りだったりする。


「なんでリズちゃんの恋人役がおれじゃなく、クソマリモなんだよ?!」
「仕方ないでしょ、ゾロが一番背丈が似てるのよ」
「…あっちの人、こんなにガタイ良くないけどね」
「なっはっはっは!背はデカかったけど、ひょろっこかったもんな〜」


コックくんも背が低いわけではないんだけど、海賊狩りよりも多少低かったからこうなったんだって。だから余計に荒れてんのよねぇ、この人。それをまた海賊狩りが煽るもんだから、一向に静かにならないんだこれが。もうどっちでもいいよ、どっちが来ても作戦には支障が全くないんだし。てか、海賊の奴らは顔なんて覚えてないって。絶対。
ちなみに私が選ばれた理由も、身長だったりします。あの女性、私と同じくらいだったの。身長が!話を聞いた瞬間にこれは私に矛先が向くな、とげんなりしたのは言うまでもない。もう伸びないことはわかってるし、ジタバタしたって何も変わらないこともとっくの昔に理解しているから、今更この身長の低さに文句を言うつもりは一切ないんだけど…それでもやっぱりムカツクものはムカツクのです。
というか、私の周りにいるのって高身長ばかりじゃない?ナミちゃんとロビンちゃんだって背ェ高いしさ。唯一、私より小さいのはトナカイくんだけだ。


「大丈夫なのかなぁ…これ」
「なんだよリズ。ちゃーんとおれ達が助けてやるから心配ねぇって!」


麦わら、私が心配しているのはそこじゃない。というか、自分で何とかできると思うし。私が心配なのは―――…反論しようとして、やめた。この男に何を言った所で作戦を変更するとは思えないし、助けてやるって言ったことを撤回することもないだろう。だったらもう、諦めてしまった方がずいぶんと楽だ。
妙な不安を抱えたまま、私はトナカイくんを抱き上げた。ああ…会いたいなぁ、キャプテン達に。そっと目を閉じれば、脳裏に会いたくて会いたくて仕方のないしかめっ面をしたあの人が浮かんだような気がした。

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