時と場合による行動
私を拘束していた女性を蹴り飛ばし、呆気にとられている間に窓を突き破るべく駆け出した。あの男―――ドンキホーテ・ドフラミンゴにベビー5と呼ばれていた女性の他に、下っ端っぽい男達が数人。普段なら相手をしてしまう所だけれど、今はどう強がったってこっちが不利だ。まともに相手できる自信がない、こんな格好では。
しばらく我慢していれば海賊狩りと狙撃手くんが来てくれるだろうと最初は思っていたけれど、助けは見込めなさそうだ。だってきっと、教会の外にもあの男の仲間がうじゃうじゃといるんだろうから。この島を支配しているであろう海賊も、恐らくはドンキホーテ・ドフラミンゴの仲間…というか、傘下なのだろうな。
あの結婚の話全てが、もしドンキホーテ・ドフラミンゴの計画だとしたら、島の人達もグルなのか?それとも、本当に支配されているのか?けれど、そんなことをしたら政府に盾ついたことになってしまう。七武海の地位を持っている男が、そんなことをわざわざするのかなぁ。そんな馬鹿げたことをするような人物だとは思えないけれど。ドンキホーテ・ドフラミンゴがどんな男かなんて、私はよく知らない。それでも七武海に入れるほどの力を持っているのだから、やっぱり頭もそこそこ回るんだと思うんだよね。
「その女を捕まえろ!決して逃がすな!!捕まえて若様にけんじょ、―――ぐふっ?!」
ようやく我に返ったらしい下っ端共が大きな声を出したかと思えば、勢い良く飛んできた何かが顔面にダイレクトヒットして昏倒した。え、なに?何が飛んできたの?というか、どこから…あ、あれかな?綺麗なステンドグラスが割れてる。ということは、狙撃手くん?
それを確認する間もなく、ガシャーンッと派手な音と共に黒い塊が転がり込んできたんですけど。今度は何だコラ!!立て続けにそういうのやめて!ちょっとだけビックリするから!!
「なんだ。まだ此処にいやがったか」
「か、…海賊狩り……!」
「てっきり逃げ出してるかと思ったが…コックの勘とやらは当たってたわけだ」
「ゾロ!早くリズを連れてこい!いい加減、ずらからねぇと包囲されちまう!!」
え、包囲?包囲されちゃうってどういうこと?海賊に?それともまさか、海軍でも来ちゃったパターンですか?
わからないことだらけで聞きたいことが山ほどあるけど、それを質問している暇はないし、与えてくれそうにもない。私を捕まえようと突っ込んできた下っ端共を海賊狩りがあっさり斬り伏せ、ベビー5は一瞥するだけで目を逸らしてしまった。どうやら彼女を相手にする気は更々ないらしい。
女子供には手をあげない主義なのか、それとも彼女が動く様子を見せないから放っておくだけなのか…どう考えても後者かな。出会って1週間ちょっとの相手だから、もしかしたら前者っていうこともあるかもしれないけど、それを確かめるつもりはないからいいや。
「どうしてっ…ローも貴方も、若様に逆らうの……?!」
教会の外から聞こえる声や、轟音に混じって聞こえたのはベビー5の声。海賊狩りには聞こえていなかったみたいだけど、私の耳にはしっかりと届いていて。何だかその声が今にも泣きそうで、胸が締め付けられるような感覚がした。それはまるで、置いていかないでと叫んでいるような…そんな気が、してしまった。
でもそれ以上に彼女の口からキャプテンの名前が出た理由が、知りたくて堪らない。何で貴方があの人の名前を知っているの?同じ名前の違う人?ううん、違う…だってドンキホーテ・ドフラミンゴも彼の名前を口にしていた。私のことを『ローの姫さん』って呼んだんだ。だからきっと、彼女が呼んだ名前もあの人を、キャプテンを指しているはずなの。
あの人の過去に踏み込もうとした私を止めたのは、海賊狩りの腕だった。
「っわ……?!」
「ボサッとしてんな!捕まりてぇのかお前は!!」
「ゾロ!リズ!急げっ!!」
「わぁってるよ!」
海賊狩りは簡単に私を担ぎ上げ、そのまま窓から飛び出した。てか、運んでもらっておきながら何だけど…俵抱き以外にあったでしょうよ。文句は言わないでおくけど。胸の内以外では。
「船は?!」
「ナミとサンジとフランキーとチョッパーが先に行ってる!ルフィ達はこの先の所で足止めしてるはずだ!」
「ちょ、ねぇなにが起きてるのかさっぱりなんだけど?!」
「説明すんのは無事にこの島から出航できてからだっ!今は船に辿り着くことが最優先なんだよ!」
狙撃手くんの言葉に首を捻るばかりだけれど、教会を脱出した先に―――とんでもない現実が広がっていた。海賊が町を襲撃しているとか、数えきれないほどの死体が転がっているとか、そういうことじゃない。でも人によってはそれ以上にショックを受けるような…そんな光景。
だって町の人達が武器を手に、私達に向かってきていたから。殺意も悪意もある。でも海賊狩りと狙撃手くんはさすがに手を出せないのか、振り下ろされる鉄パイプ達を必死に避けてただひたすらに船を目指して足を動かしていた。時々、海賊狩りが峰でぶん殴って気絶させてるけど。
「なに、これ……」
私達を襲ってくる町の人達の中には、あのレストランで助けを求めてきた男女もいた。鬼のような形相で、まるで私達を親の仇とでも言いたげな顔だと…そんな風に思ってしまう。
段々と読めてきた。この島は海賊に恐怖で支配されているわけじゃない。アラバスタの英雄と言われていたクロコダイルのように、きっとあの男を、ドンキホーテ・ドフラミンゴを慕っているんだ。この状況を作り上げたのも、きっとドンキホーテ・ドフラミンゴなんだろう。
それが真実かどうかはわからないけれど、でもあながち見当違いってわけじゃないだろうな。実際、あの教会に姿を現したわけだし。私を捕まえ、そして麦わらの一味は邪魔者として消すつもりだったのかも。考えるだけ無駄な気もしてきたけどね、真相は闇の中ってやつだと思う。
「ルフィ、ブルックッゾロ達が戻ってきたわ!私達も撤退しましょう!」
「わかりました!」
「よっし!逃げるぞ、お前らぁ〜〜〜っ!」
ロビンちゃん、ガイコツさん、麦わらの声が聞こえるけど状況は全然わからない。海賊狩りに俵抱きにされたままなもんで、私はさっきから追いかけてくる町の人達の姿しか見えてません。でもとりあえず、皆と合流できたみたいだし…あとは船に辿り着くのみって感じかなぁ。
胸の奥に何か突っかかっているような、モヤモヤしている感じは残っているもののひとまずホッとしたな、とか考えながら揺られていたのだけれど、何故か海賊狩りと狙撃手くんの驚いた声が耳に届いてた。え、何事?麦わらの名前を呼んでいたような気もしたんだけど…?!
「ルフィッちょっと待て!もう少し走りゃあ港に着くだろーーーーー?!」
「ちったぁ学べ、お前は!!!」
「え、麦わら何で私達より後ろにいるの。海賊狩りと狙撃手くんは、何でそんなに叫んで…っ?!」
理由は2人の口から語られるよりも早く、自身の目で確認することになった。悪意のど真ん中にいたにもかかわらず、ニッと笑みを浮かべた麦わらの両腕が、みょーんっと伸びている。多分、進行方向に向かって。
最初は何の意味があるんだろう、と思ったんだけど、ヒュッと風を切る音とものすごいスピードで移り行く景色に「あ、これ飛んでる。」ってまるで他人事のような感想を抱いた。その後、急激に沸き起こった恐怖感と浮遊感に思いっきり叫びました。
「わあああぁあああ?!なにしてくれてんの麦わらぁーーーー?!」
「このままのスピードでぶつかったら、船が壊れちゃいそうね」
「なんでそんな冷静なんだよロビーーーーンッ!!!」
「なっはっはっは!この方がはえぇだろ?」
「そういう問題じゃねぇよバカ船長っ!」
「私、このままでは砕けてしまいますよー?!」
そう。麦わらの伸びた両腕は、どうやら彼らの船の手すりをね、掴んでいたみたいなんですよ。そして私達全員を巻き込んで、この男は地を蹴ったわけです。なので今、もんのすごい勢いで船まで飛んでます。
恐らく、走って行ってもそこまで時間のかかる距離ではなかったと思うんだけど、この方が早いっていう麦わらのむちゃくちゃな決断により余計な恐怖を味わう羽目になったんだけど?!
私達の叫びにナミちゃん達の驚く声が重なり―――何かに衝突しました。
「なんでアンタ達、飛んできたのよ!」
「んなのルフィに聞け…!!」
「ナミさん、ロビンちゃん、リズちゃん大丈夫か?!」
「ええ、大丈夫。ありがとう、サンジ」
「びっ……くりしたぁ…!」
「リズ…てめぇ、いい加減にどきやがれ……!!」
え?あ、ごめん。私、海賊狩りに抱えられたまんまだたから何かにぶつかった衝撃で…かはわからないけど、彼の背中に着地しちゃってたみたい。見事につぶしちゃってたよ。
謝りながら急いでどけば、おでこを真っ赤にした海賊狩りがゆっくりと体を起こす。あーうん、でも全員ひどい怪我はしてないっぽいし良かった…のか?いや、良くないな。全く。
「ナミ、全員揃った!出航だー!」
「んもう…わかったわよ、船長!」
ゆっくりと動き出した船。遠くから再び聞こえてきた暴言の数々に、私はそっと振り返る。そこにはさっき見た光景が広がっていた。
ツキン、と胸が痛んだ気がしたのは―――…気づかないフリ。
- 34 -
prev|back|next
TOP