ドタバタ救出劇
トビウオ達が飛び去ってからしばらく船を進めていくと、海ばっかりだった景色の中に人工物が徐々に姿を現した。島だと思っていたけれど、何というか…ちょっと違うみたい。海の上に居住区を無理矢理立てた感じって言えばいいのかなぁ。何でこんな所に住んでいるんだろう、と思わなくはない。
まぁ、それはいいとして…そのど真ん中に吊るされている檻の中に誰かがいる。例のはっちんだろうか。
「誰もいないね、すごい静か」
「きっとおやつの時間だ!」
んなわけあるかい。どう見たって罠、それ以外の何物でもないよこの状況。そもそも、捕まえた相手を檻の中に入れて海のど真ん中に吊るすって…完全に海中で待ち構えてるに決まってるじゃないか。
でもこの人魚さんとヒトデさんは純粋すぎるのか何なのか、そんなことは全く考えつかなかったらしくサイボーグさんの言葉にめちゃくちゃ驚いていらっしゃる。だから捕まるんだよ、とツッコまれているけれど、正にその通りだと思う。これだけ素直すぎるんじゃあ、そりゃあの手この手で捕まえられるわ。
「ねぇ、真っ黒なんだけど…檻の中の人。……人?」
「キャ〜〜〜!!はっちん真っ黒け!!!どうしたの?!コゲたの〜〜?!」
「あ、あれがはっちんさん……え、人?」
「魚人だよ、タコの。…おいナミ、どうだ」
「う〜ん…怪しい…っていうかほぼ……」
ナミちゃん達の会話の意味がわからなくて首を傾げていると、コックくんがいきなり「アーロンは元気かァ?!」と叫んだ。え、なに?アーロンって。誰?
「あァ!アーロンさん?!あの人もチュウもクロオビも、皆海軍に捕まったままよ!おれ一人で脱獄してきて今、昔からの夢だったタコ焼き屋やってんだけど………しまったーーーーー!!!」
「おめェかやっぱりーーー!!!」
コントか、これは。
ロビンちゃんもわからないらしく、「なあに?」と呟いた。もちろん私も知らないしわからないから、首を傾げるしかできない。そんな私達の疑問を解決してくれたのは、狙撃手くんだ。はっちんことハチは、ナミちゃんの故郷を支配していた海賊団の幹部…だったらしいです。一味は麦わら達の手で壊滅し、海軍に捕まったはずらしいけど彼だけ脱獄したみたいね。
成程、昔戦った敵のひとりってことかー…しかも、ナミちゃんの故郷を支配していた海賊団のひとりとなると―――これは救出はしない方向、かな。先陣きって助けよう!って言っていた麦わらも、さすがに難色を示している。示しているのだけれど、どーーーしてもタコ焼きが食べたいらしく、食欲と理性の狭間で揺れに揺れている。あれはきっと、理性が食欲に負けるだろうなぁ。
一味の様子が変わったことに焦った人魚さんは、縋るような瞳をナミちゃんに向け、彼女の名前を呼んだ。でもナミちゃんも眉間にシワを寄せ、頭を抱えた。
「…ま、割り切るって簡単じゃないよねぇ」
「そんな…じゃあ救出は手伝ってもらえないのね…?!」
じわり、と人魚さんの目に涙が浮かぶ。そんな彼女の様子を見て、ナミちゃんはグッと表情を歪ませた。これ以上はもう頼んでも無理だと悟ったのだろう。人魚さんとヒトデさんはハチさんを助けるべく、海に飛び込み―――予想通り、マクロ一味にあっさりと捕まった。
うん、でしょうね!!そりゃあ待ち構えてるさ!
「それでどうするの?そっちの事情はともかく…あの人魚さん」
「ケイミ―ちゃんに罪はねェ!彼女だけは助けるぞ」
飛び出そうとしたコックくんを止めたのはナミちゃんだ。ニッと笑みを浮かべた彼女は、「ハチも解放しましょ」と言葉を紡いだ。当然、皆はいいのか?って視線を向けているけれど、ナミちゃんの顔に浮かんでいるのは晴れ晴れとした笑顔だけ。無理をしているようにも見えなかった。
若干、眉間にシワは寄っているけどね。躊躇いとか、そういう感情も読み取れない。多分、心からの言葉なんだと思う。
「ハチは大丈夫!実は無害な奴だから!…だってこれじゃケイミ―との約束が違うもんね」
「優しいねぇ、ナミちゃん」
「茶化さないで!リズ、アンタにも手伝ってもらうからね!」
「アイアイ、わかってるよ」
この前の島では暴れられなかったからね。久しぶりの戦闘だ。ウズウズしてきた…!
私が戦闘準備をしている間に、麦わらはあっさりと人魚さんとヒトデさんを救出。よしよし、あとはあの真っ黒なタコさんだけだね。そっちは海賊狩りに任せるみたいだけど…あれって一応、鉄製よね?刀で斬れるのかな。ロープはもちろん斬れるだろうけど。ウチの船長の能力ならあっさりイケるけどさ?実際、ぶった斬ったの見てるし。
そう思ってたんだけど、海賊狩りはいとも簡単に檻とロープをぶった斬ってしまった。おお、すごいなぁ。
「よっしゃ、暴れるぞ〜!…リズ!」
「?」
「お前も思いっきり暴れろよォ!!」
言われなくとも、そのつもりだよ。麦わらの船長さん。
「了解!」
そこからはもう大乱闘って言葉がしっくりくる状態だ。まぁ、トビウオに飛び乗った麦わらがそのまま海へドボン。なんてことがあったけど…ひとまずはこちらが優勢だろうか。
ガイコツさんや自由になったタコさん、そして海賊狩りの剣技、麦わらのパワーとすばしっこさ、どれもこれも見ているだけで面白いというか楽しい。ハートの皆と戦っている時とは、また違う感覚に胸が躍るのを感じていた。
『一騎で行くな。編隊を組め!!』
「え?」
『編隊飛行で攻めろ!!』
「え?」
割と大きめの音量で入ったらしい通信は、船にいる私達の耳にも届いた。というかさ、サイボーグさんは一体どこに反応してるの?もしかして…『編隊』?
「女か!!もったいないが皆殺しの命令!」
「来た!リズ、大丈夫か?いけるか?」
「心配ないよ、トナカイくん。女だからってナメてると―――」
ゴォッと勢い良く突っ込んで来るトビウオ達を視界に捉え、トナカイくんの言葉に笑みを浮かべた。私だって海賊だ、億越えルーキーと呼ばれるキャプテン…トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団のひとりだもの。戦えずして生き残れますかっての!
グッと拳を握り込み、マストを蹴って大きく跳躍。握り込んだ拳を操縦士の顔に叩き込み、トビウオごと海へ蹴り飛ばせば一丁あがりだ。
「痛い目見るって、習わなかった?お兄さん方」
「おおお!リズすげー!!!」
「あら、やるじゃない」
残りのトビウオもナミちゃんの生み出した雷が、ロビンちゃんの能力が、トナカイくんの蹄が、そしてサイボーグさんの拳が次々と叩き落としていく。それでもまだうようよ飛んでいるのは狙撃手くんが大砲や、火薬玉で撃ち落としてくれているんだけど…きりがないな、これ。やっぱり海のど真ん中じゃ、あっちの方が有利だってことかな
。何とか船を足場に着けることができればいいんだけど、そんな暇を与えてくれるようなバカじゃないよねぇ。まだ私達の方が優勢な状態ではあるけれど、デュバルと呼ばれている男は姿を現していない。そいつが出てくることでどう戦況が変わるか…何とも言えないな。
あれ?そういえば、麦わらは一体どこに行ったんだろう。さっきコックくんと一緒に突っ込んできたトビウオと操縦士を吹っ飛ばしてから、姿を見てないんだけど。キョロリ、と辺りを見渡していると、海賊狩りとガイコツさんがいるはずの方から何やら獣?のような雄叫びが聞こえてきた。
「…今度はなに?」
「鳴き声というか雄叫びね…何かを踏み潰すような音も聞こえるわ」
ロビンちゃんと揃って首を傾げていると、トビウオに乗っている奴らが口々にモトバロの声だとか、ヘッドだとか声を上げている。
ヘッド…鉄仮面のデュバルって奴か。満を持してご登場かしらね。
「うわ、でっか!何あれ、牛?」
「バイソンじゃないかしら」
「だからおめーらは何でそこまで冷静なんだ?!」
これでも驚いてるよ、色々と。でもリアクションする前に狙撃手くんやトナカイくんが、めちゃくちゃ驚いてくれるから逆に冷静になれるというか…落ち着いて事態を把握できるんだよね。2人の驚きがなければ、私だってそこそこ驚いて叫ぶと思う。多分だけど。実際にはそうなってないからわかんないけど。
あれ?ここって確か、トビウオライダーズのアジトだとか何とかってヒトデさんが言ってなかったっけ。ということは、あいつ自分の家を踏み潰して現れたってことか。いいのか?住む家、なくなったけど。
ポカーンとしている私達を余所に、仮面の男は休むことなく怒声を部下に浴びせている。そして勝手に自分の事情を語り始めたんだけど…どうやら、この男は好きで人攫い稼業に手を染めているわけじゃないらしい。ヒトデさんが言っていたな、人を捜しているらしい、って。その人物を捜す為にやっている―――というのが、正しいのかも。
そしてその人物っていうのは、麦わらの一味の誰かみたいです。だってこっち見て延々と喋り続けてるんだもん。
「おれは今日ここで…例え刺し違えようとも…必ずお前を殺す!!!」
怒りに満ちた瞳が、ギョロリと1人の男を捉えた。
「海賊"黒足のサンジ"!!!」
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