奇跡的な不運
「おれは今日ここで…例え刺し違えようとも…必ずお前を殺す!!!海賊"黒足のサンジ"!!!」
仮面の男が捜していたのはコックくんだったらしい。その言葉を聞いて私達は一斉にコックくんへ視線を向けたけれど、当の本人もおれ?!ってビックリしている。
覚えがないのか、それとも心当たりがありすぎてわからないのか…まぁ海賊だしね?恨まれることなんて多々あると思うけど、ここまでの怒りを向けてるって相当な強さの恨みだと思うんだよ。一体、なにしたんだこの人。
「レストランの時代じゃない?よく思い出して!」
「―――そんな前の話なら…まーあの時代は人に恨みを買うことばっかりやってたから」
「討たれろ自業自得だ」
「おれ達に迷惑をかけんな。あいつコエーぞ」
よっぽど怖いらしい。狙撃手くんとトナカイくんは、この事態を一刻も早く終息させる為にコックくんを差し出したいみたいだけど…そう簡単に上手くいくものだろうか。そもそも麦わらの一味の大半はイーストブルーから来たのよね?はるばるグランドラインまで恨みを晴らしに来るものなんだろうか。確かにそこまでしそうな強い恨みであることは、声を聞いているとよくわかるけれども。
それでも危険を冒してまで追いかけてくるとは、ちょっと思えないんだよね。そうするとグランドラインに入ってからのことだと思うんだけど、それなら当人以外も知っていそうな気がするから違うんだろうな。きっと。
結局、考えてみても思い出せなかったらしいコックくんの態度をすっとぼけていると受け止めた仮面の男は、でっかい銃の引き金を引いた。弾丸が飛んでくるものだと思っていたのに、私達を襲ったのは何と銛だった。間一髪で避けることができたものの、銛の刺さった芝生が…シュウシュウと音を立てて溶け始めたんだけど。
「この銛、様子が変だぞ!」
「…もしかして、毒?」
「その通り!コイツはサソリの毒の銛!刺されば3分であの世へ行ける!!」
ああ…これは本っ当に根深い恨みだね。そしてその恨みはコックくんにだけではなく、最終的には一味全員+私へも向けられた。皆殺しにするつもりらしい。
勘弁して?!まだ死ぬわけにいかないんですけど!
「う、わ…!乱射にも程があるでしょ!!」
「きゃ!!」
「ナミさん、リズちゃん気をつけて!!…あのヤロー!」
毒が塗られた銛を防ぐ術もなく、ただ逃げ惑うしかできない中。ガランッと何かが落ちる鈍い音が聞こえて、銛の雨が止んだ。どよどよとざわめき出すトビウオライダーズに首を傾げていると、ロビンちゃんがとある方向を指差した。その先にいるのはあの仮面の男だよね?何があったんだろう、と視線を向けてみると、かぶっていたはずの鉄仮面が吹っ飛んでいた。
あ、さっきの鈍い音はそれか。吹っ飛ばしたのは麦わら、かな?あの様子を見る限り。仮面の男は顔を見られたくないのか、手で顔を覆っている。けれど、吹っ飛んだ仮面を拾う素振りを全く見せなくて疑問符が浮かぶ。見られたくないのなら、さっさとかぶり直せばいいのに。
「いいさ、よく見ろ…!このおれの傷ついた顔をよく見ろよ…!!」
覆われていた手が、ゆっくりと離れていく。そうして露わになった顔は、どこかで見たことがあるような…?
「…あ。」
誰ひとり、驚かない人物はいなかった。口を覆う者、驚きの声を上げる者、何故か泣き出す者…反応は様々だけれど、きっと脳裏に浮かんでいるのは皆一緒だと思う。絶対。
当人であるコックくんは無言のまま、地を蹴って海へ飛び込んだ。何をするつもりかはわからないけれど、彼は悪魔の実の能力者ではないし問題はないだろう。コックくんがいた場所から再度、叫ぶように今まで抱えていた思いを吐き出している仮面の男へ視線を移した。男の目から、ポロリと一粒の涙が流れ落ちていく。
「オラ違うよォー!オラそんな奴知らねェよー!!海賊ですらねェぬらべっちゃ!!!」
そう叫んだ男の顔は、そっくりだった。コックくんの手配書と。瓜二つと言ってもいいくらいに、そっくり。皆が驚いて言葉を失っていたのも、それが理由だ。だってまさか、と思うでしょう?こんなことあるのかって。
コックくんの手配書は、写真が撮れなかったからなのか似顔絵だった。それも本人と似ても似つかない似顔絵だもんだから、私も麦わらに拾われた時はコックくんだけわからなかったし。名前を聞いてようやく認識したくらいだものね。これは海軍や賞金稼ぎも気づかないだろうと思っていたのに…まっさか、あの似顔絵とそっくりの顔をした人物がこの世にいただなんて。
「わがるが?!ある日、突然命を狙われたオラの恐怖!!…なしてオラが『海軍本部』に追われなぐっちゃならねんだ!!名のある賞金稼ぎに殺されがげにゃならねェぬら!オラが一体何をすた?!オラの人生を返せェ〜〜〜!!!」
涙ながらに語られた、仮面の男の事情。けれど、それはコックくんにとってどうでも良いことだったらしく…いつの間にか陸地へ上がっていた彼は、目をギッと吊り上げ憤怒の表情で走るスピードを上げていく。
そしてダンッと地を蹴り、仮面の男へ強烈な蹴りを一発食らわせた。
「知るかァ〜〜〜!!!」
いくら何でも知るか、はねぇだろ。って思ったけど、コックくんにとってもあの手配書は見たくないもの・頭にキてるものみたいだし…彼からしてみれば、おれに言うな!ってとこなんだろうか。
まぁ…確かに文句を言うのであれば、あの手配書を配布することに決めた政府と似顔絵を描いた人ってことになるんだろうな。うん。
「ビックリするくらいに似てるね…」
「ほーんと。世界って広いわ…」
「サンジの奴、奇跡の星の下に生まれてきたんじゃねェだろうか」
「いつの日かすごく面白い最期を遂げそうね」
「おれァデュバルって野郎、不憫でならねェ」
「こーいうことあんのな…」
いや、本当にね。そしてめっちゃくちゃ笑ってるなぁ、ガイコツさん。あの人、全てが片付いたらコックくんに蹴り飛ばされるんじゃないだろうか。
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