シャボン玉の中で待つ


タコ焼きをお腹いっぱい食べて満足した麦わら達は、大きなお腹を抱えながらゾロゾロと船へと戻ってきた。そしてそのまま甲板でお茶にすることになり、タコさんを助ける条件としてナミちゃんが提示していた魚人島への行き方を教えてもらうことにした。


「行き先はシャボンディ諸島ね」
「…ん?その島の名前、リズが言ってたわよね?」
「あ、うん。キャプテン達が向かう予定だって言ってた島」


ズズッとお茶を飲みながら、ナミちゃんの質問に答えているとタコさんと人魚さんが揃って首を傾げてこっちを凝視していた。何だろう?私、変なことを言った覚えはこれっぽっちもないんだけれど。


「ニュ〜…お前は麦わらの一味じゃねぇのか?」
「私?違うよ」
「こいつ仲間とはぐれて迷子なんだ!」
「迷子じゃないんだけど…まぁ、はぐれてはいる」
「リズちん…そうだったの」


人魚さんがしゅんとした顔になったけど、君がそんな顔する必要なんてどこにもないでしょう。それにシャボンディ諸島までもう少しみたいだし、そんなに気にすることも悲しむこともない。少し時間はかかってしまったけれど、やっとキャプテン達に会えるんだし!だから大丈夫だよ、と笑えば、人魚さんもにっこり笑みを返してくれた。
話は戻り、再び魚人島への行き方へ。キャプテンが言っていた通り、魚人島へ行くには船をコーティングしなければいけないそうです。でも元々、新世界へ行くルートは2本あるんだって。でも私達は海賊という無法者だから、自然とルートは1本に絞られてしまう。何故なら、1本は世界政府に通行許可をもらうルートだから。ああ、うん…そりゃ無理な話だよね。どう頑張ったって許可がもらえるわけがない。
成程…それでシャボンディ諸島には多くの海賊が集まるってわけか。2本目が魚人島経由の海底を進むルートだから。どういうことだろうって思ってたけれど、ヒトデさんの話を聞いてようやく納得できたよ。そうこうしているうちに私達は、シャボンディ諸島の入り江に辿り着いた。

『シャボンディ諸島』と呼ばれるこの島は、世界一巨大なマングローブ "ヤルキマン・マングローブ"という樹が79本集まってできているそうな。その1本1本に町や施設があり、それを79の島から成るシャボンディ諸島と呼ぶ―――ってことらしいよ。樹の集まりだから磁力はないので、当然ながらログが書き換えられる心配もないってさ。
今いる場所、44番GRは民間の入口らしい。さすがにここに船を着けるわけにもいかないから、もう少し奥まで行くことになりました。


「樹に番号が振ってあるんだ」
「島と島とは必ず橋で繋がってるから、番号を覚えておけば迷子にはならねェ」


ああ、成程。確かに番号さえ覚えておけば問題なく戻ってこれるよね。だけど、私は覚える必要ないな…まずはポーラータング号かキャプテン達を捜さなくちゃ。実はさっき電伝虫を借りて連絡してみたんだけど、だーれも出なかったんだよねぇ。さすがに誰も船に残っていない、ってことはないと思うんだけど…運悪く食堂に誰もいなかった、ってパターンかな。私がシャボンディ諸島に着くまで待っててくれる、ってキャプテンは言ってたし、置いていかれる心配は一切ないんだけど。
でもなー…79の島があるんでしょ?どう捜すのがいいんだろう。船を捜すよりキャプテン達を捜した方が、もしかして効率いいかもしれないなぁ。ふむ、と考え込んでいると、ふわりと何かが飛んでいくのが視界の端に映った。


「このシャボン玉…どこから発生してるの?」
「地面からですって。樹の根っこから特殊な天然樹脂が分泌されているそうよ」


船から下りてふわふわ飛んでいくシャボン玉を見ながら呟いた疑問、それを解決してくれたのはロビンちゃんだった。何でも樹の根っこが呼吸する時に、その樹脂が空気で膨らんで空へ飛んでいく―――という仕組み、らしい。わかるような、わからないような…でもこの幻想的な風景は、自然なものだってことだけはよくわかった。
そしてこのシャボン玉、人が乗っても全然問題ないみたい。現に麦わらが浮かんでいるシャボン玉に乗って、かなり高い所まで行ってるし。行ってたんだけど、…そのまま真っ逆さまに落ちてきたよ麦わらの奴。大丈夫かな、ってちょっと焦ったけど、よく考えてみたら麦わらってゴムゴムの実を食べてるんだよね。ゴム人間なら死にはしない、かな。落ちても。
だけど何で落ちてきたんだろう。足を滑らせた?運動神経と反射神経は、とてつもなく良さそうなのに。さっきまで麦わらがいたであろう場所を見上げてみても、高すぎて全くわからなかった。


「その代わり、一つだけ約束を守ってほしいんだ」


いつの間にか色々と話が進んでいたらしい。いやに真剣なタコさんの声が聞こえて、そっと視線だけをそっちに向けた。


「町に入ると『世界貴族』が歩いていることがある」


『世界貴族』…確か、聖地マリージョアに住んでるって人達だっけ。レッドラインの頂にある町だって、ヒトデさんが言ってたな。だからこのシャボンディ諸島にも来るのだろうか。どう見たってお偉い貴族様が遊びに来るような島じゃないと思うんだけどなぁ。一体、どんな用事で来られるのやら。
『世界貴族』という言葉は知ってるけど、タコさんはどうしてこんなに真剣な顔をしているんだろうか。その疑問はすぐに解決されたけど、どうにも飲み込みづらい事実だった。


「例え、町でどんなことが起きようとも、『世界貴族』にはたてつかねぇと約束しろ!」
「……?」
「例え、目の前で人が殺されたとしても、見て見ぬフリをするんだ」


ゴクリ、と唾を飲み込んだのは、一体誰だったのだろう。





「リズちゃん、これ約束してたやつ」


不穏な話を聞いたものの、麦わら達の切り替えはものすっごく早かった。あっという間に出かけるぞ野郎共ー!と声を上げてるし、それに続くおー!という声も聞こえてとても賑やかだ。いつも通り。
私も準備をしてこよう、と数十分だけ女部屋に引き籠って、ナミちゃんが使わないからってくれたリュックに買った服や大事なつなぎを詰め込んで再度、甲板へ。そこで声をかけてきたのが、数枚の紙を差し出しながらにこやかな笑みを浮かべているコックくんだ。約束、って…何のことだろう。
疑問に思ったのは一瞬だけ、受け取った紙を見て合点がいった。これ、私が教えてほしいって言ったパイのレシピだ。+私が美味しいなって密かに思っていた料理達。そういえば、私が船を下りるまでに用意しておくねって言っていた記憶がある。ちゃんと覚えててくれたんだ。


「この島に仲間がいるんだろ?おれは用事があって船に残るから、先に渡しておこうと思って」
「あ、そっか。リズはこの島で船下りちまうんだっけ」
「え〜〜〜〜?!下りちゃうのかァ〜〜〜?!」
「元々、そういう約束だったろ…なに今更驚いてんだ」


はぁ、と溜息を零したのは海賊狩り。涙を浮かべながら行くなよーって言っているのは、トナカイくん。私はその光景を見て苦笑いを浮かべるしかできない。うーん、トナカイくんだってあの場にいたはずなのにどうしてすっかり忘れ去ってるのかなぁ…仲間の所へ早く帰りたい気持ちが大半を占めているものの、ここまで泣かれちゃうとちょっと胸が痛いというか何というか…罪悪感に似た気持ちがじわじわと浸食していくような気がした。
じゃあこの船に残るのか、と問われたら、即座にNOと答えますけど。私はキャプテン以外の人についていきたいとは思わないし、今までも、これからもずっと。なので、泣いてくれるトナカイくんには悪いけどこればっかりはどうにもならないのだ。


「リズ〜〜!お前も早く来いよ!遊びに行くぞー!!」
「え?あ、いや、私はいいよ。この島に仲間がいるはずなの、捜しに行かないと」
「いーじゃんか!遊んでから捜せば!何ならおれ達も捜すの手伝ってやるよ」
「あっそうだよリズ!遊びながら捜そう!なっ?」


ほんっと…自由だなぁ、君達は。
思わずジト目になるのは、仕方がないと思うんだ。溜息をつきかけた私の背中をポン、と押したのは、コックくん。


「せっかくだから行っておいでよ。待ち合わせしてるわけじゃないんだろ?」
「そりゃそうなんだけど…」
「ルフィはめちゃくちゃだけど、言ってることは間違ってねェよ」
「…まぁね。それはわかっちゃいるんだけどなぁ」


待っててやる、と言ってくれた。でも急げとか、早く来ないと置いていくとか…そういうことは一切、言われた覚えがない。だから少しくらい、寄り道をしたとしても問題ないとは思う。コックくんが言っているのもそれを指してるんだってことくらい、わかってるんだけどー…なんか、麦わらのペースにのせられてるのが癪というかさ。巻き込まれてる感が半端なくって、悔しいとか思ってしまうわけで。今までに散々巻き込まれてるから、それすらも今更だとわかってはいるんだけどさ。
はぁ…色々と考え込むだけ無駄か、それに麦わらとトナカイくんの言っていることは一理アリだし。


「…いってきます」
「うん、行っておいで。またどこかでね、リズちゃん」
「変な人。私、海賊よ?」
「知ってる。でも縁ってそういうモンだろ?」


うん、まぁそうなんだろうけど…それでも敵であるはずの私にまたどこかで、なんていう人はきっと、この麦わらの一味以外にはいない気がする。
お世話になったコックくんには悪いけど、素直に頷く気にもならなくてひらり、と片手を振るだけに留めて船を下りた。


「―――楽しかったのは、認めるけどね」

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