寝ても覚めても、いつだって


「あ、この服ロビンちゃんに似合いそう」
「…リズって、」


ナミちゃんの運転するボンチャリに乗り、私達は30番GRにある大きなショッピングモールへとやってきた。ずらりと並ぶお店を見て目を輝かせたナミちゃんを先頭に、今は1軒の洋服屋さんで物色中です。
そこで見つけたワンピースがロビンちゃんに似合いそうだ、と彼女に声をかけていたら、眉間にシワを寄せたナミちゃんが私の名を呼んだ。でもそれっきり何かを言う様子もなく、しまいには手を顎に当てて考え込んでいるようにも見える。
いや…何ですか?名前を呼んだってことは、私に用事があるってことだと思うんだけど。でも黙り込んじゃったし、ロビンちゃんとの会話に戻っても大丈夫かな…?と思いつつも、そのままナミちゃんと見つめ合うこと数分。ようやく彼女の口が開いた。


「滅多に服買わないって言ってた割には、センス抜群よね」
「………はい?」
「そういえば前の島でも選んでた服、とても良かったわ」
「でしょう?!今ロビンに似合うって持ってきたワンピースだってそうだし」


なのに、普段はつなぎばっかりとかほんっともったいない!
ふんっと鼻息荒く腕を組んだナミちゃん。当の私はといいますと、イマイチ現状把握ができてなくってアホ面を晒している最中です。開いたままの口は、私の肩から手を咲かせたロビンちゃんに半ば無理矢理に閉じさせられましたけど。
というかさ、今の発言は褒められたと喜べばいいの?貶されたと憤ればいいの?どっち?ワンピースを持ったままグッと眉間にシワを寄せていると、ぐりぐりとナミちゃんが眉間を押してくる。それも容赦ない。痛くない、女の子の力じゃちっとも痛くはないけどやめようか?!


「なんっなんだよナミちゃん!」
「アンタが思いっきりシワ寄せてるからでしょ。女の子なんだから、そんなに怖い顔しないの!」


今度はむにーっと頬を抓られた。ロビンちゃんはそんな彼女を止めることもせず、楽しそうに笑みを浮かべている。楽しそうなのは何よりですが、止めてください。割かし真面目に。
そろそろ伸びきってしまうのではないか、と有り得ない心配をし始めた頃に、その手は離れていった。ムスーッとした顔を向けてもナミちゃんは何のその、勝ち気な笑みを浮かべるばかりで謝る素振りはゼロ。元々の原因は私にあるのかもしれないけど…ここまで引っ張ることはないんじゃないだろうか。もう。だけどあんまりにも彼女が笑みを崩さないから、しまいにはどうでもよくなってしまった。
さて、お買い物再開といきましょうか。


「これを機にアンタもつなぎ以外の服、着る機会増やしたら?」
「うーーーん…でもつなぎの方が落ち着くんだよね。着慣れてるし」
「でも私達の船にいる間、一度も着ていなかったわよね。どうして?」
「……色んな思い出が詰まってるものでもあるから、どうしたって思い出しちゃうんだよ」


キャプテンのこと。ハートのこと。それから船で過ごした時間も全て、あのつなぎに詰まってるんだ。
麦わらの船に乗っている間、思っていたよりかは淋しい気持ちに引きずられなかったけど、でもつなぎを着ていたらそうはいかなかった。私にとって大事な大事なものだけど、それがより辛いことだってあるんだよ。だから着れなかった、いや―――着たくなんて、なかったの。


「本当にリズは船長さん達のことが好きなのね」
「うん」


好き。大好きだよ、キャプテンが。ハートの皆が。


「この好きの度合いで恋じゃないっていうんだから…」
「船長さんへの愛情は、かなり飛びぬけているのにね」
「またその話〜…?」


もう、これ以上はキャプテンへの恋情を実感したくないんだから勘弁して。とは言えないので、出かけた言葉を慌てて飲み込んだ。でも感情を隠すのは間に合わなくてうえ〜と嫌な顔をしてしまったけれど、ナミちゃんとロビンちゃんは気分を害した様子もなく、まだ楽しそうに、けれどどこか困ったように笑っているだけ。
ハートのクルーは大半が男だから、あんまりこういう話になることはないんだけど…やっぱり女の子って恋愛話とか好きなものなのかな。イッカクちゃんとはこういう話をしたことないから、よくわからない。彼女とは今日の夕飯のどれが美味しかったとか、洗濯当番の誰々がサボってたとか、今思えばクルーのことや食事のことばっかりな気がする。
だからこの船に拾われて初めて、女の子と色恋話ってものをしたんだよね。ペンくんとシャッちゃんとしたのは…うん、2人には悪いけどノーカンで。あれは色恋話とは言い難いもん。似たような話をしてたのは確かだけど。


「そもそもさ、同じ船に乗ってるクルーをそういう目で見ることって…あんまりないんじゃないの?」
「まぁ…確かにルフィ達をそういう目で見てるか、って言われたら、即座に否定しちゃうけど」
「でしょ?私も同じだって。キャプテンへの気持ちは敬愛とか、そういうの」
「リズは―――…」


私の瞳をじっと見ていたロビンちゃんが、ポツリと呟く。でも言葉の続きは紡がれることはなく、何でもないわと見慣れてきた笑顔を浮かべた。
気になるは気になるけど、きっと話してはくれないだろう。勘でしかないけど、それは当たっているような気がする。だからそのまま、そっかと返すだけに留めた。


「あ、ナミ、リズ。外にクレープ屋さんがあるわ」
「え?どこどこ?…あっほんと!ちょうど甘いもの食べたかったし、休憩がてら行きましょ!」
「へっ?あ、ちょ、ナミちゃんっ……?!」


グイグイと引っ張られ、連れて来られたのはクレープ屋さんの前。いや、思いっきり引っ張らなくても逃げたりしないから…!
ようやく解放され一息ついて、看板に貼られているメニューへ視線を移した。いちご、バナナ、チョコカスタード、プリンキャラメル…クレープっていってもこんなに種類があるんだなぁ。あ、ピザとかハムチーズなんてものもある。甘いものだけじゃないんだ。あんまりこういうの買わないから知らなかったよ。
甘くないものだったら…キャプテンもつき合ったりしてくれるのだろうか。でもクレープをもそもそ食べてるキャプテンは、ちょっと想像がつかない。好物のおにぎりを食べてる時みたいに、ほっぺたが膨らむんだろうか。あれ、可愛いんだよね。言うと怒るから黙ってるけど。


「リズー、アンタ決まった?」
「んんんん…いちごとバナナで悩んでる…」
「あら、そうなの?私いちごにするつもりだったから、一口いかが?」
「…もらっていいの?」
「ふふ、もちろん」


じゃあバナナチョコカスタードにしよう。注文とお会計を済ませ、早速クレープに噛り付いた。
んんん、おいっし〜〜…!


「おいしー…」
「しみじみと言うのやめなさいよ…」
「だって美味しいじゃん」
「美味しいけど」


クレープ屋さんがあったのは中庭になっている所で、休憩所としても使われているんだろう。ベンチやパラソル付きのテーブルがそこかしこに置いてある。あ、ジェラート屋さんもある…ジェラートもいいよね、シャボンディ諸島は割と暖かいから外で食べても何の支障もなさそうだし。
もごもごと口を動かしながら、辺りをぐるっと見回してみるととあるお店に目が留まった。ここからだとしっかり見えるわけじゃないけど、雑貨屋さん…かなぁ?


「何か気になるお店でもあったのかしら」
「え?」
「じっと何かを見つめているようだったから」
「何処か気になるんなら食べ終わったら行ってみましょ!」


いいのだろうか。私はただ、ショッピングモールへ行くという2人についてきただけなんだけど。首を傾げてそう問いかければ、もう食べ終わっていたらしい2人がクレープを包んでいた紙を小さく折りたたみながら「いいに決まってるでしょう」と笑った。
そっか、いいのか…そういうもの、なのか。納得していいのかわからないけど、ここは2人の言葉を真に受けておくことにしよう。最後の一口を放り込んで、同じように紙を小さく折りたたんでゴミ箱へと投げ捨てた。


「それで何処が気になるの?」
「あそこの…雑貨屋さん」
「あら、可愛らしいお店。こういう所、好きなのかしら?」
「嫌いじゃないよ。積極的に行くことはしないけど」


行きましょ、とナミちゃんにまたもや引っ張られるようにして、お店の中へ。だからそんなに引っ張らなくてもちゃんと行くってば…!それに私が行きたいって言い出したお店でもあるんだし、どう考えたって逃げたりしないっての。もう半分諦めてるようなものだし。
でもお店の中に入ってしまえば、たくさんのアクセサリーやアンティーク調の小物に心を奪われたのか、ナミちゃんの手はあっさりと離れていった。ああ、やっぱりこういうもの好きなんだね。女部屋のインテリアもこういう感じだったからもしかして、と思っていたけれど。
洋服を見ている時と同じくらいに楽しそうな顔をしているナミちゃんを見て、自然と笑みが零れる。大人っぽい子なのかなって思ってたけど、意外とそうでもないんだよね。こういう所は可愛いなって思う。彼女から視線を逸らし、お店の奥の方へ足を進めると少しテイストが違うアクセサリーが並んでいた。もしかして、男物?


「ちょっとテイスト違うでしょう。男性への贈り物用のコーナーなんですよ」
「へぇ…」
「シンプルなものからゴツイものまであるんで、良かったら彼氏さんへのプレゼントにどうぞ」
「かれっ……?!」


ごゆっくり、と和やかな笑みを浮かべて去っていったご主人に、声高らかに彼氏なんていません!と反論するわけにもいかず。ただ中途半端に開いた口をきつく引き結ぶ他なかった。ああもう、何か変な汗かいちゃったじゃないか…!…でも、確かに種類は豊富だな…アクセサリーをつける相手だったら、ここで選ぶのもひとつの手だろう。
あ、このピアスやブレスレット…キャプテンに似合いそう。買っていったらつけてくれるかな。それとも何してやがんだバカ、って怒られるかな。だけどこのピアスのお礼、まだできてないしいい機会のような気もするんだよね。選んで、と言ったのは確かに私だけど、買ってください!とまで言ってないのにお金払っちゃったし、あの人。さすがの私もそこまで厚かましいお願いはしないっつーの。
まぁ、それは置いておくとして―――ずっとお礼をしたい、と思ってはいたんだ。思ってはいたんだけど、何をしたらいいのかわからなくてここまできてしまったわけで。うん、買っていこう。ピアスはあれ以上開けてなかったら面倒かけちゃうから、ブレスレットかな。シルバーのチェーンに細身のプレートがついたブレスレットを手に、お会計へと向かった。



(あーあ、嬉しそうな顔しちゃって…誰に買ったのか丸わかりじゃない)
(ふふっ本当、可愛らしい子ね。わかりやすくて)
(ロビン、それ褒めてる?)
(もちろん、褒めてるわ)

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