人攫いにご注意を


雑貨屋さんを出た後はまたボンチャリに乗り、ロビンちゃんの用事を済ませるべく本屋へと向かっています。
シャボン玉の中にある荷台には、もういくつもの紙袋が入っている。他にも『ボンバッグ』っていうのもあるらしくて、この島では荷物を運ぶ力はいらないみたいね。本当に便利だなぁ…だけど、このシャボン玉はシャボンディ諸島でしか形を保てないんだって。
何でもヤルキマン・マングローブの生息に適した気候がこの島にはあって、その範囲を抜けちゃうとシャボン玉の樹脂成分が充分に力を発揮できなくなるって理屈らしい。だからこのボンチャリもレンタル以外に買取もできるけど、この島以外では魚人島でしか使えないんだって教えてもらった。
これだけ気持ちいいと買って帰りたくなっちゃうけどね、使えないんじゃお金の無駄だもの。ボンチャリはレンタルで十分だって話。そよそよと吹く風を受けながら、なんとなーく耳を澄ませてみる。何か面白かったり、役立つ情報はあるかな〜っと。

『おい聞いたか?今、このシャボンディ諸島には億越えルーキーが11人もいるんだってよ!』
『キャプテン・キッド、大喰らい、ギャング・ベッジ、魔術師と…』
『海鳴り、赤旗、怪僧、殺戮武人に死の外科医に、ええっとー』
『あとあいつらだよ!麦わらと海賊狩り!!』
『1人くらい首を取れねぇかな〜…しばらくは遊んで暮らせるぜ?!』
『やめておけよ。返り討ちにされて死ぬだけだろ…』

ふ〜ん…11人の億越えルーキーが揃ってるのか。確かにルート的にはここへ集結するって、キャプテンも言ってたけど…こうも同時期に顔を揃えるなんてことあるもんなんだろうか。海に出る時期、グランドラインへ入る時期、新世界を目指す時期、どれもこれもタイミングが合うわけではないのに。これは無法地帯は大変なことになってるかも。
でもひとまず、キャプテンがもうこの島にいるってことだけは掴めたわ。捜すとしたらやっぱり、1〜29番GRだろうか。シャッちゃんやベポくんはシャボンディパークとか行きたがりそうだけど、あの人はそういう場所好まないし…とはいえ、別行動しているとも思えないよねぇ。
うーん、どんなお店があるのかまだしっかり把握できてないし、しらみつぶしに捜すのが一番かな。聴力で捜してもいいんだけど、これだけ広い場所でキャプテン達の声だけを拾うのはちょっと疲れるし。できれば最終手段として取っておきたい。


「…あ、ロビンちゃん」
「どうしたの?」
「さっき…ショッピングモールに向かう途中で何か言いかけてたよね。あれって何だったの?」
「ああ…"悪い歴史"?」


簡単な情報収集を終えて、そういえば気になっていたことがあったんだ、と口を開いた。そう、ロビンちゃんが呟いた”悪い歴史”ってやつ。聞かなくてもいいことなのかもしれないけれど、それでも気になるものは気になる。好奇心はそこそこ旺盛なんです。
チラッと盗み見たロビンちゃんの顔には、特に嫌悪感のようなものは浮かんでいない。けれど、何を考えているのかまではわからない…そんな表情だ。


「―――200年前…たった200年前まであった悪い歴史」
「……」
「魚人族と人魚族は"魚類"と分類されて、世界中の人間達から迫害を受けていたの」
「えっ…?!」
「あの強い魚人族達を……?!」


いくら強くても多勢という力には何物も及ばない、ロビンちゃんは悲し気な瞳を伏せ、そう首を振った。
そうだ、いくら強くて力があったとしても、世界中の人間が敵とあっちゃどうにもならない。敵いっこない。迫害というのは、いつだってそういうもの。どんな時代になっても人間というのは、大して変わらないってこと。
でも200年前、『世界政府』が魚人島への交友を発表してからは薄れていったらしい。


「でも…そうだとするなら、タコさんと人魚さんは普段通りの格好で歩いても問題ないんじゃ?」
「ええ、その通りだわ。だけどあの2人はバレないように変装している…もしかしたら、魚人や人魚に対する差別が残っているかもしれないと思ったの」
「だからケイミ―はずいぶんと控え目だったんだ…」


ロビンちゃん曰く、人買いや奴隷の文化も人間の悪い歴史らしい。その文化もこのシャボンディ諸島では黙認されているから、そう思ったそうだ。彼女は思い過ごしだといいけど、と薄い笑みを浮かべる。まるでそうであってほしくない、と願うような。
けれど、それは空から聞こえたサイボーグさんの言葉によって霧散した。


「小娘!!ロビン!!嬢ちゃん!!トビウオに乗れっ人魚の奴が攫われた!!!」


厄介事がまた舞い込んだ、と思わなかったわけじゃない。きっとナミちゃんとロビンちゃんとサイボーグさんは彼女を捜しに行く、助けに行くだろう…私は麦わら達の仲間じゃない、ここで別れてキャプテン達を捜しに行くことだってできる。我関せずの態度をとることだってできるけど、何故か私はそれをしようと思わなかった。したいとも思わなかった。
気がつけば私の名前を呼んだナミちゃんに了解、と返事を返し、ロビンちゃんの後ろへと飛び乗った。トビウオは2人乗りっぽいけど、まぁ何とかなるでしょ!


「攫われたってどういうこと?麦わら達と一緒にいたんじゃないの?!」
「おれ達が聞いた話じゃ人攫いに攫われたらしい。だから『人攫いチーム』の動向を探ってる!」
「人攫い……じゃあ売られる、ってこと?」


タコさん達の話の中に人身売買について聞いた。ロビンちゃんもその悪い歴史が黙認されているって聞いた。極めつけは―――ヒトデさんの言っていた、人魚はいい値段で売れるって話。それを統合すれば誰だってわかる、人魚さんは間違いなく売られるんだって。
でもどこかの人攫いチームに攫われたんだったら、犯人捜しをするよりさっさとヒューマンショップに向かった方が早くないか?そう思ってライダーズのお兄さんに声をかけたけど、この辺りにはそんなお店がごまんとあるんだと言われてしまった。それら全てを調べていたらただ時間が過ぎていくだけ…だからこそ、犯人のチームを突き止めてどこに連れて行ったのかを調べた方がずっと早いんだそうだ。


「…でも正直、貴方が一緒に来てくれるとは思わなかったわ」
「なんで?」
「だって貴方、私達がケイミ―ちゃんを助けに行っている間にお仲間さんを捜しに行けたでしょう?」


私達の仲間じゃないから。そう理由づけてお別れかと思っていたわ。
ロビンちゃんはそう言って薄く笑った。来ると思わなかった、と言ったけど…表情はそう言ってないんですけど。私が一緒に来ることをわかっていたって表情だよ、それ。意地が悪いというかなんというか…でも素直に答える気もなくって、溜息だけを吐き出した。ロビンちゃんのこういう所、見透かされているみたいで苦手だ。私。
ま、今はそんなこと考えている場合じゃないか…いっちょお役に立ってあげようじゃないか!麦わら達には助けてもらった恩があるし、タコさんには美味しいタコ焼きをごちそうしてもらった。そのタコさんの大事な仲間である人魚さんだからね、今回はとことん協力するよ。シャボンディ諸島まで連れて来てもらえたし。
集中して耳を澄ませると色んな声が、会話が、音が、次々と流れ込んでくる。あ〜…やっぱりこれだけ大きな島でやるには向いてないな、頭がぐわんぐわんして目が回りそう。吐きそう、と舌を出した所で僅かに引っかかる声音があった。
怯えたように紡がれた、タコさんの名前―――見つけた、人魚さんだ!


「ねぇっどこか…オークションやってる会場は?!」
「は?オークション?!」
「そう!人魚さんはオークションにかけられてっ…!」


こういう時、何番GRに何があるのか把握してないのって本当に不利だ!こうして詳しい誰かに聞かないと場所さえわからないっ!身を乗り出してライダーズのお兄さんを揺さぶって吐かせようとした時、通信が入った。


『犯人は―――"ハウンドペッツ"!場所は1番GR!!』
「1番GR…毎月恒例のオークションやってる所だ!姉ちゃん何で人魚が競売にかけられてるってわかったんだ?!」
「本当…びっくりしたわ」
「今、そんなこと話してる場合じゃないでしょ!飛ばしておにーさん!!」


乗り掛かった船は、途中下船を許してくれない―――だったら、もう半分ヤケになるしかないよね。

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