再会に喜んでいる時間はない


1番GR―――オークションハウス。そこに人魚さんがいる。
人魚はいい値で売れるって話だから、オークションにかけられてるなら早々に出されるってことはないと思う。ああいうのって目玉商品は後半に出すものだって、そう相場が決まってるから。今全速力で向かっているオークションハウスの競売が、一体何時から行われているのかはわからないけれど…それでもまだ間に合う。何でだかわからないけど、そんな気がした。


「もう誰かはついてたりするのかな、オークションハウスに!」
「ええ、恐らくは!」


でもこの島で行われている人身売買は黙認されているもの…それはつまり、世界政府すらも関与しないということになる。見て見ぬフリをしているってことになる。だとすれば、いくら訴えてもすんなりと返してくれるわけはないし、海軍に訴えることもできない。下手すればこっちが海軍にしょっ引かれる可能性もあるってことだ。
そうなると正攻法で、真正面から奪い返すしかないってことになるんだけど…人魚さんは一体、いくらなんだろう。額によっては全く手が出ないって展開にもなりかねない。


「スリラーバークで手に入れたお宝があるはず。だから、2億ベリーまでなら出せるはずだけど…」
「普通ならかなりの額だけど、そういう場所に来る奴らってどうせ成金とかそんなのばっかりでしょ?それ以上の値段にならないとは言い切れないよね」
「ああ!人魚の相場は女なら7000万ベリー以上。軽く億は超えるだろうよ。なかなか出品されねぇからな」


そう考えると…麦わら達がオークションハウスのルールで人魚さんを奪い返せる確率は、かなり低くなる。それに仲間をひとり奪い返す為に、世界政府へケンカを売るような船長だもの。今回だって大人しく穏便に済ますなんて、そんなの考えられないわ。
下手すると騒ぎになっている可能性だって………あ、あれかな?1番GRのオークションハウスって!


「…ねぇ、なんかすっごい勢いで人が出て行ってるんだけど」
「これは…もしかするかもしれないわね。覚悟をしておいた方がいいわよ?リズ」
「うっわぁ…マジっすか、ロビンちゃん」
「お2人さん、騒ぎが起きてて出入り口は使えねぇ。このまま突っ込むから、しっかり掴まってろよ!」


え、突っ込むの?このまま?!そんな頑丈なの?!このトビウオ!
しかし叫び声を上げる間もなくトビウオはオークションハウスの壁を突き破り、侵入大成功。一応、怪我もしなかったけど…これ、飛び降りる他ないってやつかー。でも…ここまで来て逃げ帰るってのも格好がつかないし、飛び降りるか。諦めて。
視線を上げた先には同じトビウオ、そこから飛び下りるガイコツさんと突き落とされる狙撃手くんの姿が見えた。おお、容赦ないなぁ狙撃手くんが乗ってたトビウオを運転してたお兄さん。


「ありがと!行きましょう、リズ」
「アイアイ、わかりましたよっと。お兄さん、ありがとね!」
「気ィつけな!!」


飛び下りたのはオークション会場のど真ん中。あ、これすっごい目立つ奴だ。


「ああもうっ……ごめんね、兵士さんっ邪魔!!」
「ごふっ?!」


落下地点に運悪くいた鎧を着た兵士さんを踏み潰し、何とか着地をしたのはいいんだけど…この騒ぎは一体、何をしでかしたんだろう。耳と目でザザッと情報を集めると、どうやら麦わらが天竜人の1人をぶん殴ったらしい。その天竜人はタコさんを撃ったのか…成程?麦わらがキレるわけだよ。
世界政府にケンカを売ったことを思えば、それも仕方のないことだと思ってしまう辺り、私も毒されているらしい。…けど、面倒は面倒だ。天竜人を殴ると大将が出てくるからね。麦わらもそれは理解しているらしく、天竜人をヒップアタックで床にめり込ませた狙撃手くんに軍艦と大将が来ることを説明している。その声に重なるようにして、聞き慣れた心地良い声音が耳に届く。


「海軍ならもう来てるぞ、麦わら屋」
「なんだお前……何だそのクマ」
「海軍ならオークションが始まる前からずっと、この会場を取り囲んでる」


やっぱり、キャプテンだ。ベポくん、ペンくん、シャッちゃんもいる。
久しぶりに会う仲間に、自然と口角が上がり抱きつきたくなる。衝動的に。


「まさか天竜人がぶっ飛ばされる事態になるとは思わなかったろうな」
「トラファルガー・ローね、貴方…!―――ルフィ、海賊よ。彼」
「どうやら、おれのクルーが世話になったらしい。…おい、いつからお前は麦わら屋の仲間になったんだ?リズ」
「え?!」
「いやぁ、ど真ん中に着地しちゃったもんだから動けなくなっちゃって…ただいま、キャプテン!」


トンットンッと椅子を飛び越え、キャプテン達が座っている横の通路に着地すれば灰色の瞳がチラリとこっちを見上げた。それは一瞬だけ細められ、「遅ェんだよ、バカが」と言われてしまいましたとさ。
ええ〜…どのくらいかかっても待つ、って言ってくれたじゃん…それなのに遅いって言われても困っちゃうんだけどなぁ私。


「リズ……貴方、もしかして…?!」
「ロビン?」


何かに気がついたらしいロビンちゃんが顔色を変えた。恐らく私の手配書、そして二つ名を思い出したんだろう。様子が変わった彼女を訝しむように麦わらが声をかけたけど、ロビンちゃんはそのままグッと何かを堪えるように押し黙ってしまった。
私からすればその方が有難い、かな?どうせ海軍本部の人間がわんさかいるんだし、そのうち呼ばれてしまうだろうってことは目に見えてるけど…きっとこれは、彼女なりの気遣い。優しさなんだろう。それはただただ、嬉しかった。


「…ふふ。面白ェもん見せてもらったよ、麦わら屋一味」
「お前がリズの仲間なのか?」
「ああ…リズはおれんとこのクルーだ。助けてもらったことは感謝するが、いい加減に返してもらうぞ」
「なんだ、くれねぇのか?コイツ、すげー強ェしさぁ」
「緊張感ってもんがねぇのか、お前は…誰がやるかよ」


いきなり何を言い出すんだ、このゴム野郎。


「お前が噂の…トラファルガーの女か。なんだ、育ちが足りねぇな…趣味が悪いんじゃねぇのか、トラファルガー」
「……は?」
「へぇ…?なかなかいい殺気を放つじゃねぇの。…やるか?女」
「―――リズ」
「なんで止めるの。いくらご主人様でも噛みつくよ?」


だって今、この男は確実にキャプテンをバカにした。だったら噛みつくのが正しい行動でしょう?それなのに何で止められるのかな!バカにされるの嫌いでしょ?キャプテンだって。だから反論したのに、キャプテンはスッと目を細めて「おすわり。」とだけ口にした。
〜〜〜わっかりましたよ、大人しくしてればいいんでしょ!大人しくしてれば!!ボスンッと彼の隣に腰を下ろせば、満足したような笑みを零していらっしゃるが私は正直、不完全燃焼です。今すぐにでもあの男をぶん殴りたい。
ガルルル、と唸りそうな私の頭をキャプテンがポンポン、と撫でて少しだけ気分は落ち着いたけど、それでもまだ心の中がざわざわとうるさいままだ。ユースタスは何が楽しいのかゲラゲラ笑ってるし。


「主人に噛みつくような駄犬なら、躾し直さねぇとな」
「…だから大人しくするって言ってんじゃん、キャプテンのバカ」
「バカって言う方がバカなんだ。知らねぇのか」
「くだらねぇ言い合いすんなよ、あんたら…つーか、リズはまず犬扱いされたことを怒れ」


え?だって私、少なからず番犬の自覚あるよ?ハート以外には噛みつくし。だから別に犬扱いされても何とも思わない。まぁ、それはキャプテン限定だけど。番犬の自覚があると言えど、キャプテン以外の人に言われるのはちょーっと面白くないからね。
にっこり笑ってそう言えば、僅かに口元をひくつかせたペンくんに怒ってんじゃねーか!って頭を引っ叩かれた。だーかーらー、これっぽっちも怒ってないってば…何で引っ叩くのかな、君は。叩かれた所を擦っていると、ゾワリと得体の知れない何かが体中を駆け抜けていった。ビリビリと肌が、空気が震えてる…なに、これ?!
少しだけ上がった息を整えていると、オークションハウスにいた奴らがバッタバッタと倒れていく。え、え、なに?!何で急に倒れてんの?!最終的に意識を保っているのは、さっきの腹立つユースタス達と私達と麦わら達…それから、ステージ上に立っているご老人だけ。
倒れている方向を考えると…あの人が何かをした、っていうのが正解だろうか。それにしてもあの人の顔、どこかで見たことあるような…


「まさかシルバーズ・レイリー……?!」
「おっと、若いお嬢さんに名前を知ってもらっているのは光栄だが…この島じゃコーティング屋のレイさんで通っている。下手にその名を呼んでくれるな」
「え、あ、はい、ごめんなさい…?」
「すまんな。もはや老兵…平穏に暮らしたいのだよ」


いやいやいや、平穏に暮らしたいって言うような人がこんなオークションハウスにいるわけないって。ステージ上にいるってことは、この人も出品される予定だった…ってことだよね?冥王と呼ばれたあの!シルバーズ・レイリーが!!


「…ところでシャッちゃん、大丈夫?」
「一瞬、意識が遠のいたけど…もう問題ねぇよ」


ならいいけど。ホッとしたのも束の間、外から海軍の声が聞こえる。拡声器を使ってるのか、めちゃくちゃうるさい。さっすが来るのが早いなぁ…天竜人が殴られたんだし、それも当然のことか。
お貴族様なんだもんね?あの人達は。そんな人が殴られたとあっちゃ、海軍も色々と大変なんだろうけど…天竜人が、世界貴族がどれだけ偉いんだって話だよ。自分達以外の人間は、ゴミ同然と思っている奴らのクセに。


「おれ達は巻き込まれるどころか…完全に共犯者扱いだな」
「えっ私も?!」
「お前はあの綺麗なおねーさんと一緒に降ってきただろうが!!」
「それはそうだけどー…」
「だったら立派な共犯者だよ!それに、…今更だろ、こんなの」


ま、そうなんだけど。共犯者であろうがなかろうが、そんな細かいことは海軍にとってどうでもいいこと。海賊ならまとめてとっ捕まえればいい、とでも思ってるんだろう。麦わらが主犯、ユースタスとウチのキャプテンはそれを手助けしたーとか何とか言いやがるんだろうなぁ…この会場にいる時点でそうなることは決まっているようなものだ。その証拠にどうなっても知らんぞルーキー共!!って怒声が聞こえてきたしね。これはもー完全に包囲されちゃってるね。こうなったら船まで強行突破あるのみ、ってやつかな?
どうすんのかな、とキャプテンの動向を伺っていると、入り口付近に立っていたユースタスが真っ先に動きを見せる。意外だな、と思っていたら、この人をカチンとさせる一言をぶん投げてきやがりました。後ろの席に座っているシャッちゃん、いつの間にか立っていたペンくんに視線を向けると2人共「あーあ」って呆れ顔。ベポくんだけはきょとん、とした顔で首を傾げてる。うん、安定の可愛さだ。


「キャプテンの短気は相変わらずだねぇ…まー確かに助けてやるよ、って言われて素直にはいそーですかって言うタイプの人じゃないけどさ」
「命令されんの大っ嫌いだからな、船長。仕方ねぇさ」
「リズ〜〜〜おかえりおかえりおかえりィ〜〜〜!!」
「ただいま、ベポくん」
「ベポ、リズ。それは船に戻ってからにしろ!外はもう大乱闘状態だ、騒ぎに乗じて突破するぞ」


ペンくんの言葉にアイアイ!と返し、立ち上がる。でもその前に、とくるりと後ろを振り返れば、ウチのキャプテンと同じく飛び出していってしまった麦わらに置いていかれたクルーがそこにいた。
振り返った私を見て、彼らはきょとんと目を丸くしていて。それがおかしくって目を細めてしまう。


「どうやら、今度こそお別れみたいだね。リズちゃん?」
「そうね、コックくん。―――ありがとう、助けてくれて。麦わらにもそう伝えておいて」
「…んもう、慌ただしい別れね。全く」
「にししっ海賊だからね。…じゃあ、さよなら。麦わらの一味!」


またね。なんて言葉は、絶対に言ってやらない。ひらり、と手を振って、私は駆け出した。

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