平和主義って何だっけ


オークションハウスの外に出てみれば、案の定そこは大乱闘の大混乱になっていた。
これ、キャプテンが能力使った名残かな…生首が転がってる。涙を流しながら白目をむいている生首に苦笑を零し、肝心のキャプテンを捜してみるともう少し遠くの方で青いサークルが見えた。
あ、いたいた!おー、ずいぶんと暴れてるっぽいなぁ。自分の背丈ほどある大太刀を片手で軽く振り回すキャプテン…やっぱりカッコイイ。


「おーい、リズーキャプテンに見惚れてる場合じゃねぇぞー」
「わかってるけど…久々に見るキャプテンなんだもん。余韻に浸りたい」
「はいはい。あとでいっくらでも浸れ。とにかく今は気を引き締めろ、やられるぞ?」
「ふふん!やっとキャプテンに会えた私に敵う奴なんていませんよーだっ!」


腰につけていたケースから愛用のナイフを抜き、向かって来る海軍達の間をすり抜ける。ナイフと刀じゃこっちの方が分が悪いって思ってるんでしょう?案外、そんなこともないのよ?ニ
ヤリ、と口元を歪めるのと同時、海軍達の叫び声と倒れる音が聞こえた。そのままスピードを落とすことなく、キャプテンの元まで駆け抜ける。すると、仲間を斬られたことに激高したらしい海兵がキャプテンを狙って棍棒を振り上げているのが見えた。地を蹴る足に力を込め、更にスピードを上げる。
彼の横を通り過ぎる瞬間、シニカルな笑みを浮かべたキャプテンと目が合ったような気がした。


「ベポ!リズ!!」
「アイアイ、キャプテン!」
「任せて」


ベポくんの鋭い蹴りが、私のナイフがキャプテンを傷つけようとした奴らを次々に吹っ飛ばしていく。粗方吹っ飛ばし終わったのはいいけれど、キャプテンの姿が見えなくなっちゃった。視線を動かすと、オークションハウスの入口の方へ歩いているのが見えた。え?出てきたばっかりなのにまた戻るの?忘れ物…はしてるはずないよね、鬼哭はさっきちゃんと持ってたし。トレードマークの帽子も持ってるし、そもそも上陸する時はほとんど持ち物を持たない人だから…本当に刀くらいなんだよね、手に持ってるの。
だから忘れるようなものなんてないと思うんだけど、あ、財布でも落としたのかな?それだったら戻る理由もわかるけど。でも私の読みはどれも当たらなかったどころか、掠りもしなかった。キャプテンのお目当ては、入り口付近に座っていたでっかい人…みたい。あれ?さっきは気がつかなかったけれど、あの人、首輪と手錠がついてる。もしかして誰かの奴隷、ってこと?


「キャプテン、その人連れてくの?」
「ああ…おれと来るか?海賊キャプテン・ジャンバール」
「―――そう呼ばれるのは久しぶりだ。天竜人から解放されるなら、喜んでお前の部下になろう!」


キャプテン・ジャンバールと呼ばれたその人が腕を振るえば、何人もの海兵が悲鳴を上げて吹っ飛んでいった。すっごいパワー…!
というか、キャプテンがあんまりにも普通に名前呼んでたけどさっき、『海賊キャプテン・ジャンバール』って言ったよね?この人が名前を知っているほど有名な海賊でも、天竜人なんていうバカ共の奴隷になってしまうこともあるんだ。世の中って世知辛いなぁ、本当。
人攫いと天竜人にだけは捕まりたくない、奴隷になるなんて真っ平ごめんだもん。今はまだ死ぬわけにはいかないけど、もしそんな事態になったら―――舌噛んで死んでやる。その方がよっぽどマシだ。


「リズ、ボーッとしてんな!橋壊すらしいから早く来い!!」
「ぐえっ」


どうやらボーッとしてしまっていたらしい。走ってきたペンくんに首根っこを掴まれ、そのまま引きずられるようにして駆け出した。戦闘中にボーッとしていた私が悪いのはわかってるんだけど、首根っこ掴むことないじゃん?!腕とか、あるじゃん!何故に息の根が止まるかもしれん場所を掴むんだ君は!!
今は文句言っている場合じゃないし、まだ海軍達も追いかけてきてるから何も言わないでおくけどさ。ゲホッと咳き込みながら走っている後ろで、鼓膜を震わす程の轟音が響き渡る。その音に混じってベポくんの声。どうやらキャプテンが仲間に引き入れたジャンバールさんが、島と島を繋ぐ橋をぶっ壊したようだ。
でもきっとこのくらいじゃあいつらは引いてくれない…せっかくの機会をあっさり逃すような、そんなことはしないだろう。だけどちんたらしていたら大将にかち合ってしまうだろうし、さっさと船に戻るのが一番いい。このまま船を停めている場所まで、と考えていたら、先頭を走っていたシャッちゃんが「船長、アレ!!」と何かを指差していた。何か、焦ってる…?それから微かな血の臭いと…機械音が、する。


「アレは…何で七武海がこんな所に……!」
「そういえば、ここは海軍本部とマリージョアのすぐそばだったっけ…」
「ああ。誰が現れてもおかしくはない…!」


キャプテンの名を呟いたバーソロミュー・くまは、口をカパッと開きビームを発射した。それはものすごい速さで着弾し、マングローブの根を焼き払っていく。なに、今の…?!確かバーソロミュー・くまは悪魔の実の能力者だとは噂で聞いていたけれど、ビームまで出せるなんて聞いたことないよ?!それも口から!
あんなの人間技じゃ―――…ん?まただ、また機械音…キャプテンは機械なんて持っていないし、ユースタスも手に持っている様子はないし、恐らくアイツの能力でもないと思う。そうするとバーソロミュー・くまから聞こえる音、ってことになる。キャプテンとユースタスが真っ向勝負を仕掛けている後ろに立ち、じっとその男を観察してみるとやっぱりあの音はあいつからする。

『パシフィスタを一人造る為に―――』

無意識に澄ましていた耳に届いたのは、誰の声かはわからない言葉。でもわかったことがひとつだけある、私達の前にいるあの男は…七武海のバーソロミュー・くまではないということ。
造る、という言葉をそのまま真に受けて飲み込むのであれば、あれは武器を体中に仕込んだ『改造人間』だってことになるわよね。だとすれば、体の表面は硬くて傷をつけにくいはずだ。なら体内から壊すのが、有効かもしれない。確か1つだけアレを持ってきてたはず。彼らには距離をとってもらえば、巻き添えを喰らわせることもない。でも本当に効くのかどうかは…不明だ。もしかしたら失敗に終わるかもしれない。それでも、


「くっ…厄介だな、あの光線……!」
「キャプテン!!」
「無茶っすよ船長!まともに戦ったら…っ」
「だが、このまますんなりと逃がしてくれる相手ではねぇだろうよ」


キャプテン達を守れるのなら、傷つけられずに、失わないで済むのなら…迷っている時間は、ない。


「ベポくん!キャプテンの首根っこ掴んで、なるべく遠くまで下がって!」
「えっ?!う、うん!キャプテンごめんね!!」
「ッベポ……!」
「ペンくん、シャッちゃん、ジャンバールさんも下がって!」
「お前なにをするつもりだよ?!」


その質問に答える時間はない。余裕もない。ウエストポーチに忍ばせておいた、手榴弾を引っ張り出した。その様子が見えたんだろう。遠くからペンくんの「げっ?!」って声が聞こえて、自然と笑みが零れる。全く…そんな声出さなくたっていいでしょうに。ま、嫌な予感しかしない結果の声なんだろうけれどもさ。だからなるべく遠くまで下がって、って言ったじゃん。仲間を巻き込みたくないもん。
走るスピードを上げて、いまだバーソロミュー・くまによく似た改造人間と対峙していたユースタスの横を通り抜けた。あー…敵だし、忠告する必要もないとは思うけど私の引き起こした爆発で転がる死体を見るのは、ちょっとだけ罪悪感が芽生えそう。声だけかけておくか。


「死にたくなければ下がって、ユースタス!」
「は?!てめっ…おれを呼び捨てで―――」
「キッド下がれ!あの女、なにかするつもりだ!!」


あいつの仲間らしい仮面をかぶった男が、ユースタスの腕を引き後退していった。倒れていた仲間は他の奴らが引きずっていき、私の周りにはバーソロミュー・くまと数人の海兵だけが残っている状態。これだったら…逃げる隙を作れるかもしれない。
グッと地面を踏みしめ大きく跳躍し、そのタイミングと合わせるようにして口をカパッと開けた奴の口に手榴弾を叩きこんだ。吐き出されないように脳天にかかと落としを決めれば、カッと閃光が迸る。よっし、ひとまず成功だ…!!
爆発に巻き込まれないように後ろへと飛んだけれど、そう遠くまで逃げられるわけもない。爆風をモロに受け吹っ飛んだ私は、マングローブの樹に背中を思いっきり打ち付けた。ッあ〜〜…これは、さすがに効くかも……!


「リズ!!」
「あ、キャプテン達は無事だった…?」
「何ともねぇが、……自分を粗末にするような戦い方をするな、と何度言やぁ学習するんだお前は!」
「別に死ぬつもりないってば…あれ、改造人間ぽかったから」
「改造…?」


眉間にシワを寄せながらも、ちゃーんと手を差し伸ばしてくれるキャプテンはやっぱり優しい。遠慮なく手を掴んで立ち上がれば、ペンくん達が慌てて駆け寄ってくるのが見えた。
よしよし、結果は上々かな?ユースタス達のことはわからないけど。まぁ、知る必要もないかな。あの爆発に乗じて逃げた可能性の方が高いし。服についた土や埃を簡単に払い、黒い煙が上がっている一点を見つめた。


「止まった、かな?とりあえず」
「恐らくはな。だが、改造人間だとしたらいつ動き出すかわからねぇ…今のうちにずらかるぞ!」
「アイアイ、キャプテン」
「ベポ、こいつを担いでけ」
「へっ?!いや、自分で歩けっ…ぅわあ!」
「アイア〜イ。リズ、大人しくしてろよ?落としちゃうから」


だから自分で歩けるって!思いっきり背中を打ち付けはしたけど、動けない程じゃないんだって!!きっとそう反論した所でキャプテンは無視を決め込むだろうし、ベポくんもキャプテン命令をそのまま遂行するだろうし、ペンくんとシャッちゃんだって自業自得って言うだろうし…さっきハートに入ったばかりのジャンバールさんを見上げたけれど、さすがに困惑させてしまいそう。やめとこ。
これは船に着くまで大人しくしていろ、って天からのお達しってやつだ。ぼふん、とベポくんの肩口に顔を埋めて、海軍の動向を探ろうと耳を澄ましていると色んな所から爆発音や悲鳴が聞こえてきた。これは…海軍大将がご到着したと考えた方が良さそう。それからバーソロミュー・くまにそっくりの改造人間も、1人や2人ってわけでもなさそうだ。

誰かが『パシフィスタ』と呼んでいた…これを造った人はずいぶんといいご趣味をしていらっしゃる。人間兵器に平和主義者と名付けるなんて。

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