HeARTを刻む
side:ペンギン
リズ―――というのは、ウチのクルーの1人。ちっこいナリをしている割には身体能力が高く、船長直々に育てたのと元々の才能も相まって戦闘能力もバッチリだ。まぁ、俺達は海賊だし女だから、とか甘いことは言っていられない。せめて自分の身は自分で守れ、が船長の言い分だったりする。リズはそれを軽くクリアしてんだから、すごいよなぁとしか言いようがない。
アイツ、ウチの一番槍だかんな?誰よりも先に敵陣に突っ込んでって、まー見事に暴れ回ってくれんだ。ポカーンとしてたらリズ1人で全員倒しちまいそうなくらいに。船長は楽しそうにくつくつ笑ってそれを見てるけど、おれァたまにこれでいいのかリズ…となる。いや、だって日に日にたくましくなってくれんのはいいけどさ、それと比例するように女らしさをどこかに置いていくんだよ。アイツ。
うん、いいんだ、海賊だからいいんだけど………女らしさ皆無になると、せっかくの女成分がゼロになるじゃん。男所帯にはこれ、死活問題だと思わねぇ?
(…とは言ったものの、おれ達クルーにとってリズは妹分なんだけど)
初期メンバーの1人ではあるものの、ちっこいナリと人懐っこさから後から入ってきたクルーにも妹っぽい!って言われてるんだ。本人も気にしてねぇし、そこまで上下関係に厳しいわけでもねぇから別に大丈夫なんだけどな。唯一、リズを特別視してるつったら、…船長ってことになるんだろうか。
アイツを見つけたのも、拾ってきたのも、船に乗せるって決めたのも、全部船長だ。決断したのはリズでもあるけど、でも半ば無理矢理みてぇなとこもあるし…きっとあの人なりにリズに共感っつーか、思う所があったんだろう。詳しくは聞いちゃいねぇけど。聞いても教えてくれるとも思わねぇし。
つらつらとそんなことを考えながら大量の洗濯物を抱えて歩いていると、甲板で何やら熱弁しているリズと、聞いてんのか聞いてないのかわかんねぇ船長の姿を目撃(with枕にされてるベポ)。
「…なにしてんだ?リズ、船長」
喧嘩してたらマズイな、と近寄って声をかけてみたものの、そういう雰囲気ではなさそうだ。そして船長の枕にされてるベポは爆睡中だったのかよ。羨ましいなこの野郎。
「あっペンくん!」
「よう、ペンギン」
「んで、リズはなに熱弁してんだ?てか、暇なら洗濯物干すの手伝ってくれ」
「ん〜?そろそろ刺青彫ってーって頼んでた。干すの手伝う」
…刺青?彫るの?リズが?
「彫るのは構わねぇが、おれは彫り師じゃねぇぞ」
「でもキャプテンできるでしょ?」
「できるが、……デザインは」
「ハートの海賊団のシンボルと、ハート!」
こんなの!とリズがポケットから取り出した紙には、確かにウチのシンボルマークとハートのデザインが描かれていた。でもそれぞれ独立したデザインになってっけど、…2か所も彫るのか?
船長も同じことを思ったらしく、受け取った紙を凝視しながら「…2か所?」と眉間にシワを寄せている。ああ、まぁそんな反応にもなりますよね。俺もそうだったし。
「てか、何で急に刺青?」
「急でもないよ。ずっと彫りたいな〜とは思ってたし」
「へぇ…意外。リズはそういうの興味ないと思ってたけど」
「ペンギンに同意だな。準備しといてやるから、終わったら医務室に来い」
「アイアイ!」
くあ、と欠伸を漏らした船長は本を閉じ、医務室へと歩いていく。爆睡してるベポはそのままに。まぁ、まだ昼間だし、何より毛皮をまとったシロクマだし…このまま寝かせておいても風邪をひいたりはしないだろう。
多分、船長もそう判断して起こさなかったんだろうし。…もしくはぐっすり眠ってて起こすのは忍びない、と思ったかだな。ウチの船長はベポとリズに甘いから。完全なる無意識だけど。
「ペンくん、洗濯物干しに行こう」
「あ、おう」
満足気な笑みを浮かべたリズがぴょんっと立ち上がった。そのままたたっと駆け出す様は、うん、マジでガキみたいだなぁ…つーかアイツ、どれだけ嬉しいんだよ。花が飛んでるように見えるぞ。刺青彫ってもらえるのが嬉しいのか、船長に構ってもらえるのが嬉しいのか…それともリズのことだから両方か?
アイツビックリするほどの船長大好きっ子だしなぁ。この船に乗ってる連中は全員、船長のことが好きではあるけどさ?リズはその中でも飛びぬけてる方だと思う、多分ベポ以上だなあれは。まぁ、船長も満更でもねぇみたいだし見てて和むけど。船長に対するリズの態度が忠犬みたいで。
(ああでも、船長程じゃねぇけど、おれ達のことも好きだよなーこいつは)
最初こそ警戒心丸出しで、手負いの獣みたいな態度だったのに。おまけに無表情にも程がある!って言いたくなるくらい、感情を表に出さなかった。出さなかったというか、出し方を知らなかったんだろう。出会った頃のリズは。
それが気がつけばよく笑うようになったし、警戒心も鳴りを潜め、今のハートの海賊団至上主義のリズができあがったのだが。
おれ達以外に興味を示さないのは如何なものか、と思うこともあれど、そういう所が可愛いんだよなぁと受け入れちまうんだから人間って不思議なもんだ。
「リズーいいのか?」
「なにがー?」
「刺青だよ、刺青。一度彫ったら二度と消えない傷なんだぞ?あれ」
「そうだね。ちゃんとわかってるよ」
「年頃の娘がそれでいいのかって話」
言った所でリズが考えを改めるとは思えないけど、何となく話しておきたかった。そして知りたかったのかもしれない、刺青を彫ってほしいと願った彼女の真意を。
「一生消えない傷が『ハート』なら、最高じゃん」
ニッと笑ったリズは、まぁ男前な考えをしてること。ほんっと愛しちゃってるよなぁ、ハートを。一途すぎるその想いに、思わず吹き出してしまったのは許してほしい。可愛い妹分だよ、本当に。
吹き出したおれに気がついたらしいリズは膨れっ面をしてこっちを睨んでるけど、残念、ちっとも怖くねぇんだな〜これが。戦闘中の目はゾクッとするくらい鋭いのに。状況が違うし、コイツの場合は俺達クルーに殺気を向けることは一生ないだろうとは思っちゃいるけどな。
「なによ〜どうせガキっぽいとか思ったんでしょ」
「ははっ思ってないけど、…ただ相変わらずハートが好きなんだなと思ってさ」
「当たり前じゃんか。嫌いになることなんて死んでもない」
「それはまた熱烈なこって」
俺の言葉に満足したらしいリズは、ちゃっちゃと洗濯物を干して嬉しそうに医務室へ走っていった。そして数時間後、さっきよりも嬉しそうに「彫ってもらった!」って見せてくれたのはいいんだが…彫ってあった場所が右腕と背中だったもんだから、食堂で休憩してた奴ら全員がお茶やら何やらを吹き出しました。
リズと一緒に食堂に来た船長は、珍しくデカい声で「ちったぁ恥じらえバカ女!!」と叫んで、鉄槌を下してたよ。これは完全にリズが悪い。
「…そういえば、リズが刺青彫りたい理由って船長聞きました?」
「―――消したかったんだと」
「え?」
「アイツの体には、消してェ過去が刻まれてたからな」
「ああ…」
船長の言葉はどこか抽象的だったけど、すぐにわかった。アイツが消したいと願った『過去』が、何を意味しているのか。
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