貴方への愛情は底なしです。
今日も今日とて、ノースブルーを楽しく航海中です。そろそろキャプテンも賞金首になったりするのかなぁ、大分暴れたし、そこそこハートの海賊団の名前も知れ渡ってきた気がするんですよね。うん。
有名になることは悪いことばかりじゃない。そりゃ戦闘増えるし、島に滞在するのも簡単じゃなくなるし、何より顔が知れることで厄介なチンピラに難癖付けられたり絡まれることだって増える。それは正直面倒だし、ふっざけんなよって思う部分の方が多いんだけど―――でも、キャプテンが戦ってる姿を見れるからなぁ。どれだけ面倒でもまぁいいや、ってなるんだよね。
キャプテンが楽しそうなのが一番なのですよ、私からしてみると。
「…キャプテンに惚れた理由?」
「そう。お前、船に乗ったばかりの頃って露骨に避けてただろ?」
うん、まぁ…キャプテンに限らず、ベポくんもペンくんもシャッちゃんも避けてたけど。だって懐く理由もなかったし。
「けど、気がついたらキャプテンにもおれ達にも懐いてくれてるし…きっかけは何だったんかなーってペンギンと話してたんだよ」
「理由、…理由ねぇ」
淹れたばかりのココアをズズーッと飲みながら、何だったけかなぁと記憶の糸を手繰り寄せる。手繰り寄せる、なんて言ったけど、キャプテン達との出会いは今までで一番衝撃的で、尚且つ刺激的だったので一度も忘れたことなんてない。あの人についていこう、と思ったきっかけだって、まるで昨日のように思い出せる。
思い出せるけれども、いくら大好きなペンくんとシャッちゃんとはいえ話しちゃうのはもったいないなぁと思ってしまうのは、ちょっとした嫉妬みたいなものなんだろうか。キャプテンとの思い出を独り占めしていたいというか、何というか…。忘れちゃったって言って誤魔化してもいいんだけど、自他共に認めるキャプテン大好きな私ですので多分、それは通用しないんだろう。
シャッちゃんだけならまだイケたかもしれないけど、ペンくんもとなると…うん、誤魔化しきれない気がする。決してシャッちゃんを単純な子、と思っているわけでもないのだけれど。こういう駆け引きに似たようなことは、ちょーっと苦手なタイプなんだよね。シャッちゃんって。
「まだ私達5人だった頃ってさ、お宝目当てで海賊船襲ったりしてたじゃん」
「してたな」
「その時に怪我、したことがあって」
「……あー、船長に拳骨食らってたやつか?」
ペンくんの言葉に愛の拳です、と返しながら頷く。そんな私達を見てシャッちゃんも、あの時か!ってポンッと手を打った。そう、あの時です。
あれはめっちゃビックリした…殴られたことよりも、キャプテンが怒ったことにビックリしたんだよね。いやうん、殴られたこともビックリしたことはしたけども。それ以上にこの人も怒るんだ、って的外れなことを思った記憶もありますよ。
ええっと、話が逸れた。…そうそう、殴られた後に医務室へ強制連行されて手当てしてもらって―――怪我を隠すな、とほっぺた引っ張られたのよね。
「別に私は隠してるつもりなんてなくって…何て言うのかな、それが当たり前というか」
「リズはいまだにその悪いクセ、直らねぇもんなぁ。怪我する頻度も減ってるからまだいいけど」
「それで?ただそれだけじゃないんだろ?船長に懐いた理由」
「…『バケモノじゃなく人間だろ』」
あの時、捻くれた言葉を発した私にキャプテンは呆れながら、溜息を吐きながらそう言ったんだ。赤い血が流れてんだろって。何が違うんだって。
その時はキャプテンのことよく思ってなかったし、強引でとことん俺様主義な人だと思い込んでたから、こんなこと言われるなんてこれっぽっちも思ってなかったの。だから余計にビックリして、でも何か妙にくすぐったくって、温かくて、よくわからないままボロボロ泣いた。今思うと嬉しかったんだろうなぁ、あれ。
泣き始めたことにさすがのキャプテンもギョッとしてたけど、私が泣き止むまで隣にいてくれたし温かい飲み物も用意してくれたのです。多分、あれがきっかけ。人間扱いしてくれたのも、怪我を手当てしてくれたのも、心配をしてくれたのも…何もかもキャプテンが、そしてハートの海賊団のクルーが初めてだったから。
「成程ね。そういう理由か」
「他人からすればそれだけ?!って感じかもしれないけど、私にとっては大きかったなーアレ」
「そういうものだろ。所詮、他人は他人だからな」
「リズにとっては大事なことなんだし、お前が良ければいいんだよそれで」
「にししっうん!」
大事なのは私がどう思ったか、感じたか。それだけだって2人は教えてくれた。それが他人にとってどれだけくだらなくても、当人が大事に思ったりしていればそれでいいんだって。人っていうのはそういうものなんだって。私にとってはそれも新鮮な感覚だけどね。
キャプテンに拾われてから、たくさんの『はじめて』をもらってるし、知っていっている気がする。それを楽しいと感じるようになれたのも、キャプテン達のおかげなんだよねぇ。
「そーいや、リズのキャプテンに対するソレってどっちなわけ?」
「どっち、って?」
「親愛か恋情かってことだ」
親愛と恋情………
「キャプテンとキスとかセックスとかしたいのかってこと?」
「ぶっふぉ!」
「うわっシャッちゃん汚い!ペンくん何か拭くもの…って、ペンくんもコーヒー零してる!!」
「え?あ、うわっ!!」
食堂の一角が大惨事です。とりあえず、テーブルを綺麗にしないとキャプテンに怒られるし呆れられる…!
キッチンから濡らしたふきんと、濡らしてないふきんを持ってきて掃除開始。もー…何で急にコーヒー吹き出したり零したりするのかな、この人達は。ブツブツ文句を言いながら拭いてたら、2人揃って「お前のせいだよ!!」って怒るんですけど。ええ?私、何もしてないって…そういうの責任転嫁って言うんじゃないの?
「お前なぁ…ほんっとに恥じらいどこに捨ててきた?!」
「捨ててきたっていうか…ないんじゃねぇの、リズの奴」
「それはそれで大問題なんじゃねぇ?!」
「この前の刺青事件がいい例だろ」
「あー…船長が久しぶりに拳骨落としてたやつ。じゃあもう無理か」
「ねぇ。ペンくんもシャッちゃんも、とんでもなく失礼なこと言ってるって気がついてる?」
ガルル、と威嚇してみても2人はどこ吹く風。恥じらいが少しでも残ってたら、男しかいねぇ空間で下着になったりしねぇし、セックスとか簡単に口にしねぇよって言われました。
あれ、私ってまだ一般常識足りてない感じ?これでもキャプテン達に色々と教えてもらったし、本からも吸収したはずなんだけどなぁ。
「まぁ、それは今は置いておくか…で?シてぇの?そういうこと」
「ん〜…それってさ、キャプテンも私が好きなこと前提ですることだよね?」
「大体はな。中には例外もあるけど」
「シたい・シたくない以前に、有り得ないじゃん。それ」
ペンくんとシャッちゃんは不思議顔。2人して同じ方向に首を傾げていて、ちょっと面白い光景だ。さてどう説明したものか、と考えを巡らせながら、コーヒーの餌食にならなかったクッキーへ手を伸ばす。
「キャプテンってさ、特定の相手作りたがらないタイプだもん」
歪な形のクッキーを一齧り。考え抜いて出てきた言葉は、案外単純なもので。でも私にはその言葉がストン、と落ちてきて…ああ、そうだキャプテンはそういう人だから、と再度、納得できるものでもあったのだ。
ペンくん達は特に反論してくるわけでも、意見を言うわけでもなく、淹れ直したコーヒーを啜りながらじっとこっちを見つめている。それはまるで、私の真意を読み取ろうとしているかのような、そんな感じもした。敢えて視線を外し、全てを振り切るかのように目を閉じて―――再び目を開ける。
「だからさ、天地がひっくり返ってもそれは有り得ないし、あってはイケナイことだ」
「リズが思いこんでるだけじゃなくて、か?」
「海賊団の船長ともあろう人がさ、1人の人間に熱を上げるわけないもの」
そういうタイプの人だから、どう転んだって間違いは起こらない。そもそも私がキャプテンに抱いているコレは、所謂恋情っていうものと違うと思うし……でも、あの人の一番になれたらそれはきっと―――とてもとても幸せなんだろう、とは思うけどね。
キャプテンが私に求めるのは、『戦闘力』だけだ。それはあいつらと大差ないのかもしれないけど、でもキャプテンは私に名前をくれたから。名前を呼んでくれるし、対等に接してくれるし、求めるものとは裏腹に人間扱いをしてくれて、優しくしてくれるから…だから私は、それだけで十分なんです。
(…なー、ペンギン。あれどっちだと思う?)
(間違いなく恋情だろ。でもリズは気がついてねぇだろうし…)
(うん?)
(気がついたとしても、前途多難だろうーなぁ。あの捻くれ具合)
(ペンギン、シャチ……お前ら、なに項垂れてやがる)
(船長…道は険しいですがファイトっすよ!おれ達、応援してますから!!)
(はぁ?)
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