予想の斜め上をいく
波に攫われて麦わらの船に拾われたり、戦争に突っ込んでいったり、麦わらに艦内で暴れられたり…何かもう色々起こりすぎて疲労度が半端ないです。ようやく落ち着いた感じがするなぁ。
「え?まだ新世界には入らないの?」
「ああ、船長がそう言ってた。時期を待つんだってさ」
へぇ…そんなこと言ってたんだ。私、全く聞いた覚えがないんだけど…何でだろう。リンゴの皮を剥きながら首を傾げていると、シャッちゃんが「お前、その時はベポの腹の上で寝てたぞ」って教えてくれた。呆れた表情を浮かべて。
あれ?そうだったっけ。ベポくんとお昼寝するのは、割と日常茶飯事だからいちいち覚えてないや。でもそれって結構重要な話だよね?キャプテンも起こしてくれればいいのに…どうしてそのまま話を進めちゃうのかなぁ。
「重要っちゃ重要だけど、気になった奴らが船長に聞いただけだし…全員を集めて話したわけじゃねェからな」
「あ、そなの?でもその後、誰も私に教えてくれなかったのは何故だ。解せぬ」
「それはアレだよ。おれが伝えるの忘れてただけ」
あ、そーなんだ。それじゃ仕方ないよねぇ―――なんて言うと思ったか、このバカシャッちゃん!!!しれっとした顔でリンゴをつまみ食いした彼の頭を、スッパーンッと思いっきり引っ叩いてやった。いってぇ!!って叫ばれたけど、私は悪くないもん。伝え忘れたシャッちゃんが悪いんだよ、全く!
別にさー、私は航海士でもないですし?進路を決める立場でもないから、知らなくてもさして問題は発生しないけれども!!爆睡していた私が悪いのもわかってるけれども!それでもやっぱり、教えてもらえないのは仲間外れにされているみたいで嫌なんだよ。子供っぽいって?いくらでも言うがいいさ!淋しい思いするより、ずぅーっとマシだ。
「別にいいけどさ!」
「いいって顔じゃねーぞ、リズ。…てか、さっきから何で大量のリンゴ切ってるんだ?」
「んー?アップルパイを作ろうと思って」
ひとまず必要な分のリンゴは切り終わったかな。これで下準備は終わり、っと。
ポケットに入れておいた紙を引っ張り出して広げると、シャッちゃんが興味深そうに覗き込んできた。そんなに気になるのかい、ただ作り方が書いてあるだけなんだけどなぁ。別に見られて困るものでもないけどさ。
そんなに興味津々ならどうぞ、と紙を差し出せば、シャッちゃんは楽し気な表情を浮かべて文字を追っている。…うん、何がそんなに楽しいの?君。
「これ、リズの字じゃねェよな?」
「え?ああ、うん。麦わらの船に拾われた、って言ったでしょ?そこのコックくんにね、教えてもらったの」
「へー…」
シャッちゃんの眉間にグッとシワが寄る。サングラスで隠れている瞳は、今どんな色を宿しているのかわからないけれど…でもシワが寄ったってことは、少なくとも機嫌が悪くなりつつあるってことだよね。理由は知らんけど。予想もつかないけど。
というか、今までの会話でシャッちゃんが機嫌悪くなるようなことなかったと思うんだけど…人の気持ちってよくわからないなぁ。首を傾げながらもアップルパイは作ってしまいたいので、彼の手からレシピの紙を掻っ攫った。はい、没収ー。
「出来上がったら味見してね」
「それは喜んでやるけどさー…」
「なぁに?いやに不機嫌だね、シャッちゃん」
「不機嫌っつーか……いや、なんでもね」
帽子を深くかぶり直し、そのままそっぽを向いてしまった。だから彼がどんな顔をしていたのかは、私にはわからずじまい。
よくわからないなぁ、と再び首を傾げて、私はアップルパイ作りを再開するのであった。
「でーきたー!ので、キャプテンもどうぞ!!」
「…いきなりドアをぶち破りやがって、なんだお前は」
「だから出来たんだってば」
「なにがだ。まず、主語をつけろ…話が全く見えねぇ」
アップルパイ作りを再開して1時間後。何とか出来上がったし、シャッちゃんとベポくんから美味しい!とお墨付きをもらい、2人分を手にキャプテンの部屋へ突撃しました。そしてさっきの会話へ戻る、と。
キャプテンは主語がねぇ、と睨んできたけれど、私、アップルパイが出来たって………あ、言ってないかも。聞き逃しただけじゃない?って一瞬思ったけど、思い返してみれば「出来た!」しか言ってないね、うん。あはは、そりゃキャプテンも眉間にシワ寄せるよねーごめん、ごめん。
「リンゴがたくさんあったので、アップルパイを作ったのです」
「アップルパイ?クッキー以外のものも作れたのか」
「みたい」
「…みたい…?」
「初めて作ったんだもん。けど、味は悪くないよ。味見してもらってるから」
はい、とお皿を差し出した。デスクに置くことも考えたけど、実験はしていないものの医学書っぽい本がたくさん積まれてるから、さすがに躊躇うよね。だって本の上に置いたりしたら、絶対怒るもん。キャプテン。
好き勝手生きている自覚はあるけど、この人に怒られたり嫌われるような行動はあんまりしたくないから。やむを得ない事情がある時は、躊躇いもせずに行動するけどね!そして反省も、…しなくもない、うん。
「仕方ねぇから、もらってやるよ」
「うん、召し上がれー私もここで食べていっていい?」
「聞きながらベッドに腰掛けてんじゃねぇよ。おれに拒否権なしか」
「にししっキャプテンはきっと断らないと知っている!」
「ンなわけねェだろ」
―――とか何とか言いながら、食べ終わったら出て行けよ。だって。ほら、断らないでしょ?冷たく見えるかもしれないけれど、この人はクルーに優しいんだよ。本当に。割と甘やかしてくれるんだから。
笑みを濃くして、まだ温かいアップルパイに噛り付く。んん、2人の言っていた通りだ。美味しく出来てるね、ちょっと香ばしすぎる所もあるけど。これは初めて作ったにしては、なかなかなんじゃないか?
「ワモンに習ったのか?」
「んーん、麦わらんとこのコックくんにレシピ教えてもらった」
「麦わら屋の…?」
「そう」
コクリ、と頷けば、1時間前のシャッちゃんのようにキャプテンの眉間にも深いシワが刻まれた。え、何故に不機嫌になるんですか!まさかの美味しくなかったとか?!シャッちゃんとベポくんは気に入ってくれたし、私も美味しいって思ったけどキャプテンの口には合わなかった?!!
え〜…マジか、ちょっとショック…。もっと精進しなくちゃダメか、と溜息をついていたら、カチャカチャとお皿とフォークがぶつかる音が聞こえてきた。あれ?口に合わなかったのに、そのまま食べ続けてる?!この人!!
「えっちょ!キャプテン、無理して食べなくていいってば!!」
「無理はしてねぇ。このくらいなら食える」
「いやいやいや!さっき眉間にシワ寄せてたでしょーよ」
「あ?」
そんな睨まれても…私、嘘は言ってねーですよ?キャプテン。本当に眉間にシワ寄せてたから。もしかしなくても無意識だったのか?もう、時々ワケがわからないなぁこの人。今は黙々とアップルパイを食べていらっしゃるし。
えー…食べられるなら、さっき眉間にシワを寄せた理由は何ですか。そこまでしっかり察せられる程、私は察しがいいわけではないんだけど。いや、理由を聞けばいいんだろうけどスパッと躱しちゃう人だから、聞いても答えてくれない気がしている。
もう理由は聞かずに、問答無用でお皿を取り上げるべきだろうか。そんなことを悶々と考えているうちに、キャプテンは食べ終わってしまっていた。静かな部屋にカチャン、とフォークが置かれる音が響く。
「美味かったは美味かったが、今度から作り方を聞くのは四班の奴らにしろ」
「へ?」
「わざわざ敵船のクルーに聞くんじゃねぇ。ウチのクルーにしろ、って言ってんだ」
不用意に慣れ合うな。
ギロリ、と私を睨んだかと思えば、そのままデスクの上に積み上げられた医学書に手を伸ばした。
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