そういうお前がきらいだ
『最悪の世代の1人、トラファルガー・ロー七武海入り!』そんな見出しを見たのは、どれくらい前のことだっただろうか。一時はどこもかしこも騒がしかったものの、気がつけばそれは終息し再び静かな航海へと戻っていた。いや、静かではないんだけれど。艦内は今まで通り、仲間の声が響き渡ってるからね。
まぁ、それは置いておくとして―――キャプテンの願い通りに七武海入りが決まり、定期的に行われている会議に参加しているんだけど…やっぱりどこかあの人の様子がおかしい気がする。何がとか、どこがとか、詳しいことはわからない。観察眼には自信がある方だけれど、キャプテンの気持ちが汲み取れないのはそう珍しいことではないのです。
ポーカーフェイスにも程がありすぎるでしょ、本当。わかりやすい時はわかりやすいんだけどなぁ…少しでも隠そうって気持ちが芽生えてしまうと、徹底的に隠し通しちゃうタイプなんだ。今回もそれなんだろうか。それとも不安すぎてそう思い込んじゃってるだけとか?いやでもなぁ…突然すぎる七武海入り宣言を考えると、どうしたって不安は拭いきれないんだよ。
こっちが心配しようがしまいが、我らがキャプテンはいつだってマイペースに自分の道を進むだけなんだけどさ。
「何か―――知りたいことが、あるのかな」
七武海になれば、今までより自由に動きやすくなる。海軍に追われることはないし、対象を他の海賊のみに絞れるのはまぁある程度楽にはなると思うんだよね。
調べ物をする為にそこら中を回ったり、探りを入れることを考えると確かに七武海という肩書はあった方がいいのかもしれないと思う。でも、私のこの推測が当たっているとしたら…ちょっと不機嫌になりますけど。
「というわけでキャプテン、単刀直入に聞きます!」
「いい加減、ノックすることを覚えろ。…なんだ」
「キャプテンさ、―――何をしようとしてるの?」
僅かな反応ですら見逃してなるものか。その一心でじっとキャプテンの瞳を見つめたまま、質問を投げかけた。こうしておけば何か、気づくことができるかもしれないって思ったから。だけどその反面、この人はそんなヘマはしないだろうなって思ってもいて。
上手くはぐらかされてしまう可能性の方が、断然高い。だからあまり期待はしていなかったのだけれど…キャプテンの瞳がほんの少しだけ揺れ、息を飲んだ。ああ、これは私の推測が当たっている感じだなぁ。
「…お前の、そういう所がおれは嫌いだ」
「うーわ、それは傷つく。私は大好きだよ、キャプテン」
「言ってろ」
手に持ったままだった数枚の紙をデスクに放り投げ、足を組んだままキャプテンはその口を閉ざした。何かを考え込むかのように。これはもしかして話をしてくれる流れかな?
まぁ、ポーカーフェイスが崩れちゃったし取り繕うことも、誤魔化すこともできないと踏んだのかもね。誤魔化した所で私が素直に引き下がらないことくらい、この人はわかっているはずだ。だから多分、どういう風に話すか…そしてどこまで話すべきか、それを今考えている最中だといった所か。
できることなら共犯にしてもらって、キャプテンの役に立ちたい。そう思っているけれど、でもきっとそれは難しいことだから話をしてくれるだけで大儲けかなぁ。
「―――おれは、…何としてでもやり遂げなきゃいけないことがある」
「うん」
「その為に集めたい情報がいくつもある。七武海に入ると決めたのは、その目的を果たす為の手段のひとつ」
「そっか」
「面倒ではあるが、七武海として信頼をある程度は得ないと意味がねぇ…しばらくはこの状態を保つつもりでいる」
言葉をひとつひとつ選ぶように、キャプテンは紡いでいく。言葉も、呼吸も、何ひとつ逃さぬように私は聞き耳を立てていた。
同時に不安も募っていく。まだ話は途中のはずだけれど、叫びたくて仕方がない。行かないで、置いていかないでって。どうしても行くというのなら、私も連れてってほしいって。その衝動を拳を握ることで抑え、話の続きに耳を傾けるしかできなかった。
「お前に、頼みたいことがある。情報をいくつか集めてほしい」
「めっちゃ不本意って顔しないでくれないかな…」
「仕方がねェだろ。…こうなった以上、お前はどう誤魔化そうが引きはしねェのを知っているからな」
「命令してよ。使ってよ。私は―――貴方の駒だよ」
利用して。貴方がやり遂げたいと、やり遂げると決めたソレを達成する為に私を利用してよ。腹が立ったのか、それとも興奮しているのかはわからないけれど、気がつけば私はキャプテンの胸倉を引っ掴んでそう口にしていた。
言いたいことを言って冷静になってきたのか、ようやくビックリした顔をしているキャプテンが視界に入る。眉間にシワはないし、怒っている様子は全然ないけれどサーッと血の気が引いていくのを感じました。
やっべ、これ我に返ったら絶対怒られるやつだ…!慌てて手を離そうとした瞬間、額に衝撃が走った。
「キャ、キャプテン…?」
「…リズ、おれがいつ、お前のことを駒だと言った。あ?」
どうやら私はデコピンを食らわされたらしい。そしてキャプテンは胸倉引っ掴んだことより、私の発言に対してお怒りのご様子です…はい、すいません。
「おれは今までも、これからもクルーをそう思ったことはねェ」
「アイアイ…」
「理解したなら、今度こそ肝に銘じておけ。二度と、口にするな。忘れるな。…いいな?リズ」
それは約束のようでそうでない、まるで命令のようだと思った。でもキャプテンの顔が、痛そうに、悲しそうに歪んでいたから…素直に頷くしかできない。もちろん、反抗する気なんて微塵もないんだけれども。
それはそれとして、話を元に戻そう。話を逸らしたのは私だと思うけど、今は無視だ無視!ベッドに腰を下ろし、改めて問いかけた。何の情報を知りたいのか、集めたいのか。
「私は、誰を探ればいい?」
「ドンキホーテ・ドフラミンゴ…お前も名前くらいは知ってるだろ」
「知ってるけど…そいつを探ればいいの?」
「違う。ドフラミンゴは四皇・カイドウと取引をしていると小耳に挟んだ。その取引に関すること、全てを探って情報を集めてこい」
「わーお、ざっくり」
でも七武海と四皇の取引か…恐らくっていうか、確実にろくでもないものだよね。武器か、人間兵器か、はたまた奴隷か…武器ならまだ可愛げがあるかもね。とはいえ、私がしなければいけないことはこれで理解も把握もした感じだな。
できることならキャプテンの『成し遂げたい目的』の詳細を知りたかったけれど、これ以上聞くことは難しいし、問い質せるようなことでもない。元々、私達の誰にも話すつもりは一切なかったんだろう。私が偶然、彼の核心をついてしまったからその一部分を聞くことができただけ。そして頼ってくれたんだし、これ以上を望んでしまうのは罰が当たるかもね。
まぁ、それでもいいんだけどー…キャプテンに嫌われるのだけは、勘弁願いたい所だからね。好奇心はここまでにしておこう。
さて、時間はそこそこあるとはいえあんまりのんびりしない方がいいよね。なるべく早く、確実で信憑性の高い情報を集めてキャプテンに報告しなくちゃ。確かめたわけではないけれど、この人は近いうちに事を起こすつもりでいるんだと思う。七武海に入ったのは最初の一歩で、これから水面下で準備を進めていくんだろう。そこに私に集めてほしい、と言った取引の情報が必要になるってことなんだと思う。
今回の情報収集は長期戦になることを考えた方がいいかもな…ポーラータング号を全く離れずに、っていうのは無理な気がする。どこかの島を拠点にして、商船とかを利用していくつかの島を巡っていくのが一番良さそうか。
「ねぇ、キャプテン」
「なんだ」
「私、帰ってくるから。絶対、絶対帰ってくるから」
貴方へのお土産をたくさん抱えて、必ず皆の待つこのポーラータング号に帰ってくるから、だから待っててね。
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