女、ひとり旅


船に揺られること3日間。ようやく目的地である島に到着した。ようやく、と言ったものの、寝る場所はあったし食事の心配もしなくて良かったので、それはもう快適。うん、何度思い返してもラッキーだったなー…本当。
船長さんにお礼を述べ、私は船を降りました。さーて、どれくらいこの島に滞在するかはわからないけれど、まずは宿の確保かな。あとは小銭稼ぎをしたい所だけれど、どこか短期で雇ってくれるお店はないだろうか。贅沢を言える立場じゃないけど、できれば酒場とかたくさんの人が訪れる所がいい。そういうお店の方が情報を集めるのに、ずいぶんと楽だから。ああいう場所は昔から情報交換の場として使われていることが多いからね。聞き耳たてるだけでも、割と有益な情報が集まるんだよね。
こういう知識は、キャプテンに情報収集の仕事を任されるようになってから覚えたものだ。どうしたらいいかわからないでいた私に、どういう場所にいったらいいのかヒントを教えてくれたのはキャプテンだったけどね。でもそこからは回数を重ねていく毎に自然と身についていったのだ。

「よう、姉ちゃんひとりか?」

でもまぁ、何度そういうことを経験しても―――変な奴に絡まれないことって、少なかったりする。やっぱり酒場に女ひとりって目立つんだな…皆と一緒だと声かけられることなんてほとんどないし、やっぱりこういう輩は人を選んでるんだろうって改めて思う。
面倒だなーでも無視し続けて暴れられるのはもっと面倒だなー。一発お見舞いしてやりたい所だけれど、…チラッと声をかけてきた男の背後に視線を向ける。そこには男と同じようにジョッキ片手にニヤニヤと、うっとうしい笑みを浮かべた奴らが3人いた。ああ、こいつのお仲間か。見た感じではそこまで腕っぷしは強くなさそうだけれど、そうやって油断してると痛い目に遭うんだよなぁ。それは勘弁願いたいものだ、怪我したくないもん。できるだけ。
うん、それはひとまず置いておくとして…どうしよっかなぁ。グラスを傾けながら、再び隣の席に勝手に座りベラベラと喋り続けている男に視線を戻してみる。と、むき出しにされた右腕に刺青が2種類彫られていることに気がついた。この刺青…1つはドフラミンゴの海賊旗のマークに似てる気がする。

「…ねぇ」
「あん?何だ、ようやくおれ様の魅力に気がついたか?!」
「んー…貴方って、天夜叉さんの傘下だったりする?」
「おうともよ!もうすぐ大仕事も任せてもらえる予定だ」

大仕事?ふぅん…なかなか面白そうな話をしてくれそうだな、この男。他のお客さんと和やかに喋っていた主人に麦酒を追加注文し、それを男の前にそっと置いてやる。そしてにっこりと笑ってやれば、そいつは更に笑みを深くした。
ん、よしよし!上手く勘違いしてくれたらしい。あとは話を聞き出すだけ…ドフラミンゴに繋がる話だといいんだけどな〜欲を言えば、私が欲しい情報だと尚嬉しかったりする。さすがに色仕掛けしたくないし、私はそういうの不得手だからしないけど―――機嫌良く喋ってもらう努力はしよう。うん。

「ここだけの話だけどよ、『ジョーカー』って呼ばれる闇のブローカーがいんだよ」
「『ジョーカー』…?」
「そのジョーカーがちょーっと面白ェもん作っててさぁ…」

男曰く、『ジョーカー』と呼ばれるその人は今、四皇の1人であるカイドウととある取引をしているらしい。それは人造悪魔の実の『SMILE』。これを大量に作り、カイドウに流しているらしいです。
これはこれは…バッチリビンゴじゃないか。島を移動してすぐ、大当たりを引けるとは思ってなかったなぁ。けれど、男の話はこれだけでは終わらなかった。何でも『SMILE』を作る為に必要な薬、『SAD』というものを作っている人物が別にいるとか何とか。男は酔っ払い始めているのか、段々話が支離滅裂になってきてるんだけど。

ええっと…つまり、カイドウに渡している『SMILE』という人造悪魔の実には、とある誰かが作っているであろう『SAD』という薬が必要だってことよね?恐らく。

ふむふむ、これだけでもすごい情報だけれど―――きっとその薬が製造されている場所、そして『SMILE』が製造されている場所も聞き出しておいた方がいいわよね。どうやって聞き出そうか考えてたのに、それは必要なかったらしい。男はまたしても勝手に次々と情報を落としていってくれます。
いやー…私はラッキーし全然いいんだけど、この男大丈夫なのかね?絶対、殺されるでしょう。こんなにもベラベラ喋ってたら。私には関係のないことだけれど。
必要な情報だけは聞き逃さないようにしつつ、適当に相槌を返し、グラスを傾けているとテーブルの上にどこかの島のエターナルポースと、海図が置かれた。どうやら男の持ち物らしい。

「ヒック…これがよォパンクハザードに行く為に、絶対必要なモンなんだよ」
「このエターナルポース、違う島の名前が書いてあるわよ?」
「知らねーのかァ?パンクハザードにゃログがねぇ…近くの島から海図を頼りに進むしかねーのよ」
「ログのない島……」

ここに来る前に滞在していた島で、仲良くなったおじさんが聞いたことがあると言っていた噂…もしかして男の言う『パンクハザード』のことだったりするのかしら。グランドラインは不思議な場所だ、他にもたくさんログのない島は存在しているのかもしれないけれど…何故か私は、無関係だとは思えないし言い切れないと思ってしまった。私が考え込んでいる間に、酔っ払った男はテーブルに突っ伏して寝入ってしまったんだけど。
しまった、『SMILE』が何処で作られてるのか聞き出し損ねた…どうにかなるのかな、ならない気もするけどわざわざ起こすのも面倒だし、もう関わりたくはない。そっと後ろのテーブル席を見ると、男の仲間も酔っ払って寝こけているようです。私が入ってきた時にはそこそこいたお客さんも、すでにまばらになっていて店内は静かになり始めている。
ぐるっと見回した後、視線はテーブルの上に出しっぱなしにされたエターナルポースと海図へと戻った。本来なら何処か別の所で、そして自力で手に入れるべきものなんだろうが…早く仲間の元へ戻りたい私は、あまり回り道をしたくなかったらしい。ささっとそれらをリュックに突っ込み、店主にお会計をお願いすることにした。

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