ただいまは意外と早かった
ポーラータング号を降りて、もうすぐ3週間になる。ようやく有力な情報を得ることができた私は、何とか取れた宿屋のベッドで久しぶりにぐっすり眠ることができた。
気分もスッキリ、体も大分軽くなったなぁ。ちゃんと休んでいたつもりだったけど、眠りは浅かったのかも。あんまり自覚なかったし、動くのに支障もなかったから気がつかなかったよ。
「さってと、キャプテン達も待ち合わせの島に向かっているらしいし…私もそろそろそっちに向かう船を探さないとな」
合流する予定の島は、キャプテンが所有しているエターナルポースの1つだったりする。だから向こうは簡単に行けるのだけれど、私はどうにかしてその島へ行く船を探すか、船を乗り継いで辿り着くしかない。エターナルポースは1つしかないから、借りるわけにもいかなかったんだよね。
商人を見つけて買えばいいんだろうけれど、すでにある島のを買ってもどうにもならんからね…元々、それは選択肢の中にはないのですよ。ここまでトントン拍子にうまーく進んできてるけど、次もそうだとは限らないしなぁ。むしろ、今までの運が良すぎたんじゃないかって感じがするもんね。
宿屋のご主人曰く、この島にも商船はたくさん来ているらしいし、私が乗ってきたような連絡船もいくつかあるらしい。でも私が行きたい島までの連絡船があるかどうかまでは、さすがに記憶していないらしく申し訳なさそうに謝られてしまった。ご主人は何も悪くないんだけどね、こういうのも人間の性なんだろうか。
「すいませーん!連絡船が来る港ってここで合ってますか?」
「ん?ああ、合っとるよ。ほれ、あっちが連絡船の船着き場じゃ」
「あっちですね!ありがとうございまーす」
積み荷を降ろしているいるおじいさんに確認をして、わらわらと人が集まっている方向へと足を進めた。お、連絡船船着き場って書いてある。ここで待ってれば乗れるのは間違いなさそうだな…あとは行き先を確認したいんだけど、案内所みたいなのはー………あ、あれそうかな?船着き場から少し離れた場所に、案内所と書かれた看板を下げている建物を見つけた。
何の案内所かはわからないけれど、この港に関することなのは確かだろうし聞いてみる価値はあるよね。そう当たりをつけ、私は迷うことなく案内所の扉をくぐった。
「何かお困りですか?」
「あの、連絡船の行き先を知りたくて…」
「そうでしたか。この島から出ている連絡船は、ルートが5本あります。こちらが一覧ですね」
「意外と出てるんすね…」
「ご自分の船を持たれている方は少ないですし、航海術を持っている方も多くありません。遠出する時には連絡船が唯一の移動手段なのです」
成程。確かにそうだよな、船と航海術を持っている人なんて普通に暮らしていればそう多くはない。それに買い物とかも島に住んでいれば、そこの商店街で事足りるんだ。島から出ることって実はそんなにないんだと思う、それこそお姉さんの言う通り遠出する時以外は。
差し出してくれた一覧表に目を向け、合流予定の島の名前を探すけれど…あれ、もしかして載ってない?ここからじゃ行けないってことか…?!冷や汗ダラダラになっているのに気がついたのか、お姉さんはにっこり笑って「何処まで行かれるのですか?」と声をかけてくれた。しどろもどろになりながらも島の名前を告げると、すぐにそれでしたら、と別ルートの行き方を説明してくれた。
「直行便はないんですね…」
「そうなんです。この島からだと、乗り継ぎをするしか術がなくて…」
「じゃあお昼発の船に乗って、」
「はい。2時間で次の島に着きますので、そこで1泊して頂き―――明後日の朝出港予定の船に乗って頂く形となりますね」
「成程…わかりました、ありがとう。お姉さん」
「いえいえ。あ、一応メモをお渡ししておきますね」
何から何まで本当にありがとうお姉さん…!
乗り継ぎ方法や時間、おまけに値段まで書かれたメモをしっかりとリュックに仕舞い込み、ひとまず腹ごしらえをする為に立ち並ぶ屋台へと足を向けた。肉まんにサンドイッチに海獣肉スープ…色々とあるもんだなぁ。出港まで時間はあるし、サンドイッチと海獣肉スープを買って空いているベンチに腰を下ろした。キャプテン達に会えるまでもう少しかぁ…合流予定の島までどのくらいかかるんだろ。さっきのお姉さんに聞いても良かったんだけど、そこまで詳しくわかるものか疑問だもんなぁ。でもあの説明の感じだと、何週間もかかる感じではないのは確か。長くても1週間以内には辿り着けるだろう。
黙々と食事を続けていると、段々と人の数が増えてきていて首を傾げる。何事かと視線を巡らせてみると、連絡船の船着き場にさっきまではいなかった船があった。あ、あれってもしかして私が乗る予定の船か?!慌ててサンドイッチの最後の一口を放り込み、それをスープで流し込んだ。
「そこまで急いで食べる必要、なかったかも…」
少々苦しいお腹を擦りながら、欄干に背を預けたまま雲ひとつない空を眺める。そう、慌てて食べ終えて走って船に乗り込んだのに、まだ出航まで20分程余裕があったのだ。
つい今しがた、船は次の島へ向けて出港したばかり。つまり慌てて食べる必要も、走る必要も全然なかったってことです。出港時間は聞いていたけれど、その時間を確認する物を持ってなかったのが原因ってやつだよね…でも普段はそこまで必要性を感じないんだもん。こういう時くらいじゃないのかなぁ、必要だなって感じるのは。
まぁ、もう過ぎたことだしあれこれ考えても意味はないんだけどさ。
「もう少し、…もう少しだ」
早く会いたくて、抱きつきたくて、声が聞きたい。
抱きついたらきっとあの人は怒るんだろうけど、それでも無理に引き剥がそうとはしない。怒りながらもそのままでいてくれる、私の好きにさせてくれる。厳しいけど、とても優しい―――私の大好きな、唯一無二の人。
この想いを告げる日は一生来なくていい…ただ、この身が滅ぶその時まで傍にいたいだけ。傍にいて、役に立ちたいだけ。
- 70 -
prev|back|next
TOP