ひどい人だと罵ることができたら、
情報を集める為にこの船を離れていたのは、私が見ていた夢だったのではないかと思うくらいに平和な日々が続いている。
時折、ウチのキャプテンは七武海なのだと思い出させる海軍からの召集があるけれど。それでものんびりと航海をしているこの日々は、やっぱり平和と呼べるものなのだろう。一般人であればこの日々を喜ぶことができるんだろうが、私達は海賊だ。面倒な敵襲がないのは確かに喜ばしいんだけれど、でも体は鈍るんだよなぁ。
そりゃークルーと組み手したり、鍛練は欠かさずやってますけどねー?いざという時に腕が鈍って殺されちゃいましたとか、そんなの洒落になんないもん。
「リズー…って、どうしたの?渋い顔して」
「んー?いや、体が鈍るなぁって思ってさ」
「キャプテンが七武海になってからは、敵襲もぐっと減ったもんね」
「面倒事に巻き込まれないのはいいことなんだけどなぁ」
ベポくんがね、と同意を示し、くふくふと可愛い笑みを零している。あー…モフモフで可愛いなぁ、本当。
僅かにささくれ立った心が、ベポくんの登場のおかげで少しずつ凪いでいくような気がした。
「ところで私に何か用事?」
「あっそうだった!キャプテンが捜してたよ」
「キャプテンが?最近は何もしてないんだけどなぁ…」
「いたずらするのはやめてあげようよ……船長室に来いってさ」
「アイアイ。これから行ってくるよ」
いってらっしゃーい、と手を振ってくれる彼に、同じように手を振り返して艦内へ続く大きな扉を開けた。慣れ親しんだ廊下を通り抜け、船長室の扉をノックすればすぐに「入れ」と心地良い低音が聞こえる。
今日のキャプテンも変わらずカッコイイ、なーんて考えながら、そっと体を滑り込ませた。普通に入ればいいんだけど、あまりにも艦内が静かだったから何となく…ひっそりしなければいけない衝動に駆られたんだよね。案の定、迎え入れてくれたキャプテンは怪訝な顔。うん、言いたいことはわかってるからそのまま飲み込んでください。後生ですから。
「…適当に座れ、話がある」
「嫌な予感がバシバシするのは、私の気のせい?」
「さあ…どうだろうな」
迷うことなくベッドに腰を下ろし、そして遠慮なく眉間にシワを寄せた。くるりと椅子を回し、こっちを向いたキャプテンは私の顔を見て溜息をひとつ。
それほどにひっどい顔をしているんだろう、自覚はある。あるけど、それを直すつもりは更々ない。だって、…船長室に呼び出して話がある、なんて言われたら、そんなの嫌な予感しかしないじゃない。あの情報収集の旅や七武海参入のことがなければ、嫌な予感なんて感じなかったかもしれないけど。でもそうじゃないから。
それにキャプテンもハッキリと否定してくれなかったし、恐らく私の勘は外れていないのだろう。溜息をつきたいのは、私の方だ。キャプテンのバーカ。
このまま聞きたくない、と逃げ出したらキャプテンはどんな反応を返してくれるんだろう。驚く?怒る?…でもきっと、そんなことをしたってこの人が話そうとしていることが、私達にとっていい話ではないことに変わりはないんだろうな。諦めてくれるなんてこと、考え直してくれるなんてことはないんだってわかってるの。
だってあの日見たキャプテンの瞳は、揺ぎない覚悟の炎を宿していたから。
「私達を、置いていっちゃうんだね。キャプテン」
「ああ、…近々、おれは船を離れる。だが、それはハートの海賊団を解散させるわけじゃねぇ」
「…うん」
「計画を実行する為の準備をする、それだけの話だ」
キャプテンはそう言うけれど、置いていかれる事実に変わりはない。この人は計画を、野望を実現させる為―――たったひとりで進んでいくんだ。
その道に私達が邪魔、というわけではないのだろうけれど…元より、一緒に進むつもりはなかったんだろうね。巻き込みたくない、これは個人の勝手な事情だって思っているんだと思うんだけれど、そんな言い訳はいらない。いらないから、置いていかないでほしい。それが私の、私達クルーの意見なんだよキャプテン。
貴方ひとりを危険に晒すなんて、そんなことしたくないのに。させないでほしいのに、その意見がキャプテンに届くことは一生ないのだろう。もし届いたとしても、受け入れてはくれないのだろう。…ひどい人。
「―――リズ、顔を上げろ」
「思いっきり睨んでもいいなら」
「お前は、一緒に来い」
「……は?」
「ク、…マヌケ面だな。おれを睨むんじゃなかったのか?」
言った、けど、貴方思いっきり爆弾落としましたよね?!爆弾を落とされて、平常心保てると思ってます?!睨むどころの話じゃないっての!!
だってこの人、一緒に来いって…ひとりで、たったひとりで行くのだろうと思っていたのに、私を連れて行きたいって…言った?
「連れて行って、くれるの…?」
「お前の情報収集能力は買ってるからな」
「……ねぇ、また不本意だって思ってるでしょ」
「よくわかったな」
だって前に七武海に入った本当の理由を聞き出した時と、全く同じ顔してるんだもん今!いっくら鈍い人間でも気がつくっつーの。てか、隠すつもりもないでしょ!!
うがーっと一通り怒ってみたものの、じわじわと置いていかれない嬉しさが込み上げてくる。それと同時に、他のクルーを差し置いて自分だけが行っていいのかと思ってしまう。キャプテンと離れたくない・ついていきたいと願うのは、私だけじゃない。
「ここで調べるには色々と無理があってな。その際、お前の力が必要だ」
「そう言ってくれるのは素直に嬉しいです。ありがとう」
「どういたしまして。…だが、誰にも姿を見られるな」
「はい?」
「誰にも姿を見られるなと言ったんだ。秘密裏に動け」
いやいやいや…無茶苦茶言うね?!キャプテンの無茶ぶりには慣れたつもりでいたけれど、全然だわ!全然慣れてないわ!
ええ〜…?情報収集をしろ、でも誰にも見つかるなって…そんな高度な技術、私は習得してないよ?人よりちょーっと耳がいいくらいだけの話で。人の気配も探れないことはないけど、限度ってものがあるしなぁ。どうしろって言うんだ、この人は。
首を傾げながらうんうん唸っていたら、怪訝な視線を向けられた。ちょっと、変な人を見るような目はやめてくれないかなぁ…私がこうなってる原因、キャプテンなんだからね?好きで唸ってるわけじゃないんだってば!
「お前、聴力が異常にいいだろう。それを生かせ」
「そりゃあ、人よりはいいと自負しちゃいますけど…」
「だからそれを生かせと言っている。…できるだろ?」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべたキャプテン。本当にこの人は…こう言えば私が断らない、とわかっててやるんだよね。タチが悪いったらありゃしない!…まぁ、悪い気がしないのも本当なんだけどさ。
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