素直じゃないのは知ってます


船長とリズの関係がギクシャクとし始めて、そろそろ3日程。
もちろん、全く会話をしてないわけじゃねェんだ。何か用事があればリズはそろそろと近寄って声をかけてるし、船長もリズを呼び止めて用事を頼んだりとかしてる。ただ今までと違うのは、リズが満面の笑みを浮かべて船長へ突進していっていないこと。暇な時に傍にいないこと。メシの時も隣に座っていないこと、などなど…挙げてみればキリがないような気がするな。

 side:シャチ

あの人はわかりにくいようで、わかりやすいのかもしれない。いや、普段はほんっとクールで表情がそこまで変わる人じゃない。荒れる心情をひた隠しにしてしまう性分なんだと思う。そりゃ焦りの表情を浮かべることは、少なくはないけど。
でも、…今回みたいな嫉妬っていうか、そういうマイナスの感情っていうか…独占欲って言えばいいのかな。明らかに船長が邪魔だって思ってしまうような感情を、表に出すことってほとんどねェんだよ。うまーく隠して、昇華しちまうんだよなぁ。
だけど、今回はちょっと違う。苛立ちとか、嫉妬とか、そういう感情を僅かではあるけど表に出してるんだよね。そこそこわかりやすく。…っていっても、表面上は普段と何ら変わりないように見えるから、気がついてるのは少数だと思うけど。あと当人は自覚してるのか、それが一番の謎だったりする。特に船長。

「船長って案外、わかりやすいっすね」

珍しく食堂でコーヒーを飲みながら読書中の船長に、そう言葉を投げた。無視されるかもって思ったけど、ウチの船長はそんなことをしない。急に何を言い出すんだ、と言いたげな視線を向けられたし、不機嫌そうに眉間にシワも寄ったけど、無視だけはしないんだよな。ほんっと優しいと思う。
んー…でもこの反応じゃ、リズへの気持ちを自覚してるのかどうかはわかんねェな。おれ自身、大事な部分を言葉にしてないし。まぁ、カマかけてるような感じなんだけどさ。

「…急に何だ、シャチ」
「ここ最近の船長が不機嫌な理由っす」
「別に不機嫌なつもりはねェよ」
「えー?そんなこと言っちゃいます?そりゃ気がついてるのはごく少数ですけど…リズとギクシャクしてんのも」

アイツの名前を出した途端、取り繕うことが殊更上手いはずの船長がピタリと動きを止めた。こう…ビシッと固まるような感じで。マグカップも当然、その振動で揺れて中身が零れそうになった。大丈夫だったみたいだけど。
あー、ここまで船長が焦りを露わにしてるのも珍しい。思わぬ指摘だった、ってことかな…ほんの少しの違和感に気がついていなければ、今のおれのように指摘するクルーなんざいねぇから。

「リズの奴、凹んでますよ?船長に近づけないって」
「……知ってる」
「知ってるなら構ってやればいいのに。アイツが船長至上主義なの知ってるでしょ」

向かいに腰を下ろし、立て続けに言葉を紡いでいけば船長は溜息を1つ吐いて本を閉じた。お、はぐらかされるかと思ったけど、この感じだと真正面からつき合ってくれる感じかな。

「近づけないように振る舞ってるつもりは、ねェ」
「はい」
「ただ、……アイツにどう接したらいいか、それがわからねェだけだ」

船長曰く、どうにも腹が立って仕方がないそうだ。その怒りが誰に向けられているものなのかもわからず、どう飲み込めばいいのかもわからず、その結果、今に至るそうな。あー…これは、自覚しているようなしていないようなって感じかなぁ。
おれの予想だと腹が立ってるのは、リズが麦わらんとこのコックにレシピを教わったことだと思うんだよな。ペンギンにそれを船長に話したらしいって聞いたし。その後から機嫌が良くなくて、目も合わせてくれないってことだ。つまり、十中八九それだろう理由は。

「船長はさ、自分の心の変化を自覚するのは嫌いっすか?」
「は?」
「おれは―――いいと思うんすよね、そういうの」

頬杖をついてニッと笑みを浮かべれば、船長は珍しく目をまん丸にして驚いているみたいだった。

「お前の話は、脈絡がない」
「そうでもねェって。…ローが自覚してれば、脈絡のある話だし」
「…珍しいな、そっちの呼び方をするのは」
「まぁ、今はクルーとしてでなくてローの友人として話してるつもりだから」

おれ達は海賊だ。いつ命を落とすかわからない生活をしているし、ひとつの場所に留まるわけでもないから、色恋沙汰が面倒だっていうのもわからないでもない。おれとしては可愛い女の子と遊びたいけどな。特に船長の容姿なら、引く手数多だろうし。
けど、この人はそういうことをしない。それはきっと、昔っからだと思う。フラッと夜の町に消えていくこともないわけじゃないけど、おれ達に比べれば圧倒的に少ないと思う。

「認めるのが怖いのはわかるけどさ、そういう変化って悪いことだけじゃねーってこと」
「一応、覚えておいてやるよ。…友人からの言葉として」
「ははっそーしてもらえると助かるよ、ロー」

ねぇ、船長。おれ達が望むのはアンタの幸せと笑顔なんすよ。ただそれだけなんすよ。
今すぐ素直になれって言ってるワケじゃねぇけど、いつか―――…その気持ちを認めてあげてくれ。大事なものを、その手から取りこぼしてしまうことがないように。

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