仕方がないと、笑うしかない


 side:ロー

無礼講だ、とよく言うものの、些か羽目を外し過ぎじゃねぇのかと半目になる。だが、そうなる理由も理解はできるから何も言わないでおくことにした。
ジョッキに残っていた麦酒を一気に飲み干し、賑やかな食堂を後にするべく立ち上がる。ペンギンかシャチ辺りには声をかけておくか、と思ったが、どこからどう見ても泥酔してんな。あれは話しかけても通じやしねぇ。まぁ、船を降りるわけじゃねぇし…声なんざかけずとも問題はねぇか。
食堂を出る瞬間にふっと視界に入ったのは、テーブルに突っ伏して眠りこけてるリズの姿。その顔があまりにもアホ面で、けれどどこか嬉しそうにも見えて―――思わず笑みが零れた。

自室に戻り、新しく手にいれた本やクルーのカルテやらを広げて確認しているうちにかなりの時間が経っていたらしい。近づいてくる気配に視線を上げれば、時計は夜中の3時を指していた。
思っていた以上に集中しちまっていたか…グッと凝り固まってしまった背中を伸ばす。ところで、こんな時間に誰が来やがったんだ…全員、かなりの量の酒を飲んでいたからまだ眠りこけててもおかしくないんだが。
誰だ、と声をかければ、かなり小さくではあるがリズの声が聞こえた。アイツ…ぐっすり眠っていなかったか?一度寝ると、そうそう起きるような奴ではなかったはずだが…珍しいこともあるな。嫌な夢でも見たか?

「お前、寝落ちてたんじゃねぇのか」
「寝落ちてた。さっき目が覚めて、案外スッキリしてたからキャプテンの顔を見たくなって…あと起きてたら、報告もしちゃおっかなって思ったの」
「何もこんな夜更けに、………いや、いいか。おれも目は冴えてる、入れ」
「はーい」

アホか、と正直思ったが、目が冴えてるのも事実だから聞いてしまおうと思ったんだ。まだ寝るつもりも更々なかったからな。
おずおずとこっちを見上げていたリズを中に招き入れ、ドアを閉めた―――んだが、何故かボケッと突っ立ったままだ。今更遠慮してんのか何なのか知らねぇが、面倒だったり嫌だと思っていたら招き入れることも、声をかけることもしねぇんだから深く考えることもないだろうに。
普段はうざったいくらいに積極的なクセして、こういう時は変に遠慮をしやがる。それを悪いとは思わねぇが、調子は狂う。どこを見ているのかもわからないリズの頭を撫で、適当に座れと声をかければゆるゆると目を細めて笑った。
何が嬉しいのか、おれにはさっぱりわからねぇがな。

「あ、それで報告なんだけど…これ、かっぱらってきた」
「海図―――と、エターナルポース?どこの島のだ」
「パンクハザードに一番近い島」
「『パンクハザード』…?」

聞いたことのない島の名前だった。だが、リズ曰くその島で『シーザー』という男が薬を作っているらしい。その薬の行き先は、『ジョーカー』と呼ばれる男。
そうか…そういう繋がりか。おれも秘密裏に調べちゃいたが、まだそこまで辿り着けてはいなかった。コイツに頼むのは心底不本意だったが、今となっては頼んで正解だったのかもしれない。リズの情報収集の腕は、かなり高い。それは昔からで、重宝しているのも確かだった。
これ以上、リズを巻き込むつもりはなかった…元より、クルーを誰ひとり巻き込むつもりはない。これはおれ個人の事情で、問題だ。どうなるかも読めないことに、クルーを嬉々として巻き込む船長でいるつもりはねぇ。だが、…―――そこまで考えて、ギリッと唇を噛む。
巻き込むつもりはない、巻き込みたくはない…そう思うのとは裏腹に、リズの持つ情報収集能力を借りたいと考えている自分がいた。

「…キャプテン」
「なんだ?眠ィなら部屋戻って寝ろ」
「うん、眠い…眠いから、だから」

溜息をつきかけた所で、幾分落ち込んだような声音で呼ばれた敬称。また何か考え込んでやがるのか、と振り向けば、グッと腕を引っ張られてベッドへと引きずり込まれた。
リズの突拍子のない行動にはさすがに慣れたが、さすがにこれにはアホかと思わざるを得ない。呆れの表情を浮かべようとも、掴んだ腕を離そうとしないし起き上がる気配もない。むしろ、ギュッと腕に抱きついてくる始末だ。
こうなった以上、リズは梃子でも動かないだろうな…こっちが折れて、諦めて、受け入れるしか術はない。…アホか、と思っちゃいるが、不思議と嫌悪感はない。ベタベタ触られんのは好まないはずだったんだが、そういえば一度もリズに引っつかれて嫌だと思ったことはない気がした。

「ったく…仕方ねぇな、お前は」

余程眠かったのか、おれを引きずり込んですぐ寝息を立て始めたコイツを緩く抱きしめ、大人しく目を閉じることにした。

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