無意識恋慕
「…ピアス?」
「そう。選んでほしいなって」
クルーよりも大分遅めの朝食を食べているキャプテンに、ずっと頼みたかったことを話した。ベポくんにあと2日程で次の島に着くよ、って教えてもらったから、頼むんだったら今かなーって思って。
「なに?リズ、ピアス買うのか?」
「うん」
「だが、開けてねぇだろ。お前」
「キャプテンが開けられるでしょ?」
「おれ任せかよ…」
そりゃあ自分で開けるより、医者である貴方に開けてもらった方が確実だし、何よりも痛くないと思うんですよね。ココアを啜りながらしれっと言うと、キャプテンはおにぎり片手に大きな溜息。隣に座っているシャッちゃんも苦笑気味だ。
えええ…私、そんなにおかしなこと言ってないよね?確かにキャプテン任せにしてはいるけどさぁ…変に自分でやって大変なことになったら、それはそれで絶対に怒るじゃん。この人。それは嫌だもん、キャプテンに怒られて嫌われたくない。
「はぁ…仕方ねぇな」
「船長もリズには甘いっすよねぇ」
「うるせぇ」
「やった!キャプテン、約束だからねー」
「わかった」
いつの間に食べ終わってたんだ、あの人。綺麗になったお皿を今日の当番であるペンくんに渡し、ごちそーさんと告げて食堂を後にした。しっかりコーヒーも持って。
にししっでも無事に約束取り付けられたぞー!穴開けてもらえるし、ピアスも選んでもらえる!今度の島はどんなお店があるかな。買い物が早く終わったら、少しくらい辺りを散策できるだろうか。
キャプテンと一緒に島へ下りるのは久しぶりだから、今から楽しみで仕方がない。まだあと2日もあるのに、今日の夜から眠れそうにないなぁ。ワクワクしちゃって。
「あいっかわらず船長大好きね、リズは」
「ん?うん。でもシャッちゃんも好きでしょ?キャプテン」
「そりゃあな。この船に乗ってる奴は皆、船長のこと好きだろ」
「にししっ私だってそれと同じだよ〜」
「ふぅん……」
何だか納得いってないような反応を示したシャッちゃんが、じーっとこっちを見ている。何か言いたげなのに、口を開くこともなく。でも視線はそのままに、コーヒーの入ったマグカップを傾けているだけだ。
うん、一体なんなんだよシャッちゃん。こっち見んなとは言わないけど、ただただ無言のまま見つめられるのは居心地が悪い。それがいくら心を許している仲間だとしても、だ。段々と視線を逸らしてしまうのも仕方がないことだと思うんですよね。
「〜〜〜なんなんだよシャッちゃん!」
「いんや?無自覚なんだなーって思っただけ」
「無自覚?誰が?キャプテン?」
「さあ?誰だろーな」
えええ…なんだよ、それ。もーシャッちゃんも時々、よくわからないことするよなぁ。
これ以上は何も喋る気がないらしい彼は、ごちそうさま〜と言いながら食堂を出ていった。…無自覚って、何の話だっつーの。
「リズ、準備できたのか」
「アイアイ!万端だよ、キャプテン!」
キャプテンに約束を取り付けて2日後。ベポくんが言っていた通り、島に到着しました!
そこそこ大きい島だからきっとピアスもいいやつを見つけられるだろうし、見つけられなかったとしてもキャプテンと散策できるだけで気分は最高です。
「あれ、船長が出かけるの珍しいですね」
「コイツの買い物につき合わされるだけだ」
「ははっいってらっしゃい。気をつけてくださいよ」
「…誰に言ってんだ、ペンギン」
「大丈夫だとは思いますけど、念の為ですよ。念の為」
ペンくんはキャプテンの隣に立ってる私にもいってらっしゃい、と手を振った。それが嬉しくて手を振り返してから、キャプテンと2人船を下りる。さて、ひとまず中心部に行けばいいのかな。地図があるわけでもないから、どんな島なのかがわからない。こういう考えてもわからない時は、行動あるのみ!だ。
行こうキャプテン、と腕を引いて歩き出せば、珍しく溜息を吐かれることもなくて。おお、と感動しながら彼を見上げてみると、僅かに口角が上がっているような気がした。今日は機嫌がいいのかもしれない。キャプテンが私との散策を楽しみにしてくれているわけがないけれど―――さっきつき合わされるだけってペンくんに言ってたし―――どんな理由であれ、機嫌が悪いよりいい方が嬉しいもんね。
「で?買うもんは見当つけてんのか」
「んー…あんまりジャラジャラしてないのがいいな。ひっかけたら大惨事になるし」
「だろうな」
「だからシンプルなの…キャプテンがつけてるのと似たようなのがいい。てか、私キャプテンに選んでって言ったじゃん」
聞かれたから普通に答えちゃったけど、そもそも私はキャプテンに選んでほしくって連れ出したんだ。ムスッとした顔で反論してみても、キャプテンは涼しい顔でそういえばそうだったな、って言うだけ。大して気にしている様子もなくって、ちょっとだけムカツク。私が拗ねようが怒ろうが、いつだってキャプテンはこんな感じ。
まぁ、拗ねたことは多々あれど、キャプテン相手に本気で怒ったことはまだないんだけどさ。でもさー、ちょっとくらい悪びれたり焦ったりしてくれてもいいと思うんだよなぁ。…って思ったけど、あたふたするキャプテンなんて想像できそうになかったです。きっとこの人は、何があっても然程動じない人なんだと思う。そういう所がまた私達クルーの心を掴んで離さないんだけどね。
にしし、キャプテンは一体どんなピアスを選んでくれるんだろう?
「…この島、平和なんだねぇ」
「この辺りの治安は悪くねぇらしい。だが、グランドラインに近づいてきているからな…この先はそうそうねぇだろう」
「もうそんな所まで来てるんだ?」
「ああ。グランドラインに入るまで…あと島が2つといった所か」
静かにキャプテンが告げた。そっか、グランドラインまでもう少しなんだ…確かにノースブルーでかなり暴れて名も知れて、更に言えばキャプテンもついに賞金首になったわけだし。そしてクルーの数も増えた。もうグランドラインに入っても問題ないだろうってことなのかな。というか、多分そのつもりで進んでいるんだと思うんだけど。『ひとつなぎの大秘宝《ワンピース》』を狙うと言っていたキャプテンが、グランドラインに入らないっていう選択をするとは思えないし。
それを考えるとグランドラインに入るまでにピアスを買いに来れて良かったかも!入っちゃったらゆっくり買い物とかしにくくなるかもしれないしね〜。まぁ、賞金首であるキャプテンと買い物に行くってこと自体が間違っているのかもしれないけど…今回ばかりは許してもらいたい。そして騒がれないことを祈るばかりだ。連れて来た張本人である私が言うのも何ですが。
「何をボーッとしてる。行くぞ、リズ」
「アイア〜イ」
ほけっと考え込んでいたら、いつの間にかキャプテンが数メートル先にいた。どうやら私が隣にいないことに気がついて待っててくれたみたい。置いてかれてもおかしくないのに、こういう時のキャプテンは一度は声をかけてくれる。気が向けば手を引いてくれるし、こうやって待っていてくれることもあるのだ。
気が向かない時は、問答無用で置いていかれるのだけれど…ラッキーなことに私はまだその気が向かない時に当たったことがない。運はそこそこ良い方なんです。多分。
「あ、雑貨屋さん!キャプテン、あそこ入ろう!」
「わかったからはしゃぐな、うるせぇ」
「どんなのがいいかなぁ…」
ドアを開けて中に入ると、それはそれは可愛らしい内装だった。あ、キャプテン鬼哭持ってるじゃん…内装に全くそぐわないじゃん。いや、何があるかわからないから船を下りる時に刀を置いてくる方が危険だから、持ってきてもらって全然いいんだけど!お店の人がビックリしないといいなぁ、と切実に思う。…というか、キャプテンの雰囲気と合わないお店入っちゃったよね。絶対。
チラッと見たキャプテンは居心地が悪そうというか、完全に不機嫌になってます。眉間のシワすごいっす、キャプテン。でも約束は約束だし!そもそもキャプテンが選んでくれれば買い物は即終了するわけだしね、それまでの我慢だ。ファイト〜キャプテン。
「男もんと女もんだと全く違ェな…」
「そういうもんじゃないの?男物を好んでつける女の人もいるとは思うけど」
「お前なら、……」
何か文句の一つでも言われるかと思いきや、陳列されているピアスをまじまじと見ていてちょっとビックリ。頼んでおいて何だけど、適当に選ばれるかなぁって思っていた節があって。それでもキャプテンが選んでくれたものだったら、どれだけ適当に選ばれたものでも宝物になるからって思ってたんだけど…これは、想像以上に真剣に選んでもらえそうな気配です。
うわ、めちゃくちゃ嬉しいかも…!自然と頬も緩んじゃうなぁ。真剣な顔で選んでくれているキャプテンにニヤけているのがバレぬよう、そっと店内へと視線を移す。マグカップや様々なアクセサリー、髪留め…あ、カバンも売ってるんだ。色々あるなぁ。
海賊だからもちろん海軍や、他の海賊との戦闘は日常茶飯事だ。そういう時にネックレスとかブレスレットとか、邪魔でしかないから一度もつけたことがないけど、こうしてちゃんと見てみるとやっぱり可愛いなぁ。そりゃあ世の中の女の人達は、こぞってアクセサリーつけるよねぇ。可愛いものって、何て言うんだろう…無条件でテンション上がる。うん。
「…でもガラじゃないよねぇ…」
「なにブツブツ言ってやがる。こっちを向け」
「ぅお?!」
「……お前、本当に女か?」
「思いっきり人の首捻っておいて、言うことはそれだけかキャプテン…!!」
「色気がねぇ」
だから!いきなり人の首捻っておいて!!更に追い打ちかけるような言葉言わないでくれますかね?!思いっきりやってくれたもんだから、グキッていったよグキッて。いきなりやられたんだから、とんでもない声くらい出るでしょ。女だからって可愛らしい悲鳴が出ると思ったら大間違いだと思うんですよ。
「で、なに?てか、普通に呼んでくれればいいんじゃないの…?」
「呼んだ結果だ」
あ、そう。もう何でもいいや…キャプテンの性格は知ってるつもりだし、これ以上言っても仕方がないことだと思って諦めよう。そして用件は何ですか。答えなかった彼に再度問いかけようと開いた口は、マヌケにもそのままの状態を維持されることになった。
なんでって?キャプテンが急にほっぺたに触れてきたからだよこの野郎…!突拍子なさすぎる行動に思わず固まるしかできない。口はあんぐりと開けたまま。そしてほっぺたに触れた手が滑り、下ろしたままの髪を耳にかけた。
うん、ほんっとなに?!何で私はこんなにドキドキしてんの?!
「ああ、これだな」
「……あい?」
「あ?」
「いや、聞いてんのこっち……ピアス?」
「お前が選べと言ったんだろう」
あ、はい。そうですね。というか、商品を投げるなよまだお金払ってないんだから!!
慌ててキャッチしたピアスは青と灰色の石がついている、シンプルなものだった。へぇ、違う色の石がついてるなんて珍しい…でも、うん、綺麗な色。灰色の石なんて初めて見たけど、銀色っぽくも見えて面白いなぁ。そして髪を耳にかけたのは、色が合うかどうか確認する為だったんだね。それならそう言ってくれればいいでしょうよ…!
「キャプテンってほんっと読めない…」
「お前はわかりやすい」
「…嬉しくねーです」
「だろうな。もう少し鍛えろ」
「どうやって?!」
初めて言われたよ、そんなこと!勢いで言い返せば珍しくキャプテンが楽しそうに笑い、さっき自分で私に投げ渡したピアスを引っ掴んでスタスタと店員さんの元へ。流れるように行われたそれに反応なんかできるはずもなく、我に返ったのはキャプテンがお金を払っている真っ最中でした。
ちょっ選んでとは頼んだけど、買ってくださいなんて一言も言ってないんだけど私…!!!自分で買う気満々で来たのに、なにしてくれてんだこの人はぁ!
「ちょっちょちょっキャプテン!!」
「ほらよ」
「あ、ありがとう…じゃなくて!」
「相変わらず騒がしいな、リズ」
「そうさせてるのは誰だと思ってんだ、コラ」
またもや投げ渡されたピアスをしっかり握り、ぐぎぎと歯を食いしばる。
「船に戻ったら開けてやるから失くすなよ」
「失くさないよ、宝物にするんだから」
「……お前は本当に欲がねぇ奴だな」
―――昔から。
そう呟いたキャプテンの声音は、とても優しかった。
(ペンくん、シャッちゃん、ベポくん見てみて!)
(あっリズ、ピアス買ったの?)
(うん!キャプテンに選んでもらったの)
(いーじゃん、似合ってる)
(灰色と青ねぇ……)
((キャプテンのこれは自覚ありなのか、違うのか…判断つかねぇわ))
- 8 -
prev|back|next
TOP