負の螺旋


「いったいなー、コレ」
「当たったら服も体も溶けちまうみてぇだからな」


ですよねー。
せっかく貰った服は焼け焦げて、すでにボロボロ。…可愛かったのに。
それに屋根もないのに、こんなに降り続けられたらボロボロにもなっちゃうよな。
良かった、先に小狼くんを逃がしておいて。こんな中じゃ逃げることすら難しかっただろうし。


「…ん?」
「どうした」
「上から秘妖さんとは別の、強い力を感じる…あのバカ息子かな」
「もしかして小狼くんと対面中かなー」
「あー、可能性は高いかな。…しゃあない、僕も行ってくるよ」


正直、この雨の中にいるのが嫌なだけなんだけど。…だけど、バカ息子に彼が時間を割くくらいなら…僕が相手をしてやる。
魔力を使うため、再び髪と瞳の色が変わる。―――血の色のような、紅に。


「上まで行ける?小狼くんみたいに黒ぽんに飛ばしてもらうー?」
「魔法使うから大丈夫。…また後でね、2人とも。モード、護り。"ウインド"、"ジャンプ"!」


風で体を浮かせ、ジャンプで跳躍力を上げる。
足に風を巻きつけてあるから、空中でも足場代わりに出来る。…じゃなきゃ、上まではさすがに上がれないからね。


『…逃がさんぞ、娘』
「あら、怖い。でも捕まらないよ」


小狼くんが蹴り砕いた穴までもう少し…の所で、あの珠が飛んできた。しかもどでかいのが。
殺す気満々ですか、秘妖さんや。
それでも簡単にやられるわけにもいかないけどね。


「緋月ちゃん…っ!」
「ご心配なく。モード、破壊。"クラッシュ"」


2人に降り注ぐ雨はまた増えちゃうけど…ごめんなさいね?死ぬわけにはいかないの。
飛んできた珠はパァンッと弾け飛び、僕はそのまま穴の外へと抜けた。

あの2人なら死ぬわけないとは思うけど―――


「死んだら、笑ってやる…」
『今度はこの手で葬ってくれる!!』
「(声が聞こえる…ビンゴ、かな)」


―――カツン…

歩みを進めれば、対峙している小狼くんとバカ息子。
うーわー。町で見た時よりごっつくなってるよ。更に見苦しくなった感じ。
強い力も感じるし、あれは体に秘術を施してあんのかなー。
そうじゃなきゃあんなに急に体が変化したりしないだろうしね。


「…モコナ、離れててくれるか?」
「小狼…」
「いや、モコを連れてそのまま先に進みなさいな」
「何だ、お前!」
「緋月、さん…?」
「ほーら、早く。此処は僕に任せときなさいって。…さっさと羽根を取り戻して、次の世界に進むよ」
「…はい。気をつけて下さいね」
「そりゃこっちのセリフー」


モコを連れて駆け出した小狼くんを見送って、バカ息子に向き直る。


「…あの子を追いかけて潰したいんだったら、さっさとかかってきなさいな?…バカ息子」


ニヤリと笑って人差し指をちょいちょいと動かせば、顔を真っ赤にして突っ込んできた。
…本当にバカね。こんな安い挑発にのるなんて。

さぁ、アンタはどこまで僕を楽しませてくれるのかな。


―――ゴォ!
―――ドゴォンッ!!!


「ぅわお」


たかがパンチ1発。それだけのはずなのに、壁が抉れました。
なぁーるほど…力は有り余るほどにあるってことだねー。だけど―――


―――ドゴッ
―――ゴッ
―――ガァンッ!


命中率は低い、と。
1つ1つの動きが大きいから、読みやすいんだ。だから簡単に避けられる。


「どうした!威勢が良かった割には、さっきから避けてばっかりだな!!」
「いちいちうるっさいなー…」


さて、どうしたもんかなぁ?
魔法を使って応戦するのもアリだけど、あんまり使いすぎると体力の消費が激しいし。
そもそも!このバカ息子に魔法を使うのは、かーなーりもったいない。

体術に自信がないわけではないけど…果たして通用するのかしらね?この筋肉バカ息子に。
…ま、考えるだけ無駄か。やってみなきゃわからないっての。やるだけやって、ダメだったらまた別の手を考えればいいだけだ。
結果がわからないうちからそんなことを考えちゃうなんて…僕らしくないよね。

―――タン…ッ

軽く跳躍して、持ったままだった棒を頭上で構え直す。
それを脳天目掛け…思いきり振り下ろした。


「でやっ!」

―――パシィッ

「そんなぬるい攻撃が俺様に効くと思うかぁ!!!」
「は…っまだまだぁ!!」


簡単に掴まれることくらい、わかってたっての。一番重要なのは…そこからどう攻撃を仕掛けていくか。それだけだ。
棒を握った手はそのままに、あご目掛け膝蹴りを繰り出す。
最初の攻撃を止めたことで僕が怯むとでも思ってたんだろ…簡単にゴスッと入った。少しは効果アリ、かしらね?


「この…っ舐めやがってぇっ!」

―――ガシッ

「しま…っ」


油断してたのはあっちだけじゃない、僕もだ。
1発蹴りが入っただけでコイツが倒れるわけないのに、しくったなー…!

蹴り上げた足を掴まれて、そのまま壁に向かって投げられた。
受け身を取ったけど、時すでに遅し。体が、壁にめり込んだ。


「っあ……!!」
「さっきは油断したが、やっぱり親父の秘術は無敵だ!!」
「ゲホッ…粋がるんじゃないよ、父親の力に頼ってるだけのクセに…」
「何ィ?」


バカ息子だけじゃない…父親も"何か"の力に頼ってるだけじゃないか。
僕はゆらりと立ち上がり、相手を見据えた。面倒だ、さっさと決着をつけてやる。


「そんなボロボロの体で何が出来る!女のクセに、非力で何も出来ないお前が俺様に勝てるはずがないだろう!」
「クス…アンタ、本当に吠えるだけしか能がないバカ息子だね?」
「何だと?!」
「女だから、非力だから…それが何?だからって、アンタに勝てない理由にはならない!」


そう言ってニヤリと笑みを浮かべてやれば、さっきみたいに簡単に挑発に乗ってくる。だからバカ息子だっていうのよ…。

飛んでくる拳を避けて、棒を薙刀の要領で横に薙いだ。
脇腹にヒットして、バカ息子が微かに呻いたのが目の端に映る。


「これで終わり…モード、破壊。"エクスプロージョン"!」


棒の先端に言霊を乗せ、鳩尾に突きを一発。
魔力が加わった突きは巨体も何のその。いとも簡単に吹っ飛ばすことが出来る。


―――ズキィッ

「ぅあ…!(やっぱり…破壊魔法を3回連続で使うと、体への反動が大きいな…)」


背中も、頭も痛い…立っていることができなくて、僕はその場にズルズルと座り込んだ。
せめて、頭痛がある程度治まるまでは動けないや…血も流してるからか、眩暈がひどい。


「へへ…でも、一矢報いたよー」
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