02


「誰かいます」
「僕が感じた強い力、あの人から感じる」


砂埃が完全に晴れ、全体像が見えた。
そこに座るは美しき女性。シャラ…と綺麗な音が聞こえる。女性が身につけている装飾品の擦れる音だろう。


『よう来たな、虫けらどもめ』


…のっけから虫けら扱いされるのってどうなのさ。
すごく綺麗だけど、人ではないんだろうな。だって不気味な程に、美しすぎる。顔立ちもどこか人間離れしているようで。
所謂、アヤカシ…とかそういう類なのだろうか?よくわかんないけど。


「誰だ?てめぇ」
『ただか百年程しか生きられぬ虫けら同然の人間達が、口の利き方に気をつけよ。と、言いたいところだが、久しぶりの客だ。大目に見てやろう』
「何言ってんだ?とりあえず、さっさと領主とかいうのの居所を吐け。面倒くせぇから」
「黒ぷん短気すぎだよぉ」
「ほーんと。少しは会話する寛大さを持とうって気はないのかな」
『面白い童達だ』


ほめられちゃったーってファイくんが喜んでるけど、「童」ってガキって意味じゃなかったかなー…。
あ、黒鋼くんがやっぱりツッコミいれてる。


「この城の中に捜し物があるかもしれないんです。領主が何処にいるか教えて頂けませんか」
『……良い目をしている。しかし、その問いに答えることはできんな。それに此処を通すわけにもいかぬ』
「えっと、それはーオレ達を通さない為には、荒っぽいコトもしちゃおっかなーって感じですかねぇ」
『その通り』


刹那。景色が変わった。

さっきまでいたのは殺風景な部屋だったのに、今は―――頭上にあるは晴れ渡った空。眼下に映るは大きな池。
その周りに聳え立つは、光を灯す街灯のようなものと様々な長さの岩。
僕達はその岩の上に立っている。この空中に浮かんでる珠は何なんだろ…水?


「…幻か」
『いいや、秘術だ。幻は惑わせるだけだが、私の秘術は…ただ美しいだけではないぞ』


ピンと弾かれた珠は、真っ直ぐ小狼くんへと向かう。
でも顔の前で組んだ腕に阻まれ、珠はパンッといとも簡単に割れた。
やっぱり、ただの水…だよね?
だけど、それは間違いだと気がつくのに時間はかからなかった。


―――ジュウゥゥ…

「……溶けた」


これがただの水だったら、服を溶かすわけがない。
けれど…現に小狼くんの服は溶けた。ってことは…酸で出来てるのか、この珠は。
周りには数え切れないほどの珠が浮かんでいる。
きっとこれは、彼女…秘妖さんが秘術で作り出してる物だろうから、無限に在り続けるだろうな。


「あははは…これはちょーっと厄介な敵みたいだねぇ」
『私の秘術によって出来た傷は、全て現実のものだ』
「ってことは大怪我をするとー」
『死ぬ』

―――ゴォッ

「ぅわっ!何かいっぱい来たー!」


秘妖さんが両手を上げれば、それに呼応するように珠が僕達目掛けて飛んできた。
全員バラバラに避けるけど足場がひどく悪い。
上手く避けないとあの珠にやられちゃうし…何発もくらい続ければ、その先にあるのは"死"だけだ。
飛んでくる珠避けつつ、新しい足場に着地した時。ジュッと何かが焼けるような、嫌な音が辺りに響いた。


「小狼くん?!」
「く…っ!足が!!」
『この池も、この珠と同じもので出来ている。そして、この中に見えるもの全てが本物とは限らない』
「池に落ちたら溶けちまうってことかよ!」
「そういうことみたいだね!しかも、どの足場が偽物かもわからない」


このまま素手でいたんじゃ、いつまで経っても避けることしかできない。避けてるだけじゃ…何も変わらないよねぇ。武器を、調達しますか。

キョロリと視線を動かせば、ちょうどいい物をはっけーん!
ちょっと遠いけど、足場を借りれば何とかなるよね?


―――タンッ…

「?!てめ…っ」
「ごめん、黒鋼くん。ちょっと背中借りる!」
「「ひゅー」緋月ちゃんすごいねー」


黒鋼くんの背中を借りて、大きく跳躍。お願い、一発で壊れてよね…!

―――バキィッ

くるんと回って放った蹴りは、狙い通り街灯の柱に当たった。
メキメキと音を立てたそれはそのまま折れて、ただの棒へと成り代わる。
1本は自分で、もう2本は彼らへと放り投げる。


「ありがとー、緋月ちゃん。これで触らずに珠を壊せるよ」
「ふん。女もたまには役立つじゃねぇか」
「もう少し素直にお礼は言えないわけー?」


会話を続けたまま、黒鋼くんはいくつもの珠を壊していく。
ふぅん?やっぱり彼の戦闘に関する能力は並外れてるなぁ…さっきまでとは大違いだ。
さて…僕も負けていられないな。
いまだに止まない攻撃の手。珠をいくら壊し続けても、数は一向に減らない。
むしろ増えていってるようにも感じて。


「さて、此処でずっと玉遊びしてても仕方ないよねー」
「まぁ確かにね。埒があかないし」
「うん。小狼くんーモコナと一緒に先に進んでー」
「まだ決着はついていません」
「大人数でかかってもあんまり効果なさそうだからねー。それに足が動くうちに先に進むべきじゃない?」


キミには、やるべきことがあるんだからさ。こんな所で時間を使ってる場合じゃないんだ。
もし、秘妖に勝てたとしても…傷ついた足が使えなくなったら、何も意味がない。
だったら、まだ動いてる今のうちに領主の元へと進むべきなんだよ。
姫さんの羽根を取り戻したいと願うのは、他の誰でもない。
小狼くん。キミの願いなんだから。


「大丈夫。此処は黒ぴーが何とかするから」
「また俺かよ?!」
「…さ、行っておいで。小狼くん」
「…ありがとうございます」


さて…まずは此処から出る方法だけど。スッと上に神経を集中させれば、微かにだけど力が弱いような感じ。
この部屋自体が秘術ならば、壊せるはず。それも…小狼くん程の蹴りの持ち主なら尚更、ね。
ファイくんも同じ考えだったみたいで、上を指差して僕が思っていたことと同じことを彼に説明している。
…あ、でもすごい高いよね?ただジャンプしただけじゃ届かないよな…。


「緋月ちゃん、緋月ちゃん。ちょっと相談ー」
「え、あ、はい」


ファイくんに来い来いと手招きをされ、近寄ってみれば始まった内緒話。
内緒話といっても、この距離じゃ普通の声の大きさで話しても秘妖の耳に届くことはないだろうけど。

内容は、小狼くんを上まで飛ばす方法。

彼1人では上まで行くのは至難の技。だから黒鋼くんと僕の力が必要なんだーとファイくんに言われました。
断る理由もないし、僕は言われた通りに魔力を使う準備に入る。


「何で俺が…!」
「いーから、さっさとやる!小狼くーんっ」
「はい、行きます」

―――タッ
―――トッ

「ったく…準備はいいか、小僧!女!」
「大丈夫です」
「ん、いつでも来い」


―――ブンッ

小狼くんが乗った棒を、黒鋼くんが思いきり振る。


「モード、護り。…"ウインド"…」


その言霊と共に、一筋の風が吹いた。
軽く、でも力強く吹くその風は、跳躍した小狼くんの体を更に上へと飛ばす。だけど…まだまだ。
これで終わりじゃないよ?


「いっくよー、小狼くん!」
「はい!」
「モード、破壊。…"ブレイク"!」


小狼くんの鋭い蹴りに、僕の軽めの破壊魔法を上乗せすれば。
天にひびが入り、大きな穴を開けた。
よっし、大成功ー!!


「3人共カッコいいー「ひゅー」」
『一人逃がしてしまったのだな。仕方ない。残った童に少々、灸(ヤイト)をすえるとするか』
「灸…?」


浮いていた珠が割られ、ザァーッと酸の雨が僕達へと降り注ぐ。


「なかなかマジなピンチだねぇ」
「あっはっはっは!…面白くなってきたじゃん」
「…ふん」
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