02
「走って!!」
「小狼くんっそのまま真っ直ぐ行って!」
「お前も走れ!潰されるぞ!!」
―――グイッ
「ぅわ…っ!」
「まあ、相手するより逃げちゃった方が早いよねぇ。キリがないっぽいしー」
走って、避けて…そこら中で石が壊れる音が響き渡る。
小狼くんと姫さんを狙った二体の石像が、しゃがんだ彼らの頭上で激突した。さっすが小狼くんだ。咄嗟の判断が早いよね、やっぱり。
そして、また走る。奥へ、奥へ―――それと同時に姫さんの羽根の波動が、どんどん近くなっていく。
道の最果てに、空間が歪んでいる所があった。
そこから感じるのは、姫さんの羽根の波動と、魔力に近い力―――。
「緋月さんっモコナ!」
「合ってる!そのまま真っ直ぐ!」
「うん!サクラの羽根に近づいてるよ!」
歪んだ空間を通り抜けた先にあったのは、砂漠に覆われた遺跡。
そう…小狼くんと姫さんがいた国、玖楼国だ―――。
「玖楼国って小狼とサクラがいた国だよね」
「ええ…」
「玖楼国に戻って来たのか?」
「モコナ、移動してないよ」
「『記憶』……」
「…緋月?」
「あの『記憶の本』の中にある、姫さんの記憶だと思う」
「あの本はサクラちゃんの羽根の力で出来てる。だから、本を守る為の仕掛けもサクラちゃんの記憶で出来てるんだよー。ね?緋月ちゃん」
「うん」
これも…魔法の一種。
ファイくんはまた、ちょっと勉強していればわかることだって言っていたけれど…そんなはずないんだよ?
そんな簡単なものではないんだ、この守りは。
黒鋼くんもそれが気になってるんだろう…目つきが厳しくなってる。
「何か言いたいことありそうな感じだねぇ、黒りんた」
「…さっきの壁といい、ちょっと魔法をかじったくらいでわかっちまうことが守りになるはずねぇだろ。
仕掛けを見破るには、仕掛けた以上の力が要る。それも魔法とやらは使っちゃいねぇみてぇだしな」
「買いかぶりすぎだよぅ」
「……嘘くせぇ」
彼は本当に鋭いんだ。ファイくんもそれを恐れているような、感じがする。
…俯いてしまった彼の傍に寄って、そっと頭を撫でてみた。彼が震えているように見えたから。
「ありがと、緋月ちゃん。…んとに黒様って、いらないトコばっか見てるんだから」
「黒鋼くん程…鋭い人、いないと思う」
「あはは、ほんとだよねぇ」
ファイくんの手を引いて、皆の後を追いかければ。姫さんが遺跡の壁に手を置いて、懐かしそうに見つめていた。
どうやらやっぱり此処は、彼女の記憶の中にある玖楼国の遺跡と一緒みたいだね。
彼女の話によると…遺跡には発掘隊の人達がたくさんいて、皆良い人ばかりだったみたい。その中でも色んな国を巡っているっていう、考古学者の先生がとても優しい人で。
…その話を聞いていた小狼くんの顔が、曇っていた。
そっか―――その考古学者の先生は、キミのお父様なんだね。
お父様の記憶はあるのに、自分に関する記憶は何一つ思い出してもらえない。悲しいよね…大切な、大切な人なのに。
きっと、姫さんのお兄様が遺跡に行くのを咎めたのは…彼女が小狼くんに会いに行くことが、悔しかったんでしょう。
僕の推測でしか、ないけれど。
この遺跡には―――姫さんの思い出がたくさん詰まってるんだろうな。優しい記憶も、悲しい記憶も、楽しい記憶も…たくさん。
それは小狼くんも同じなんだろうけど、思い出せば思い出すほどに彼は辛いと思う。
共有出来ないから、どんな手を使っても。
「…お前まで、辛そうな顔をするな」
「うん…わかってる、わかってるんだけど―――この優しい空気は、少し痛い。彼のことを思うと…悲しすぎるなって」
「緋月が背負い込む感情じゃねぇだろ。それは小僧の感情だ」
―――ポンポン…
「そう、ね…ごめんなさい」
「何を謝る必要がある。…行くぞ」
「…はい」
更に奥へ進んでいけば、また波動が強くなる。
さっきよりも強くなってるから、近いんだと思う。波動の強さも安定してきているし。
この先にあるんだ、姫さんの羽根が入っている『記憶の本』の原本が。
階段を降りた先は拓けていて、羽根のような画が彫ってある床が目に入った。羽根の波動はこの下から感じるんだけど、どうやって行くのかはわからないなぁ。
扉って感じもしないし、魔力も感じないから…。どうしよう。とりあえず近づいてみればわかるかな。
「…うん、やっぱり此処が一番強いな。この下で間違いないとは思うんだけど…」
吸い寄せられるように近づいた時、強い力で後ろに引っ張られた。
誰?とか、何?とか色々頭に浮かんだけど、地震のような強い揺れと、ゴゴゴゴという地響きに思考が奪われた。
「何だ?!」
「あ、あれ…僕、もしかしなくても危なかった?」
「ギリギリだったな」
「あはは…ありがと、助かりました」
ただの床だと思っていたのに、何か…仕掛けがあったのか?
羽根のような画が、淡い光を放ち始めた。