囚われの魂


「う、ん……」


いつの間に眠っていたんだろう…。
不意に浮上した意識は、まだぼんやりとしていて、昨日の出来事が上手く思い出せない。
昨日は確か、黒鋼くんが出て行った後にファイくんにしばらく抱き締められてて…その後はどうしたんだっけ?壁に寄り掛かって、膝を抱えていたような気がするんだけど。

…いくら思い出そうとしても、その後のことが全くわからない。
それはつまり、眠ってしまった…ってことなのかなぁ?

あれ?そのまま眠ってしまったんなら、僕は座ったままのハズだよね?でも今は体が横になってるみたい…一瞬、ベッドに寝かされてるのかと思ったんだけど、視界の端に小狼くんの背中が映って。
だから、床で横になってるっていうのは間違いないみたい。


「(その割には、体が痛くないな…あと頭も)」
「…起きたか」
「黒鋼くん……?」


しばしの沈黙。もしかしなくても、また僕は彼に膝枕をしてもらってるのですか?


「少しは眠れたみてぇだな。具合はどうだ」
「あ、うん…大丈夫。あの、何故にまた膝枕?」
「あいつらと話が終わって帰ってきたら、てめぇが床で丸くなってやがったからな」
「そう、なんですか…」


まさかとは思うけど、この状況…ファイくんの差し金じゃなかろうか。
彼は僕の気持ちを知ってるし、からかい半分・面白半分でやってきそうだもの。でもまぁ、彼なりの気遣いっていうのもあるのかもしれないけどさ。

ようやく頭が覚醒してきた。体を起こして周りを見渡してみれば、ファイくんの姿が見当たらない。
まだ朝のハズだけど、一体何処に行ったんだろうか。


「ファイくんは?」
「此処の奴らに呼ばれて、外に出てる。直に戻ってくるだろ」
「ふぅん…」


うーん、と伸びをしてからまだ眠っている姫さんと小狼くんの様子を見ようとベッドに近寄った時。
小狼くんのようで、小狼くんではない…レコルト国での違和感をまた、感じた。無意識に動いた彼の手は、黒鋼くんの腕を掴む。


「…小僧」
「違う、彼じゃないよ」
「前の国で本を手に入れた時、現れた奴か」

…誰だ?

『ずっと待ってた。……小狼』


抑揚のない声。感情の感じない表情。冷たさしか、感じない瞳。
目の前にいる小狼くんは、あの時と同じ…僕達の知らない『彼』だった。


「小狼くんとサクラちゃん、起きたー?」


ゆっくりと振り向く、冷たい瞳。いつもの彼じゃないと、ファイくんも気がついたみたい。
名前を呼んでも、何も答えずに…ただ無表情でこっちを見ているだけ。

―――マズイ…!

咄嗟に動こうとした時、不意に彼に意識が戻ったんだ。
何が起きたのかわからなかったんだけど、どうやら黒鋼くんが小狼くんの腕を強く握ったみたい。
その突然の痛みで、自分を取り戻したみたいね。…良かった。


「…黒鋼さん、ファイさん…緋月、さん…」


少しだけ、僕達を沈黙が包んだけど…すぐにいつものファイくんの声が響いて、ホッとした。


「おはよー。暗いけど、朝だよー。熱は出なかったみたいだけど、どう?具合はー」
「あ、はい。大丈夫です」
「そういえばファイくん。その持ってるの…なに?」
「これ、此処の人達が貸してくれたんだー。
でね。此処にいるつもりなら、これ被ってやって欲しいことがあるんだってー。ちょっと大変そうだから、小狼くんは休んでて……」
「いえ、行きます。羽根のことが何かわかるかもしれないし」


ふふっそうだよね。小狼くんはそういう子。無理をしないように、って言っても聞かないような。
…でもそれがキミの良さだからねぇ。別に咎めはしないんだけれど。
ファイくんから服を受け取った小狼くんは、カーテンで仕切られてる一角に向かった。その後姿を見つめながら、ファイくんは口を開いた。


「……あれ、小狼くん…」
「じゃないよ」
「さっきが初めて?」
「いや、前にもあった」
「本人、自覚はないみたいだね」
「……」
「(レコルト国でも、そうだったな)」
「何だか…凍ったみたいな目だった」


普段の小狼くんからは考えられないくらいに、冷たい瞳。
失わないで、と…強く願ってみるけれど、タイムリミットが着々と近づいているのもわかっていた。

今はか細い糸で繋がっている、彼の心。でももう―――時間が、少ない。
繋ぎ止められるかどうかは、誰にもわからない。わかるわけがない。
叶わない願いかもしれないけれど、それでも願わずにはいられないんだよ。キミと彼女の―――幸せを。


「黒様、緋月ちゃんお願いがあるんだー」
「あぁ?」
「?どうしたの」
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